ギルドマスターと家無き子
なんとも場違いな客が店に来ていた。
ここは酒を提供する店なのだが、酒の注文は一切無い。
それもそのはず、一人は子どもだ。
店員は知る由も無いが、もう一人は下戸、さらにもう一人は飲めなくは無いが酒に楽しみを見出せない。
天使や妖精と見まごうばかりの美少年(美少女?)と王族といわれても納得してしまうような端正な容姿の青年、そして普通のおっさん。
よく分からない組み合わせだ。
「なんだ、エヒムは家出してきたのか!?」
消え入るような声でエヒムははい、と答える。
面接の時の大きな荷物はそのためか。
「今は寝泊りはどうしてるんだ?」
「天気のいい時はテントで野宿して、そうでない時は宿を取ってます。と言っても、まだ一度しか宿は取ってないですけど」
意外とタフな子どもである。
「ギルド員になれるかどうか分かりませんでしたし、お金はそんなに無いので節約です」
「飯は?」
「野草や木の実を食べてました。実はおなかペコペコだったんです」
恥ずかしそうにエヒムが笑う。
ホッカイは今にも泣きそうな顔をしている。
ぽむ。
普段イバラークにするようにエヒムの肩に手を置く。
力になるぞ、という事だろうか。
「いっぱい食えよ、育ち盛りなんだからな」
そうは言っても、おつまみ程度しか無い店なのだが。
それでも野草や木の実よりはマシだろう。
豆やナッツ類が多く、木の実を食べてるのとあまり変わらない感は否めないが。
「まぁ、何だな。エヒムはまず家を造ろうな。出来るまではとりあえずギルドで寝泊りして良いから」
「え、そんな! そこまでご迷惑をかけるわけには・・・・・・」
「子どもが遠慮してるんじゃねぇよ」
恐縮するエヒムの頭にイバラークの手が乗る。
まだ十歳のエヒムにはその手がとても大きく感じた。
「お世話になります」
「おう」
イバラークが笑う。
頼りになるお父さんみたいで、なんだかくすぐったい。
昼間のふざけている姿とはまるで別人のようだ。
このギルドに来て本当に良かったとエヒムは思った。
「これでウチのギルドは安泰だな! エヒム大先生がいれば初心者ギルド員でも農業出来るね!!」
いまいち二枚目になれない人だなとエヒムは思った。
「大体の事は俺出来るけど、農業だけは出来ないからなあ!! ガハハハハ!!」
なんでよりによって農業ギルドのギルドマスターになったのかなとエヒムは思った。
ドアベルが鳴った。
この時間だから、きっと事務員のトトリさんだろう。
夢と現実の狭間でエヒムは考える。
起きなくては。
「おや、エヒム君じゃないですか? どうしてここに?」
朝日を受ける彼女の姿は神々しいとさえ言えた。
その姿に急激にエヒムの頭が覚醒する。
「あわわわ、おはようございます! 今日からしばらくの間こちらで寝泊りさせてもらう事になりました! よろしくお願いします!」
さっきまで横になっていた長いすの上に正座してエヒムは頭を下げる。
寝起きでもその愛らしさは微塵も失われていない。
トトリは柔らかな笑みを浮かべる。
「そうでしたか。おおかたマスターが何か言ったんでしょうね」
お人好しですから、とトトリは付け足す。
そして彼女は、お弁当と少しの荷物を受け付けカウンターの裏側に置き、ギルドを開ける準備を始めた。
エヒムはこれから広がる希望を胸に、今日も一日頑張るぞと心の中で気合を入れ、ギルドの清掃を手伝うのだった。
読んで下さっている皆様、いつもありがとうございます。
常々思うのは、絵が上手な人って良いなぁという事です。
小説を書いていても、自分の脳内にしかいない人物を描くより、目の前に存在する人物を描く方がリアルに想像できて、話が膨らみやすいのです。
それはきっと読み手もそうなんじゃないかなと思います。
小説の挿絵って小説を二倍にも三倍にも面白くしてもらえる、そんな力が有ると思います。
いつか挿絵を入れてもらえるような小説家になりたいと思います。




