エヒムはギルドマスターのせいで気が気じゃない
今日も良い天気です。
ドラゴンがいます。
僕の家より大きいです。
このドラゴンの気が変われば僕の体など一瞬で消し炭にできるのでしょう。
今はまだ、生きています。
「お~い、誰に向かって喋っているんだ~」
「イバラークさん、僕はこの状況が理解できません。なので精霊様に訴えているのです」
「ははは、エヒム君はもっと賢い子だって、おいちゃん知ってるよ?」
「そうですね! イバラークさんよりは賢いと思います!!」
エヒムにはなんでそんなに穏やかに笑っていられるのか分からなかった。
「ははは、言うようになったなぁ、こいつぅ」
イバラークはまるで緊張した様子も無くエヒムをつんつんしている。
他にも理解できない事が。
デフォルメされた二頭身ホッカイが恍惚の笑みを浮かべてドラゴンのお腹あたりをすりすりしている。
頬ずりまで始めた。
理解できない。
あと、口は悪いかもしれないけど、危険に対しては真面目だと思っていたアキータが、普通にドラゴンと話をしている。
心臓に棘でも生えているんだと思う。
彼女の事も理解できない。
エヒムは理解できない事を理解する事をやめた。
「あぁ、もう! 僕だけ怯えてびくびくしてるのが馬鹿らしくなりました!!」
せっかくなのでエヒムもホッカイの真似をしてみた。
ドラゴンの鱗はひんやりして硬かったが、嫌な感触ではない。
とても滑らかで磨かれた宝石のような質感だ。
少しホッカイの行動が理解できた気がする。
続いて今度は思い切って話しかけてみる。
「あの、こんにちわ。僕はエヒムと言います」
『うむ、我はシニオレだ』
「ええと、これどうやって話してるんですか?」
『魔法に決まっておる。見た所エヒムはまだ子どもか。ならば知らぬも道理か。我等ドラゴン種はドラゴン独自の魔法を使う。ドラゴン種は言葉をつむぐのに適した体の構造ではないからな』
「ええっ、これが魔法なんですか!? 初めて見ました!」
驚きと興奮で恐怖が吹き飛んだ。
魔法といえば精霊魔法というのがエヒムの常識だった。
何故なら人間は精霊魔法しか使えないからで、使える人間もほとんどいない。
大国に一人いれば良い方で、魔法が使えるような人材なら国は破格の待遇で迎え入れる。
精霊魔法はその名の通り、精霊の力を借りる魔法だ。
つまり、精霊に認められた者だけが魔法を使う事が出来るのである。
驚いたのは滅多に見ることが出来ない魔法を見た事と、精霊魔法以外にも魔法が存在する事だった。
『我等ほどの体ならば、独自に魔法を編む事が出来るのでな。人間の体では同じ事をしようとしてもまず編む事が出来ん。編めたとしても体が耐えられずに爆散するであろう』
なんか怖い事を言われた。
爆散って。
「でも、ごく一部ですけど、魔法を使う人がいますよ?」
『精霊の力を借りるものの事か? あれなら、魔法を編むのは精霊ゆえ人の負担は少ない。少ないだけで無いわけではないがな』
凄い。
ドラゴンというのは博識なのだと改めて実感するエヒム。
アキータがこのドラゴンと話をしたがるのも理解できた。
アキータの頭脳レベルはこのギルドでは頭一つ抜けている。
彼女の知的好奇心を満たす相手は中々いない。
『時にエヒムよ。お前達はここで何をしておる?』
「あ、はい、僕達はここで農業をしています」
人間慣れというのは凄いもので、あんなに怖がっていたエヒムも素で会話している。
これは非常識人に囲まれた生活の賜物かもしれないが。
『ふむ、農業とな。人が食料を育てる事だな。このような地で生き物を育てるのは困難ではないか?』
ドラゴンをもってしてもこの地は作物を育てるのに不向きな土地だという。
まぁ、ドラゴンは農業などしないが。
「まぁまぁ、シニオレ。だからこその開墾よ。俺達がこの死んだ大地を甦らせるさ!」
イバラークが割って入ってきた。
シニオレはまた可笑しそうに笑った。
『ならば、実りを楽しみにしよう』
「おう」
シニオレが何を思ってそう言ったのかは分からないが、決して揶揄ではなく本心からの言葉だとエヒムは感じた。
なんとなくだが、シニオレはイバラークを対等に扱っているように思う。
それはエヒムの思い違いか。
ドラゴンが一人の人間如きを対等に扱うなど。
でも、そんな思い違いを感じさせてしまうような魅力がイバラークには有る気がする。
ただ、心臓に悪いので二度とドラゴンを挑発するような真似はしないで欲しいとエヒムは思ったのだった。
読んでくださる皆様にまずお詫び申し上げたい!
仕事の関係で更新が遅くなりそうです。
頑張りますが、遅くなると思います。
更新は必ずするのでお付き合いの程をよろしくお願いします。




