ギルドマスターとララミスの種 その5
ひと悶着あった農業ギルド一行だったが、仕方がないのでそのままララミシアの森へ探索に入る事になった。
森に入っていきなりガイアウルフというモンスターに襲われたが、イバラークに鼻の穴を指でほじられて逃げていった。
その数六頭。
エヒムより大きな狼種だが、イバラークにはかすり傷一つ付ける事ができなかった。
なんというか、本当に農業以外は何でもできる男だった。
「イバラークさん、さっきのモンスターって強そうだったんですけど、危険度ってどれくらいなんですか?」
モンスターには危険度といわれるものが設定されている。
単純な戦闘力の他、及ぼす影響力も加味されて付けられるランクになる。
例えば、戦士ギルドの上級ギルド員が一人で戦ってなんとか勝てる程度のマグマグモというモンスターがいるが、これがランク5である。
そして戦士ギルドの中級ギルド員が二人で余裕で勝てるトゲネズミというモンスターもランク5に設定されている。
このトゲネズミ、マグマグモより戦闘力ははるかに劣るが、繁殖力がすごい。どれくらいかというと一月もあれば倍に増えるくらい。
なんなら、戦闘中に産気づくやつもいるくらいだ。
一回の出産で軽く十を超える子どもを産む。
おまけに産まれてすぐに普通に動けるので、数の力が半端無い。
ランクの下限は1だが、上限は作られていない。
で、先ほどのガイアウルフはというと。
「ガイアウルフ、ランクでいうなら7だな」
「はい!?」
ランク7だと戦士ギルドの上級ギルド員の4人組みパーティで戦うくらいの相手だ。パーティとして連携が取れていない4人組みだったら、全滅してもおかしくはない。
で、それが六頭同時。
エヒムが驚愕するのも当然である。
要するに、戦士ギルドの上級ギルド員4人分以上の戦闘力をこの男は持っているという事だ。
「そりゃ、イバラークさん一人いれば十分ですね・・・・・・」
「余計な足手まといはいらん」
本当は戦士ギルドのギルドマスターなんじゃないかとエヒムは思った。
「どうだ、見直したか!? ヌハ、ヌハ、ヌハハハハ!」
「ちょっ、イバラークさんそんな大声あげないでください!!」
エヒムが呵呵大笑するイバラークを諌めるが、時すでに遅し。
またまた、モンスターに遭遇してしまった。
マクマクという鳥型モンスターである。
木の枝からこちらを見下ろす三対の目。
鋭いくちばしと鉤爪を持ち、すばやい急降下で獲物をしとめる森のハンターである。
子どものガイアウルフだったら、平気で襲い掛かってエサにしてしまう。
「あ~、マクマクだ。ランクは6、きわめて食欲旺盛な鳥だな」
「イバラークさん・・・・・・」
エヒムはマクマクに睨まれているような気がしてイバラークの足にしがみついた。
獲物としてエヒムの大きさがちょうどいいのかもしれない。
だがしかし、獲物たるエヒムばかり見ていたのが仇になった。
死角から跳んできたのもがマクマクのうちの一羽にぶつかる。
それは外見が割れて中身がマクマクの体にぶちまけられた。
不意の攻撃に驚いたマクマクが攻撃者を睨みつけた。
そこには髪の長い女がいた。
手にはさっきぶつけられたものと同じであろうモノが握られている。
「あら、怒ったの? 鳥のくせに私を睨むとか分をわきまえなさい?」
攻撃されたマクマクが怒りに任せてアキータめがけて急降下してきた。
アキータはそれを横に移動してよけると、マクマクは何を思ったか、その勢いのまま地面に激突した。頭から落ちたのでおそらく助からないだろう。
動揺したのは、様子を見ていた他の二羽である。
何が起きたのか理解できず攻撃をためらっているようだ。
その隙に残りの二羽にも正体不明の液体をぶつけられ、その体を濡らした。
混乱の極みであったマクマクは一目散に逃げようと木の枝を蹴るが、羽ばたくことができず地面に落下した。
「どうかしら、衝撃を与えると硬化する液体を体にかけられた気分は?」
どうやら悪魔は戦い方もえげつないようだった。




