ギルドマスターを襲う聖騎士団の男⑨
ジャーニー(52)
ハーポーンの国王。
見た目は30代くらいにしか見えない金髪碧眼のイケメン王様。
政治の腕は確かで、お茶目な面を持ちながらも抜け目がない名君。
コスカ(33)
ハーポーンの内政担当であり、その一切を取り仕切る。
非常に優秀な男だが、その分苦労も多い。
灰色がかった白髪を肩下で切りそろえた長髪。
切れ長の目は知性を感じさせる。
ほどほどに豪華な玉座の間。
今日の面談予定は全て終わった。
ハーポーン国王のジャーニーは豪華なようでいて実は実用性重視の玉座に深く腰を下ろして脱力する。
「疲れた」
「お疲れ様です。お食事になさいますか? それとも部屋でお休みに?」
内政担当のコスカは非常に優秀な男である。
内政の一切を取り仕切る辣腕で、若干十八の歳から城で内政に携わって十五年。
ジャーニーの一番の側近である。
灰色がかった白髪を肩下くらいで切りそろえた長髪。
切れ長の目は知性を感じさせる。
一方、ジャーニーは既に五十才を超えたが、見た目が若々しく三十代くらいに見える。
金髪碧眼のイケメンで、気を抜いている時のジャーニーはやんちゃなイメージがある。
これでも政治の腕は確かで、抜け目ない政治手腕を見せている。
「ちょっとここでのんびりしてから部屋で休むよ」
「・・・・・・少々お聞きしても?」
玉座から立ち上がる気配が見られなかったので、コスカは世間話程度の感じで話しかける。
「YOUにわからない事が僕にわかるかな?」
いたずらっぽくジャーニーは返す。
確かに、内政の一切を取り仕切るコスカにわからないものなどほとんどないと思うのだが。
「・・・・・・農業ギルドの件です」
「ああ」
稀代の名君はそれだけで察したようだ。
「なぜあれほどの権限をあの男に与えたのですか? 広大な土地を与え、国への税金の免除。果ては商業ギルドのセンディとのパイプまで与えた。というかセンディは内政官に引っ張ってきたい! あんな優秀な奴を一介のギルドマスターごときにしておくとか正気の沙汰じゃない! そうすれば私の仕事はもっと楽になるんですよ!? 何で私が全般的に見なきゃならないんです!? 私の身体は一つしかないっ! お前らも内政官だろう!? 少しは頭使え! 使ってそれか!? 貴様らの頭はカツラを乗せるためのマネキンの頭か!? はっ!? ・・・・・・失礼しました、取り乱しました」
キレイな顔に狂気が差していたが、どうやら落ち着きを取り戻したようだ。
いろいろ溜まっているようだ。
どうにか休みを取らせてやりたいが、皆が頼りにするのでなかなか休みが取れないようだ。
「YOUには苦労をかけるね。センディの件は僕からもお願いしたんだが断られちゃってるからねぇ。あれは優秀すぎるよ。君と同じくらいね。彼をうちの国につないでおけるだけでも儲けモノだ」
ジャーニーは笑みを崩さない。
コスカに言われるまでもなくセンディが優秀な男なのは知っている。
仲間に引き込めないのなら敵にならないようにするのが得策。
話がそれた。
「で、イバラーク君のことだけど。彼の本名は『イーヴルアーク』だよ」
「!?」
「ここまで言えばわかると思うけど、ムルとノゴリアを消したのは彼だ。彼と敵対するなど考えられないだろう?」
コスカが冷や汗をかく。
バカなという思いと、なるほどという思いが同時に持ち上がる。
「正直、『神聖騎士』なんてのは眉唾物だと思ってましたよ。殺生を嫌うムルが戦いを避ける為に誇大で『神聖騎士』を謳っていると」
「精霊魔法の使い手というのも大きいけれど、それだけじゃ『神聖騎士』にはなれないんだよね」
永らくムルと友好を築いてきたハーポーンの国王だからこそ知っている話。
ムルには『神聖騎士』という存在がある。
知勇に優れ、高潔な魂をもつ人格者。
同時に複数の人間がその名を名乗る事はできない。
常に同時に存在するのは一人だけである。
それも世襲制ではないので、亡くなったから次を決めるというわけではない。
ふさわしい人物がいなければ『神聖騎士』は空位となる。
「彼はその『神聖騎士』だからね。彼の先代は百年以上前にさかのぼる事になる」
国二つを無に帰す力を持ちながら力に溺れず、私欲を排除する事ができる人間。
決して驕らず、他者には礼節と尊敬の念をもって相対す。
清廉にして精強。
それがムルの『神聖騎士』イーヴルアーク。
都市伝説のような存在だと思っていた。
大災害直前にハーポーンに来ていたのは知っていたが、ハーポーンも戦争状態で面会する余裕はなかった。
ずっと噂あるいは伝説としてのイーヴルアークしか知らなかった。
「そのイーヴルアークがどうして農業など・・・・・・」
「彼は言っていたよ。けっきょく戦争は飢えが引き起こすのだと。本当の敵は、国じゃない。飢えなのだと。だから彼は飢えや貧困と戦う為に農業ギルドを立ち上げたのさ。うちにとっても悪い話じゃない。まるっきり税収がないわけじゃないし、開墾が困難な土地を勝手に耕してくれてしかもその土地はハーポーンに属するのだから。いくら優遇した所でこちらにはメリットしかないよ」
コスカは優秀な内政官だが、先を見通す大きな視点ではジャーニーには敵わないと思う。
これが王たる器か。
「ふふ、それにあんなのを敵に回したり他の国に取られるよりうちで囲っておくに越した事はないよ。ただでさえ精霊魔法の使い手は彼以外にいないのだから」
「・・・・・・なるほど」
そこまで話してジャーニーは玉座を立つ。
適度に時間も潰せたし、国王を部屋に送り届けたら次の仕事に取り掛かろう。
問題は山積みなのだから。




