家族サッカー
サッカー要素“弱”
フィクション。(こんな家族いなかったんや…)
土曜日の朝、試合開始のホイッスルが鳴る。
主婦の闘いがそこにはある…。
ピー!
私は佐藤麻衣。結婚して七年、苗字もかわった。
試合開始のホイッスルと同時に,
サッカーボールをけり出した。
日々の鍛錬のおかげかドリブルは慣れたもの。
まるで朝息子を起こしながら旦那を起こし、
お弁当を仕込みながらテレビの天気予報を
確認するような、順調な試合の滑り出し。
メンバーは、私がチームリーダー兼コーチ。
旦那の佐藤健太と息子の碧、太陽と
仲のいい近所のママ友達。
家族付き合いのある友人もメンバーだ。
私の父がゴールキーパーで、母は監督。
相手のメンバーは旦那の母と妹、
別勢力のママグループ達で構成されている。
控えに旦那の同僚と上司、
キーパーは旦那の父親だ。
監督として旦那母の姉もいる。
強敵この上ない。
私は平日にこのメンバーと練習試合をする。
しかし今日は土曜の休日、本試合になる。
気合を入れなければいけない。
子供たちを守るのは私しかいないのだから。
「上がってー!」
私が声を張り上げると、
ペースを考えない上の子が走っていく。
思ったより早くて目で追いかけるのが大変!
「もう少し右よ!」上の子への指示に、
旦那が従う。何やってんのよ!もう!
「あなた!横についてよ!」
旦那は言われないと自分が
フォワードだってわからないみたい。
試合は始まったばかり、
早速動き出す旦那の母、佐藤久美子さん。
「あら麻衣さん!」
いつの間に接近を許したのだろうか、
『早朝アポなし訪問アタック』という名の
スライディングが私を襲う!
それを「これから買い物に行きますので!」
とかわそうとするも、下の子の『愚図りング』
で足を取られる!
しまった!朝からテリトリーに入られた!
お母様の「あらあら!」という声が
ことの成功を報告しているようだ。
『お茶フェイント』で様子を見るも、
動きがない…。早く動けよ!そして帰れよ!
旦那母の後ろからヌルっと出てくる
旦那の妹の美咲さん。
「お姉さん、私にはお茶出さないんですか?」
『お茶フェイント』が無限にあるわけがない。
そりゃあ切れるよ、私もお茶も。
後ろを確認するも下の子の太陽だけしか見当たらない。
旦那は?あいつはどこに消えた?
よく見ると相手チームの会社上司からの着信で、
手が離せないようだ。こんな時に…!
旦那上司にはいい顔させておかなきゃ
いけないけれど、ここまで邪魔だと
やはり敵なんだと感じる。
右側から声がする、上の子の碧だ!
私は碧にパスを出す!
ボールと一緒に旦那母と妹が動く。
今しかない!旦那の所に駆け寄り、状況説明!
「碧がお母様と美咲さんを引き付けているの!
あなたも加勢に行ってあげて!その間に太陽と
買い物を済ませてくるから!」
旦那はいやそうな顔をして「しょうがねぇなぁ…。」
と吐き捨て移動する。誰の親と妹なんだ?
太陽の手を引いて走ると、ママ友がいい所に!
「おはよう!朝陽くんのお母さん!」
挨拶をしながら近寄る。
少しペースは落ちるが、協力してもらうためにも
必要な時間だ!
話を聞くと、今日のお昼と夕食は決まっているらしい。
一緒に買い物を済ませ、ボールの位置を
確認するも見当たらない…。
「じゃあこの辺で…。」と、
ママ友は自分のポジションに戻ってしまった。
見つからないボールに不安が膨らむ。
上の子の碧と旦那に任せたところに戻ると、
お母様と妹、旦那と碧が仲良くボール遊びをしている。
私がいない間に、少しでも上がっていると
期待した私が馬鹿だった。
お母様と妹は敵陣だぞ!と目で合図を送る。
合図を受け取った旦那が「おかえり!」
とにこやかにパスをする。
いやいや!パスじゃない!
お母様と妹に帰ってもらえよ!
こっちは暇じゃないんだよ!
案の定私の足元にはボールが転がり、
目の前にはお母様と妹…後ろに太陽。
碧は飽きたのか一人で遊び始めている。
旦那は「コンビに行ってくる~。」だと。
あいつ!ボールを全然上げずにパスしやがった!
サッカーやる気あんのか?
この競技、チームプレイだぞ?
仕方なく碧と太陽と私で『連携パス回し』
をしながら上がっていく。
数分して旦那が帰ってくるも、
パスしていいやら判断がつかない。
攻め悩んでいるところでお母様の
「そろそろ…。」との声が!
ここは抜くチャンスか!
時間は正午を回っている、
はやる気持ちを抑えられない!
掃除もしたいし、洗濯や子供たちのごはんと…。
こっちも“そろそろ”なんだよ!
しかし、焦ってはいけない。
今まで何度こんな日を過ごしてきたことか…。
私はボールに足をのせ、後ろに引き寄せてから
方向を変える要領で、「そうですね、子供たちの
お昼寝の時間だったりで家もやることがあるので、
今日はこの辺で…。」
方向転換は成功した、と思う!ここからは勢いだ!
グラウンドを横に駆け出し、ゴールに向かう!
そんな私にファールすれすれのタックルをする妹!
「お昼ご飯にしましょう!」
『突然の外食打診タックル』を避けたことでボールが浮く!
トラップをして受け取ったのはまさかの旦那!
大事な場面だ、私はサイドに移動しパスを待つ!
旦那はキョロキョロしている!
あ、これわかってないやつだ…。
「パス!」と声がした方向に蹴りだす旦那。
ボールは声の主であるお母様の足元へ。
「食べに行きたいわ~!」
同調する旦那にしてやったりの妹。
子供たちも外食に喜ぶ。
主導権は完全に奪われた…。
着替えを済まし、化粧をすること15分。
どうやら行先はもう決まっているらしい。
私はちょっと大きめのバッグにタオルや、
子供のお気に入りの玩具、
ウエットティッシュなどを詰め込みボールを追う。
お母様と妹と、なんで旦那がパス回しに
参加してんのよ。あんたこっち側じゃないのかよ。
「子供たちは楽しそうよ?」
とちょくちょくタックルする妹をかわしつつ、
子供たちの体調管理もしなければ。
近くのファミレスに着くと、
子供たちが席の奥へ行こうとする。
トイレとか何かと出入りするのだからと
手前に誘導するも、『愚図りング』。
まだ4歳だし反抗期だから仕方ない。
上の子は理解があり、言うことを聞くので
まだマシか。
席順が決まった。
お母様、妹、碧。
旦那、太陽、私。
良かった、今日はまだまともだわ。
店員に最速で注文する旦那、
こういう時はリーダーシップを
発揮するのね。
続いてお母様と妹、子供たち。
ええ、私は最後です。
子供たちをサポートするので、
間で食べれる軽い食べやすいものを選び、
食事を待つ。
「折角の外食なのに、もっといいもの頼んだら?」
「そうよ麻衣さん。」
あーはいはい。
お母様と妹が息の合った短いパスで私をけん制する。
会話の間にいる旦那はこれをスルーパス。
なに笑ってんの?旦那は私を守る気はないんだね。
料理が運ばれて来たら、下の子の
サポートで予想通り食べる隙が無い。
このメニューで正解なんですよ。
食べ終わって立ち上がる面々、
旦那に肩をたたかれる。
そうね、いい顔したいものね。
領収書を取って会計に行く。
その瞬間だけ子供を見てくれるいい旦那。
わかってるかな?
後で小遣いが減るのはあなたよ?
ファミレスで現地解散になることもないので、
全員で家に行く。
子供たちは『お昼寝ハーフタイム』。
旦那が寝室に行こうとする。
「ちょっと!お母様と妹さんはどうするのよ!」
「ああ、適当に…。」
「あんたが相手しなさいよ!
私は洗濯とか掃除とかいろいろあるのよ!」
「そんなに怒るなよ…。わかったって。」
多分私の怒りの蓄積を
旦那はこの瞬間しかカウントしてないんだろうな。
私は今日の出来事すべてをカウントしているんだよ!
私自身が文句や愚痴を言うことも嫌だし、
そもそも時間がないのでボールを奪い返し、
掃除を始める。
当然『お昼寝ハーフタイム』の
邪魔にならないように掃除機は使えない。
周りに気を付けながら慎重にドリブル、
ようやく試合が動き出す…。
お母様と妹を見送って旦那が寝室に。
時刻は午後2時頃に差し掛かる。
午前中に買ったものは食材だし、
今度は日用品とかを買ってこなければ…。
準備をして旦那を起こす。
「買い物行ってくるから、子供たちお願いね。」
「うーん。」
大丈夫かな?心配だけどこの時間の買い物は
重要イベントだ。
ドリブルしながらデパートの前に行く。
朝あった朝陽くんのお母さんと一緒に
もう一人合流する。
この時間にしか買い物ができず、
敵のママ友グループから文句を言われてしまうので
協力して乗り切るためだ。
「こんにちは!結菜ちゃんのお母さん」
「こんにちは!いつも助かるわ!」
「いえいえ、時々うちの子とも遊んでくれるし、
こっちこそ助かるわ!」
協力関係にあることを確認するのも大事。
挨拶もそこそこに、いざ買い物へ。
と、そこに現れるのは敵勢力のママさんたち。
「あらこんにちは~。」
取り巻きも復唱する。
「あらこんにちは~。」
そういうルールなの?
それにしてもどうして敵側は“あら”って
言うのかしら。
探し物が“粗”だからかな?
ディフェンダーの敵ママグループを前に
パス回しで様子を見る私たち。
ストッパーの敵リーダーママが
「いくら近くのデパートでも、
服装はちゃんとしたほうがいいわよ?」
と『指摘チャージング』を仕掛ける!
「ちゃんとっていうのは、
無駄なネイルや盛りに盛った
まつげのことかしら?」と私がかわす。
「流行に疎いんですね。もう若くはないものね!」
敵ママの取り巻きも援護のスライディング!
流石に一人では対応できそうにないので、
パスをして引き離すことに。
気が弱い結菜ちゃんのお母さんにはパスはできない!
ここは朝陽くんのお母さんにパスを!
パスを受け取り言う言葉は!
「いずれあなたたちもこうなるのよ!」
ちがーう!それじゃあ私たちも傷つくよ!
全員で転んでどうするの!
ファールを取る審判なんて勿論いない。
私たちの手で切り抜けなければ!
私はおもむろにスマホを取り出し黙り込む。
着信もメールもないが、右に左にフリックしつつ、
「そろそろ時間なんで、失礼しますね~。」
と言い残しグラウンドの反対サイドに移動する。
毎週のことで、朝陽くんのお母さんも
結菜ちゃんのお母さんも私に合わせてくれる。
その行動に批判を投げかける敵ママグループを
スルーしていく。
本当は遭わないようにすればいいんだけど、
敵ママが結菜ちゃんのおかあさんをターゲットに
しているし、ここで相手のフラストレーションを
少し発散してあげることで後で
効果が出てくるわけで…。
これ以外の方法がないんだよね。
敵ママグループの反対サイドがフリーだ。
チャンスだとばかりにドリブルをしながら
走りこむ。
ママ友達とは買い物終了と同時に解散し、
自宅へと向かう。
自宅に帰ると荷物を冷蔵庫や棚にしまって
子供たちの様子を見る。
太陽と碧は2人で遊んでいるようだ。
「あれ?お父さんは?」
聞いてみると「ねてるー!」…。
え?寝てんの?嘘でしょ?
時刻は午後4時頃。
仕方なく掃除を開始し、
同時に洗濯機を回しながら食事の準備。
埃のことも気になるけど、仕方ない。
夕食のにおいにつられて起きる旦那。
食事が出来るまでは子供の相手をしてくれる。
旦那と子供にとっては、座ってくつろいでいる
“休む時間”なんだろうな…。
私にとってはドリブル中で、
ゴールに向かって一目散だよ。
食事が終わると子供たちと旦那のお風呂。
その間に食後の片づけ。
私がお風呂に入って上がると、
洗濯物干しが待っている。
ここで時刻は午後8時頃。
ようやく旦那とパス回しをしながら
グラウンドを上がっていく。
既に観客はなく、寂しくライトが光るだけ。
この時間だけが旦那と会話するチャンスなのだ。
真剣に付き合ってほしい。
普段寝るのは10時頃。
あと2時間でゴールを決められるのだろうか。
今日あったことを話し、
お母様と妹の訪問をやめてもらうか
せめてアポを取ってからにしてほしいと
ボールをセンターに上げる。
旦那はめんどくさそうに
「今度話しておくよ。」と、
『話をスルー』する。
あんたの後ろには誰もいないんだが…。
「後の話は明日な。」
とユニフォームを脱ぐ旦那。
後ろに転がるボールを見ずに寝室に消えていく。
試合結果は0-0。
暗く広いグラウンドに残された私は、
静かにバウンドする“主導権”という名の
ボールを見つめ観客のいないホールで一人
ため息をつくのであった。
また明日、日曜日の試合が始まる。
試合開始のホイッスルに起こされやはり
お母様と妹が来るのだろう。
毎日つけている日記は黒く荒み、
頭の中は散らかって欲はなく。
しかし、ここで諦めるわけにはいかない。
子供たちがいる限り私は攻めるしかない。
相手ゴールにシュートするということは、
家庭が円満で子育てを協力するということ。
しかし対して、味方ゴールに
シュートが決まるということは、
『離婚届ゴール』なのだ。
わかっているのだろうか。
尻すぼみ感。
前半で全力を出すとこうなるね!
最後まで読んでいただいてありがとうございます!
同時にお目汚し失礼いたしました。