ギルドマスターはドラゴンとお友達
昨日はエヒムの家でゆっくりとさせてもらった。
一昨日はホッカイの家だったが、アキータが一緒だったのでゆっくり休めなかった。
アキータはあまりに相性が悪い。
イバラークは一昨日の事を思い出して嘆息する。
しかし、今日は違う。
床で寝たがそんなのは全然問題にならない。
その代わりエヒムが少しげんなりしていたが。
これからオサカの家に向かうのだが、その前に寄り道をする。
「よう、シニオレ」
『今日も元気そうだな、小僧』
巨大なドラゴンがイバラークを見る。
ドラゴンのシニオレ。
旅の途中の中継地としてここで休んでもらっている。
ドラゴンは体が大きいので、一回の食事は多いものの、一度食べればしばらくは食べなくても生きていられる。
喉を潤すために池のほとりに舞い降りたのだが、たまたまそこはエヒムの土地だった。
彼にとって見ればイバラークなど小僧である。
ドラゴンは長命だ。
ドラゴンの種類にもよるが、古竜種は千年単位で生きる。
シニオレは古竜種ではないが、それでも人に比べればずっと長生きである。
『今日も来たのか。おぬしは暇なのか?』
「暇じゃねぇよ。これから新しいギルド員のところを視察に行くの」
まだオサカは農業を始めたばかりなので、そんなに変わりはないと思うが、一応。
あと、家の様子が気になる。
『ほう。話は変わるが、エヒムの坊はなかなか優秀だな。小さい体でよくやる。話していても鋭い所を突いてくる。知識欲もある。アキータの嬢と同じだな。言っても嬢は薬、坊は農に対してだがな』
アキータは最初からだが、吹っ切れたエヒムも積極的にシニオレの話を聞きに来ていた。
ドラゴンは長命ゆえに様々な知識を持っている。
研究に行き詰った賢者が、古竜の知識を求めて命がけで会いに行く事も無い話ではない。
だいたいは会うまでに命尽きる事が多いのだが、幸か不幸か、目の前に竜がいるのだ。
知識を求める者にとっては千載一遇のチャンスである。
「まぁ、確かにエヒムは拾い物だったと思うさ。あれで案外苦労してるんだぜ? 隣国のイングレイシスの豪農の次男坊なんだが、跡取りは長男でよ。ゆくゆくは土地やらなにやら全部兄貴が継いで、次男のエヒムは長男の土地で小作人になるしかなかったらしい。それも、自分の思うように作物を決めたり量を決めたりができないらしい。なかば使用人の扱いだよな。で、ここハーポーンまで一人で旅してきたんだとさ」
『人にもしがらみはあるものだな』
「なんだ、ドラゴンにもあるのか?」
シニオレは自嘲気味に笑う。
『ドラゴンは力を持っているのでな。力でねじ伏せようとする輩はいる。相手が誰であろうともな』
シニオレはドラゴンの中ではまだ穏健派なのだろう。
力に任せた生き方のドラゴンが相手なら人間ごときと話などしない。
人間など話すより叩き潰すほうが無駄がない。
そして、相手が人間でない、そうドラゴン相手であろうとも力ずくで物事を成すのであろう。
そんなドラゴンばかりではないのだろうが、少なからずいるのだろう。
「さて、さっきも言ったように今日は新しいギルド員のところの様子を見に行くからこれで失礼する」
『うむ』
シニオレはもたげていた首を下ろし、居眠りを始めるのだった。




