ギルドマスターとララミスの種 その4
なにやら人数がおかしい。
そう気付いたのは王都の北に位置するララミシアの森に着いてからである。
「・・・・・・あのぅ、イバラークさん」
農業ギルドの小さな賢者、エヒムが意を決して自分が所属するギルドのギルドマスターに声をかけた。
「わかってる。みなまで言うな・・・・・・」
イバラークは神妙な面持ちでエヒムを制する。
「この・・・・・・箱だろ」
イバラークは木製の大きなかごを持ち上げた。
違うのだが。
「ピクニックに弁当はつきものだからな!! おにぎり作ったぞ、おにぎり! 具は食べてのお楽しみだ。他にサンドイッチも作った! 早起きして作ったんだぞぅ?」
妙にハイテンションだった。
どうやら一人だけどこかに遠足に行くようだ。
今日は例のララミスの種を探しにララミシアの森に探索に行く日だというのに。
このギルドマスターは遠足に行くのだ。
・・・・・・まぁ、しょうがない。
ギルドにきた依頼を受けたのはエヒムたちなので、イバラークが行く必要は無い。
ただし。
「護衛の人達の姿がありませんが、遅れているんですか?」
ギルドに一旦集合した後、イバラークが先導してここララミシアの森の入り口まで来た。
妙にハイテンションなだけで他は何も変わらなかったので、てっきりララミシアの森で護衛の人達と待ち合わせをしているのだと思った。
農業ギルドは王都のはずれにあるので、直接ララミシアの森に集合でもおかしくはないと思っていたのが間違いだった。
「? 遅れてないよ」
イバラークはなに言ってるのこの子、くらいの反応を返す。
「刺しましょう。刺してこの森に捨てるわ」
あまりの状況に固まっていたアキータが口を開いた。
手には大振りのナイフが握られている。
「首だけは持って帰って、依頼人に渡しましょう。下手人の首を渡してその場を治めましょう」
アキータさん、顔が怖い。
「なに、なに、なんで怒ってるの? お腹すいてるの!?」
「イバラークさん、一度刺されるといいんじゃないでしょうか?」
エヒムが天使の笑顔で言った。
セリフを聞かなければ誰もが見惚れる笑顔だ。
「アンタねぇ、護衛がいなきゃこの森で採取できないのはわかってるでしょ!? 護衛がいる前提で話進めてたでしょ!? ホッカイが行かないのは聞いてたでしょ!? 弁当なんてどうでもいいわ!!」
「だから、なんの話をしているんだ!?」
詰め寄るアキータにイバラークが困惑する。
まさか見えない護衛団でもいるわけもない。
「イバラークさん、僕は護衛少なくとも四人は欲しいと言ったんですけど」
「私に嘘ついたわね!! 死んで詫びなさい!!」
二人の非難の目がイバラークをちくちくと攻撃してくる。
アキータに至ってはもうナイフの射程圏内だ。
「嘘ついてないだろ。下級の護衛は雇わない、って」
うん、そうだね、誰も雇ってないものね。
怒りが限界を超えてしまい、表情が抜け落ちたアキータがナイフを投げた。
一直線にイバラークの顔面に飛んできたが、イバラークはあっさり右手で受け止める。
「お、おま、危ないだろう! なにナイフ投げてんだよ!?」
「ウルサイシネ」
無表情なのが逆に怖い。
感情の抜け落ちた話し方も恐ろしい。
「イバラークさん、まさかとは思いますが護衛って・・・・・・」
「俺」
親指で自分を指差したイバラークは、自信満々に言い放った。
読んでくださる皆様、いつもありがとうございます。
わたくしの活力元は皆様が読んでくれる事です!
最近は事務員のトトリちゃんが出てきていません。
少しさびしいです。
この農業ギルドはエヒムがいないと農業できない人達が集まっているので、エヒムの出番が多くなるんですよね。
頑張れエヒム。負けるなエヒム。
まだララミスの種編続きます。
お付き合いの程、よろしくお願いします。
 




