ギルドマスターとララミスの種 その3
「何が悲しくてそんな金にならない事をしなきゃならないのよ」
はい、ごもっとも。
「ララミシアの森は中上級の冒険者が行くダンジョンよ。命の対価としてその報酬じゃ普通は受けないわ」
はい、ごもっとも。
「よく確認もしないで勝手に依頼を受けたのはアンタでしょ」
はい、ごもっとも。
「アキータさん、依頼人からの報酬は少ないですが、身の安全が確保できているなら貴重な動植物が結構採取できるので、副次的に利益は出ますよ」
いいぞ、エヒム、もっと言ってやれ。
一言も発する事ができないイバラークにエヒムの援護が入る。
さすがにエヒムの説得には説得力があるので、アキータが計算に入る。
「・・・・・・いいわ。私もついてってあげる。で、身の安全の方はどうやって確保するのかしら?」
「ギルドの経費で戦士ギルドまたはハンターギルドから護衛を雇います。少なくとも四人は確保してもらいます」
「まさか下級ギルド員なんてよこさないわよね? そこのボンクラ」
鋭い視線がイバラークを貫く。
イバラークはこくこくと頷く。
「さすがのイバラークさんも下級ギルド員を護衛として雇うなんて事はしないでしょう。ララミシアの森の攻略難易度はイバラークさんも知っているはずです」
イバラークはこくこくと頷く。
「ホッカイじゃないんだから喋りなさいよ。で、ホッカイは行く?」
ここはホッカイの家なので当然ホッカイもこの場にいるのだが、彼も一言も発していない。
いつもの事だが。
ホッカイは首を横に振った。
そして自分の畑の方を指差す。
「確かにアンタ、ここのところずっとつぼみを眺めてたわね。あと少しで咲きそうだから行かない、と」
こくこく。
デフォルメされた二頭身ホッカイがうっとりと空中を眺める。
花が咲いたところを妄想でもしているのだろうか。
アキータとしては、ホッカイさえ来てくれたら護衛なんて雇わなくても大丈夫なんじゃないかと思っていたのだが、当てが外れてしまった。
残念だがしょうがない。
お土産になにか持って帰ってやろう。
アキータは普段からホッカイの家に居候している。
ホッカイは嫌な顔もせずアキータを置いているので完全に住み着いてしまっている。
特に何かを要求された事もないので、こんな時くらいはなにかホッカイの為にしてやろうと思ったのだ。
「ホッカイさんって強いんですか? 色々規格外な人なのは知ってますけど」
鍬を振るうと衝撃波が出たり、垂直に跳んで軽がる家の屋根に上ったりと規格外ぶりをエヒムは何度か目撃している。
アキータやイバラークたちの会話の中で、前は剣士だったような事は聞いているが、どのくらいの腕前なのかはわからない。
「ハーポーンの外れにある村を盗賊団が占拠した事があるの。王都から距離があるから、警備隊が来るまでに事を終えて撤収できると踏んだみたいね。30~40人くらいだったらしいけど、たまたま通りがかった剣士があっという間に殲滅。おかげで村人は怪我人が出たものの死者なし。
その翌年だったかしら。王族が他国の王族と会談があるからと旅に出たけど、どこで情報が漏れたのかとっていた宿泊所が襲撃された。たまたまその宿泊所を尋ねてきた剣士が異変に気付き襲撃者を撃退。暗殺者は相当な手練だったみたいだけど十人以上いた暗殺者の半分以上をしとめた。
助けられた王族というか、ハーポーン国王はその剣士に礼をするべく事態が落ち着いてから剣士を探したわけ。そしたら一年ほど前にも辺境の村を救ったのがその剣士だ、と。多大な功績とその腕前を高く評価し、白翼褒章を贈る事に決定。さらに騎士取立て。が、それを剣士は辞退した。国王の面子もあるから、という事で白翼褒章は受け取ったものの、騎士にはならなかった。
その剣士は誰か言うまでもないわよね?」
アキータが言うのだから本当の事なのだろうが、すごい経歴だ。
特に暗殺者の撃退は、盗賊を蹴散らすのとはわけが違う。
盗賊団はピンキリだが、国王暗殺のための暗殺者はそうはいかない。
絶対にしくじる事ができない任務なので、そこには最上級の人員を送り込むはずだ。
事実、国王には護衛がいたはずなのに、ホッカイが助けなければいけない事態になっていたのだ。
国王を守る騎士よりも強い暗殺者を撃退するほどの腕前という事だ。
エヒムはホッカイを見た。
するとホッカイは変な反応をした。
怯えるように視線を逸らす。
「どうしたんです?」
ホッカイの武勇伝に心拍が上がっていたエヒムだったが、ホッカイの反応にいぶかしげにホッカイを見た。
「・・・・・・そんないいもんじゃない」
その顔はとてもつらそうで、泣きそうな顔だった。
エヒムは理解できなかった。
アキータも同じ顔をしている。
「なぁ、人間って自分の肘って舐められないんだってよ」
だからなんだろう。
なんでこの流れで自分の肘を舐めようとして変な顔と体勢をしてるんだろう。
つってるし。
イバラークが悲鳴をあげながら転げまわっているのでこの話題は終わりになった。




