ギルドマスターとララミスの種 その7
エヒムの指示にしたがって森をすすむイバラーク一行。
その道中、アキータは薬草類の採集に勤しみ、イバラークは襲い掛かるモンスターを追い払っていた。
「なんで仕留めないのよ!? アイツの角、いい薬になるのに!」
「うるへー! 俺の勝手じゃ!!」
「あの~、いい加減うるさいです・・・・・・」
モンスターがうようよしている森のダンジョンで大声を出して歩いているので、次から次へとモンスターが寄ってくる。
熟練のハンターならこの十分の一の遭遇率で済んでいるだろう。
あまり人が入らない上級者向けのダンジョンなので、動植物もモンスターも鉱物も何もかもが豊富だ。
特にモンスター。
イバラークとアキータがうるさくしながら移動してくれるおかげで、もう森の全ての種類のモンスターと出会ったんじゃないかというくらいに様々なモンスターに遭遇した。
来るもの拒まず去るもの追わずといった具合にイバラークはさばいていった。
慣れてしまったのか、アキータもエヒムですらもモンスターと遭遇しても平気で探索をし続けるようになった。
エヒムは目的のララミスの種以外の種も採集し、一部の植物は根ごと掘り起こして採集した。もちろん大きな木は採集できないが、イバラークからしたら雑草に見える持ち運びが容易なものを中心に採集している。
アキータは薬草のほか、動物やモンスターの死骸からも採集している。さすがに鉱物は重量の問題で採集していない。しかし、その顔を見るともったいないという思いがあるのが見て取れる。
「アキータ、ララミスの種を採集したら帰りは持てる範囲で採っていってもいいからな」
「そのつもりよ」
顔に出ていたのが恥ずかしかったのか、アキータは顔を背けた。
エヒムは微笑む。
何かとケンカばかりしているが、イバラークはちゃんとアキータの事もよく見ている。
農業はできないが、ギルドマスターとしての能力はちゃんと持っているのだとエヒムは思う。
もちろん農業ギルドのギルドマスターなのだから農業に詳しいほうが良いが、農業に詳しい事がギルドマスターの条件ではない。
ギルド員が仕事をしやすくする。それがギルドマスターの仕事である。
その点、イバラークは十分にその職務を全うしているとエヒムは思うのだ。
ギルド員が何を考えているのか、何に困っているのか、何を求めているのか。
イバラークはそれをよく見ている。
そして、それにイバラークはちゃんと応えているのだ。
土地を与え、家を与え、技術を与え、仕事を与えた。
それらはギルド員に夢と希望というチャンスを与えている。
エヒムは『長男に生まれなかった』だけで、『自分の土地と力で農業を営む未来』を与えられなかった。
それでもエヒムは夢見た。
だから彼は家と『飼われて生きる未来』を捨てた。
与えられないのなら、自分で手に入れるしかない。
不安だった。
『飼われて生きる未来』は『生きられる未来』だった。
それを捨てたのだから、『生きられる未来』以外の未来がごろごろと転がっていた。
『いつ死ぬともわからない未来』は十歳の子どもには恐怖以外の何者でもない。
だからイバラークに出会ったあの日、本当に救われたと思った。
このチャンスを絶対に手放すものかと思った。
自分を見出してくれたイバラークのためにも。
イバラークに農業の知識がないのなら、自分がその分を埋めればいいとエヒムは思う。
イバラークがイバラークでいてくれればそれで。
「エヒムぅー、助けてくれよ~。魔女がいじめるんだ」
「いい大人が十歳児に助けを求めてるんじゃないわよ。いいから、あなたは私にいじめられて悦んでなさいよ」
「・・・・・・」
イバラークがエヒムの背に隠れてアキータを指さしている。
口ではアキータにかなわないのだろう。
とうとうエヒムに泣きついてきた。
「・・・・・・さぁ、頑張って見つけましょうね! ララミスの種!」
「ちょっ、エヒム!? なんでアキータに俺をさしだす!? ・・・・・・あ、らめぇ!!」
無言のままアキータはイバラークの鼻の穴に、先ほど拾った物体Xを詰め込む。
臭いが強烈だったのか、イバラークは連続でえずいた。
「・・・・・・あれですね」
涙目のイバラークを無視して、エヒムは森の一角を指さした。
その先には白い花が群生していた。




