魔王城に単身攻め込んだオッサン勇者、捨てられた魔王の娘を連れて村に帰ったけど、妻と親友がせっせとヤッていたのでしょうがないから誰もいない荒野で魔王の娘とスローライフすることにした……(のプロローグ)
「どうしてこうなったんだ……」
俺の名前はユリウス。
よく「騎士っぽい名前だなw」と言われるが、生憎ただの農民だ。
……いや、農民だった。
俺の平穏な人生が狂いだしたのは、ちょうど今から1年前のことだ。
麦畑が広がる小さな農村で、ただひたすら農業を営むだけの代り映えしない日々。
ほとんどの同年代の奴らは、「王都に行って大金持ちになるんだ!」と言って村を出ていったが、俺はそんな野望持ち合わせていない。このまま平和に生きていきたかった。
17才の時には、同じ村に住む娘と結婚し2人の子供ができた。
妻と子供2人を養うのはけっこう大変だったが、それでも無事に子供たちは成長して俺と妻の元を去っていった。
そんなある日のこと、俺と妻は朝の畑仕事を終え、道の端で昼飯を食べていた。
さわやかな風が麦畑を優しく撫で、まだ青い麦が波を作る。
――――あぁ、平和だ。
「おい、ユリウス! 大変なことになったぞ!」
とつぜん、道の向こうから俺の名を呼ぶ声がした。
振り向くと、昔からの親友がこっちに向かって全力で走ってくるのが見えた。
「どうしたんだ、そんなに慌てて?」
親友は息を切らしながら答えた。
「王都から騎士団が来たんだ! 村人を全員集めろって!」
なにか悪い予感がしたが、言う事を聞かなければ殺されてしまう。
俺たちは、その騎士団の元へ向かった。
親友に付いていくと、もうすでに俺たち以外の村人は全員集まっていた。
騎士の1人に、整列するよう言われ列に並んだ。
「これで全員揃いました! 団長!」
整列するよう俺たちに言った騎士が、前の方で腕を組んでいる団長と呼ばれた騎士に報告した。
「ようやく集まったか。 よし、ここに集まってもらった諸君たちにはいきなりで悪いが、これから魔法適性を計測し、そこで魔法の才があると分かった者には魔王軍と戦う兵士になるため我々と一緒に王都に来てもらう」
突然の命令だったが抗議をする者もおらず、魔法適性のテストは順調に進んだ。
しかし、魔法の才ある者はまったく現れない。
まぁ、みんなこうなるとは予想していた。
自分に魔法の才なんてあるわけがない。
みんなが抗議しなかったのもそのためだ。
魔法を使える人間なんてそうそういない。
むかし国が大規模な調査をしたらしいが、その時の調査結果は、『魔法適性のある人間が生まれる確率は5000人に1人』。
そして今集まっている村人たちは50人余り、魔法を使える幸運な奴がこの中にいるとは思えない。
いや……魔王軍と戦わなくてはならないのだから、幸運というよりむしろ不幸と言った方がいいだろう。
前に並んでいた妻と親友も無事に不合格だった。 残るは俺1人となった。
「お前で最後か……なかなか兵士は見つからないもんだな。 この石に触れてくれ、お前に魔法の才があるなら、この石はお前が触れた瞬間に光り輝く」
騎士団長はそういうと、小さな青い石を俺に差し出した。
俺なんかが魔法を使えるわけがない。
早くこんなめんどくさい事終わらせて、畑仕事の続きをしなければ。
俺は何の気なしに、その青い石に触れた。
―――――瞬間、青い石がまばゆい光を放った。
「こ、この輝きは間違いない! こいつは我々の探していた勇者だ!」
え、なに? 勇者? 兵士じゃないの?
そういうのホントやめてほしいんですけど……。
俺はただ平和に生きていきたいだけなんですけど……。
俺は手で目を覆いながら、これから起こるであろう苦難を想像し絶望していたのであった。
俺は必死に抵抗したが、なすすべなく捕らえられ王都に連れていかれた。
そんな王都で俺が始めにさせられたことは……勉強だった。
少しも理解できない魔法の原理。
やたら難解で長ったらしい詠唱の文句。
同じ魔法を何回も反復して練習させられる実技。
みんなの重たすぎる期待。
何も考えずに、ただただ農業をしていた俺には拷問のようなもの……だったが、すぐにこの勉強も終わった。
なんで魔法使うのに長ったらしい詠唱が必要なんだよ。
最後の1文だけでいいじゃん。
そんなことを思いながら<フャイヤー・ボール>と唱えたら、普通に火の玉(特大)が出たのである。
どうやら俺は、短縮詠唱でも魔法が使えるらしい。
……ちなみに、このとき放った<ファイヤー・ボール>は見事に訓練所の壁をぶち壊し、建物を半壊させたため別の訓練所が用意された。
短縮詠唱でいいと分かった後は早かった。
無駄に長い詠唱を覚えなくて済んだからである。
―――――俺は、王都に来て3週間しか経っていないのに戦場へと送り出された。
魔族たちは強い。
なにせ魔族は人間と違って全員、魔法適性があるからだ。
そのため戦況は魔族側の方が優勢であり、王国の領土は徐々に徐々に侵略されていたのだったが、俺が戦争に参戦するようになってから一気に戦況が変わった。
魔族たちは持ち前の魔法適正をフルに生かし、数十の魔法攻撃を波状的に仕掛けてくるのだが、俺の魔法1発は、魔族の攻撃数千回分の威力があった。
……正直、話にならない。
そんな戦況を知った国王はある日、俺を王城に呼んだ。
なにやら極秘の命令があるらしい。
僕は国王の前にひざまずいた。
左右に衛兵が整列し、赤い絨毯のさきで玉座にふんぞり返っている肥え太った醜い国王。
国王は言った。
「もう戦争飽きたから、オマエ1人で魔王城に攻め込んで魔王の首取って戦争終わらせて~」
あのクソブタ野郎、魔王城から帰ったら絶対一発ぶん殴る!
俺はそう心に誓い、魔王城を目指したのであった。
―――――そんなこんなで今、魔王城の中を走り回っている。
「見つからない……魔王はいったいどこにいるんだ?」
はやく……はやく魔王を倒して戦争を終わらすんだ。
2年前に奪われたあの平和な日常を取り戻すために。
ついでに、クソブタ国王をぶん殴るために。
暗い廊下を突き進み、手当たり次第に扉を開ける。
もうすでに30を超える扉を開けたが、魔王は見つかっていない。
いや、それどころか魔族1人見つからない。
魔王城はもぬけの殻だった。
魔王たちはすでに逃げてしまったのだろうか?
とりあえず、魔法を使って確認しよう。
俺は、『気配探知』の魔法を使い魔王城内の気配を探った。
ツ―――――――――――――ピコン!
魔族の反応が1つあった。
なぜだか分からないが魔王城には今、俺以外に1人しかいないらしい。
『気配探知』を頼りに、俺はその魔族の元へと向かう。
そして、小さな古びた扉の前に着いた。
この扉の向こうに、もしかしたら魔王がいるのかもしれない。
俺はそっと扉を開けた。
隙間から顔を覗かせ、なかを確認する。
木でできた質素なベッドと机。
机の上には1本のロウソクが置いてあり、その小さな明かりだけが部屋の中で揺らいでいる。
そして、部屋の中央には……『大きな熊のぬいぐるみ』。
え? なんなのアレ?
魔王城にあんなものがあっていいの?
ガサッ―――
って、動いた!?
……ちがう、女の子?
最初、ぬいぐるみが動いて焦ったが、よく見るとぬいぐるみの後ろで少女が泣いていた。
罠かもしれないが、なにか行動しないことには始まらない。
俺は泣いている少女に近寄り、声をかけた。
「……どうして1人で泣いているんだ?」
少女がゆっくりと振り向く。
目が合った。
赤い虹彩とそれを包む黒い瞳、間違いなくこの少女は魔族だ。
紫色の髪は、涙で少し濡れている。
……ぬいぐるみのせいで良く分からなかったが、いざ顔を見ると少女はかなり可愛かった。
「みんなが……わたしをおいていっちゃったから」
少女は泣きながら言った。
女の子、1人残していくなんて最低な奴らだな。
というか、なんで女の子が魔王城にいるんだ?
「みんなはどこにいったんだ?」
「分からない……勇者が攻めてくるって全員逃げちゃった」
勇者って……もしかして俺の事か?
そんなご大層な者じゃないんだけどな……。
というか俺の潜入はバレていたのか、色々と魔法使ってバレないようにしたのに。
「……なんで君だけ残されたんだ?」
「……魔法もろくに使えない娘なんていらないってパパが」
「……そうか、それはひどいパパだな――――ん?」
……もしかしてこの女の子、魔王の娘なんじゃない?
「わたし……これからどうすればいいの……?」
少女は俺から目をそらし、再びぬいぐるみに顔を押し付け泣きだした。
……俺もどうすればいいんだ?
俺が魔王城に向かった3日後に、王国軍と騎士団が一斉に攻め入る手はずになっている。
魔族のお偉いさんたちはみんな逃げちゃったようだし、たぶん戦争は人間側の勝利で終わるだろう。
俺がこのまま少女を見逃しても、きっとこの少女には暗い未来しか待っていない。
守りてぇな……。
「……おじさんは勇者さんなの?」
「俺か? ……俺はただの農民さ。 なぁお嬢ちゃん、ここは危険だから俺とお嬢ちゃんと……熊のぬいぐるみで俺の村に来ないか?」
「……おじさんの村に?」
「そうだ」
「……熊ちゃんも行っていいの?」
「もちろん」
「……おじさんの村に行きたい」
「おうよ!」
俺は大きなぬいぐるみを背負い、少女と一緒に魔王城を去った。
―――ぬいぐるみ……重い。
※追記
ストック貯めるといっても実はまだプロローグ含めて2話しか書き終わってないのでどうせだからそれもこれに付け足します(笑……えない)
「そういや、お嬢ちゃんの名前聞いてなかったな。 聞いてもいいか?」
俺は相変わらずぬいぐるみを背負いながら少女と一緒に1本道を歩いていた。
……途中から身体能力強化魔法を使っている。
「わたし……名前なんてない。 生まれた時からあの部屋に閉じ込められてたの……」
……なぜか罪悪感が、すまん。
そういや、魔法がうまく使えないから置いてかれたとか言ってたな。
きっと、同じ理由で名前を付けてもらえなかったり、部屋に閉じ込められていたんだろう。
ったく、クソみたいな父親だな。
「……そうか。 じゃあ、なんか呼んで欲しい名前とかあるか?」
「……なにも思いつかないよ」
「じゃあ、アリサなんてどうだ? 娘ができたら付けようと思っていたんだ。 まぁ、子供は2人とも男だったんだが」
これから一緒に住むのに、名前がないのは色々と困るしな。
娘ができた時につけようと思っていた名前を勧めるのは……1番最初に頭に浮かんだからだ。
「アリサ……それがいい、ステキな名前」
少女は少しだけ微笑んだ。
なんだか俺もうれしくなる。
「よし、これからよろしくなアリサ。 俺のことは――――」
「……パパって呼びたい」
「え?」
―――突然のお願い
アリサはこちらを横目でチラチラ見てくる。
ものすごいチラチラ見てくる。
「う、う~~んそれはちょっと……」
そう答えた瞬間に、アリサはハッとして悲しそうに下を向いた。
「そ、そうだよね……ごめんな――――」
「パパすごい良いと思う! パパ最高! ぜひパパって呼んでくれ!」
「……いいの? パパって呼んで?」
「おうよ!」
「……ありがとう、パパ」
アリサはいままでずっと、あの暗い部屋に閉じ込められていたんだ。
父親の愛情が欲しいんだろうな。
これからは一緒に住むんだし、どうせなら俺がパパ、妻がママになってあげてもいいじゃないか。
これからは出来るだけお願いを叶えてあげよう!
というか、叶えてあげたい!
村への旅が続く。
ちょうど、王都のすぐ隣を歩いているときにふと大切なことを思い出した。
勇者になった俺は、ちゃっかり報奨金を貰っていたのだ。
かなりの額で、何に使おうかと悩んだ挙句、妻や村のために色々なものを買うことに決めたのだった。
それを取りにいかないと。
「ちょっと王都によって妻と村へのお土産を持っていきたいんだ。 一緒にアリサも行こうか」
「わたし魔族だよ……」
「アリサには幻影魔法をかけて、魔族だってバレないようにするから大丈夫だよ。 観光だと思えばいいさ」
「……わかった」
アリサは少し不安そうだった。
初めていく場所、それも敵である人間の本拠地と言ってもいい王都に行くのだ。
いくら魔法でバレないようにするとはいえ、不安になるのは当然だろう。
「心配ならパパの手を握っていればいいさ、ほい」
俺は片手でぬいぐるみを支え、もう片方の手をアリサに伸ばした。
不安そうなアリサは、嬉しそうに手を握った。
「どうだ? まだ心配か?」
「ううん、パパの手を握ってると安心できる……」
「よし、じゃあ行くか!」
こうして俺たちは、村へ続く道をはずれ王都へと向かったのだった。
※また追記
どうせなので村に行ってNTR目撃する手前まで付け足していきます。
執筆速度が遅すぎるのでゆっくり付け足していきます。
投稿は1話1000文字くらいで1日3回投稿したいなぁと思ってるので付け足すのも1000文字ずつです。
ごめんなさい_(._.)_
村への道をはずれ、歩くこと40分。
俺とアリサは王都に着いた。
「あの城壁の向こうに王都があるんだ。 アリサ、魔法かけるからこっち向いて」
「はい、パパ」
「じゃあいくよ、スイッチ・ビジョン!」
城壁の中に入るには、門番による検閲を受けなければならない。
俺は木陰に隠れて、アリサに幻影魔法をかけた。
魔法を唱えると青い光がアリサを包み、足元から姿を変えていく。
とりあえず無難な、町の娘っぽい服装にしておいた。
下は茶色いスカート、上は薄地の白いカッターシャツに、スカートとセットの茶色い半袖。
魔族の赤と黒の瞳は、髪の色と合わせて紫にした。
しかし、ただの幻影で包んだだけで着ている服は変わっていない。
かなりボロボロだったから、ついでに王都でアリサの服を買ってあげよう。
「……どう、アリサかわいい?」
「あぁ、かわいすぎて逆に心配になってきた。 王都の男たちがアリサを見て一斉に襲ってきたらどうしよう」
「……パパが守ってくれるから大丈夫」
「おう任せとけ! アリサには指一本触れさせねぇから」
アリサは嬉しそうに俺の手を握ってきた。
俺も離さないようにしっかりと握り返す。
「じゃあ、行くか!」
「うん!」
――――俺たちは手をつなぎながら門に向かって歩き出した。
「おい、そのデカいぬいぐるみはなんだ!? 中に何が入っているんだ!?」
俺としたことがっ……ぬかった!
門番が、俺の背負っているデカい熊のぬいぐるみを見て驚いた。
そりゃそうだ……こんなモノ持った奴がいきなり現れたら誰だってビックリする。
俺も魔王城で初めて見た時はおどろいた。
「いや……ワタがはいっています」
「そんな訳あるか! 破いて中を確認する!」
「だ、ダメだ! これはアリサの大切なぬいぐるみなんだ!」
門番がぬいぐるみを引っ張って奪おうとする。
ひ、引っ張るな!
このままでは破けてしまう!
クソッ……あまり事を荒立てたくないが魔法を使って―――
「……門番さん、熊ちゃんに乱暴しないで」
「か、カワイイっ!?」
「……え?」
「すまなかった、お嬢ちゃん。 オジサンが間違っていたよ。 さぁ、王都に行っていっぱい楽しむといい」
……おい。
門番はアリサの上目遣いにすっかりほだされ、顔がゆるんでいる。
いや、確かにめっちゃカワイイが豹変しすぎだろ。
王都を守る城壁には……意外な弱点があった。
魔王さんよ……お前の娘さんはどうやら凄まじい攻撃力を持っていたみたいだぜ?
まぁ、もう俺の娘だがな!
「じゃあ、行くか」
「うん……門番さん、バイバイ」
「じゃあね~~~~」
―――こうして俺とアリサは難なく王都に入ることができた。
※またまた追記
王都編はこの1話で終わりにします。
この次がNTR回で、NTR回は付け足さないと言いましたが、けっこう王都編があっさり終わってしまったので、明日NTRを付け足します。
何回も付け足して申し訳ございません。
城壁の門をくぐると、様々な品物を売る屋台が立ち並ぶ市場が続いている。
魔王城にずっと閉じ込められていたアリサは、珍しいものを見るようにきょろきょろしている。
とうぜん人通りも多いので、はぐれてしまわないようにしっかりと手をつなぎながら通りを歩いた。
「いまはお金持ってないから買えないけど、宿に戻ってお金とお土産を持ったらまた来るか。 新しい服とか欲しいものあるだろ?」
「……アリサ、欲しい物なんてないよ」
「娘のために何か買ってあげたいって思うのは父親の性って言うもんさ。 心配するな、パパはただの農民だけどお金はたんまりあるからな」
「ありがとう……」
俺もすっかり父親になったもんだな。
いや、息子2人いるからすでに父親なのだが……。
それにしても……。
俺たち、めっちゃ通行人に見られてるな。
俺は聴力強化の魔法を使い、怪しいやつらがいないか確認した。
どうやら大半の連中は、俺の背負っている大きなぬいぐるみに興味があるらしい。
一部の男どもは、アリサを見て小声で「……かわいい」と言っている。
怪しい奴らも見つけた。
人攫いらしい男たちがアリサを攫えないかヒソヒソ話し合っている。
とりあえず、俺はそいつらを睨んでおいた。
向こうは、俺が睨んでいることに気づいて目をそらした。
まぁ、万が一襲ってきたときは魔法をぶっ放せばいい。
俺とアリサは、荷物を預けてある宿に向かった。
「あれ? あんた王都に戻ってたのかい?」
宿屋の店主は俺の顔を見ると驚いた。
店主には、しばらく任務があるから戻らないと言ってあったが、結局、王都を旅立って5日で戻ってきたので拍子抜けしたのだろう。
……そういえば、王国軍と騎士団が魔族たちの領土に攻め入ってから2日経つな。
どっちが勝ったんだろう?
たぶん、人間側の勝利で終わると思うが。
「今さっき帰ってきたんだ。 荷物を返してもらえるか?」
「はいよ」
俺は荷物を受け取り、宿をあとにした。
宿にはマジックバックも預けていたので、荷物と一緒にぬいぐるみも収納した。
マジックバックは一部の魔道具師にしか作ることができないため大変高価なモノだが、あの宿屋のオッチャンは売り飛ばしたりせずにちゃんと保管しておいてくれた。
いいオッチャンだ。
「よし、お金も持ったし買い物でもするか!」
「……」
アリサは返事をしない。
お腹を押さえながら、何か言いたそうにしていた。
「どうした?」
「……お腹すいた」
アリサは恥ずかしそうに小声で言った。
そういや、まだ昼食食べてなかったな。
どうせだから、荷物をちゃんと保管してくれていたお礼に、あの宿屋に戻って飯を食べよう。
「そうかそうか、じゃあまずは飯でも食べるか!」
俺たちは来た道を引き返し、宿屋で昼食をとった。
アリサは何を頼めばいいか分からなかったようで、俺と同じミートスパを食べた。
口に合うか心配だったが、おいしそうに食べていたので心配は必要なかったらしい。
昼飯を食べた後は、市場に戻って買い物をした。
俺は金にモノを言わせて服屋の女の子用の服を全部買おうとしたが、アリサに止められ結局半分しか買うことができなかった。
……悲しかった。
他にも町に戻って一緒に住むために、食器やお人形さんを買いながら、市場を2人でぶらぶらした。
――――そんな2人の楽しい一時は、とつぜん終わりを告げた。
「おい、王国軍と騎士団が遠征から帰ってきたぞ! 魔王軍に惨敗したらしい!」
市場に響く、青年の声。
買い物を楽しんでいた人々の顔は、一瞬でこわばった。
え? 惨敗……?
「なんでだ!? 勇者様も戦いに参加したんじゃないのか!?」
「それが、勇者様は魔王を倒す役目を放棄して逃げ出したらしい! 国王はとてもお怒りだ! 勇者を見つけて捕まえた者には金貨1000枚を褒美として渡すと国王は仰られている!」
やばい……。
はやく王都から逃げないと。
「……アリサ、そろそろ村に向かうか」
「え……うん、わかった」
―――――こうして俺とアリサは逃げるように王都を後にしたのだった。
※最後の付け足しです。
昨日の22時からずっと書いていたら……いつの間にか太陽出てました。
3214文字しかありませんが、なんかめっちゃ時間かかりました。
~満月の夜~
俺とアリサは村を目指しながら、たわいもない話をしていた。
もうすっかり日が暮れてしまい、月明りを道しるべに歩く。
いちおう、追手が来ないか<気配探知>を使って確認しているが、今のところ近くには誰もいないようだ。
「……パパの村ってどんな感じなの?」
アリサは王都で買ってあげたお人形さんを片手で抱きしめ、もう片方の手で俺と手をつなぎながら、隣を歩いている。
……熊ちゃんは大きすぎるから、外出用?にちょうどいい大きさの人形を買ってあげたのだ。
「そうだな~、まぁ麦畑が広がってるだけの辺鄙な農村さ」
俺はひょうひょうと答えた。
まぁ、ホントに麦畑しかないからな。
「……麦畑以外には何もないの?」
アリサは首をかしげながら聞き返した。
「ん~~……何もないな。 だけどなっ」
「……だけど?」
「村にはパパの妻がいる、つまりはアリサのママだなっ!」
俺はマジックバックを持っている手でグッっとした。
「……ママ、アリサを嫌がったりしないかな?」
「大丈夫だよ、だってパパが選んだ女だからな!」
ドサッ……
もう一度、親指をグッとしようとしたらバックを落としてしまった。
……しまらないな。
「……うふふ、なら大丈夫だね」
アリサに笑われてしまった。
恥ずかしかったが……アリサの心配をぬぐえたようなので何よりだ。
うん、よかった!
おっ……あの光は。
「ほら、村が見えてきたぞ」
林の一本道を抜け、左右には麦畑が広がる。
遠くに見える、家からこぼれる小さな光。
やっと村に着いたんだ。
「……あれがそうなの?」
「そうだぞ。 村に戻るのは久しぶりだから、とりあえずパパ1人で様子を確認してくる。 ちょっとだけ待っててくれるか?」
「……わかった。 ……早く戻ってきてね」
俺はアリサに不可視化の魔法をかけて、村の入り口で待ってるように言った。
たぶん心配ないと思うが、俺はお尋ね者だし、この1年で何か変化があったかもしれない。
アリサを連れていく前に、妻と話をしよう。
「あぁ、早く戻るさ。 アリサは新しいママにちゃんと挨拶できるよう練習でもしててくれ!」
後ろでアリサが手を振っている。
俺もおもっきり手を振って自分の家へと走った。
村は1年前とぜんぜん変わってなかった。
よくご飯をおすそ分けしてくれたおばあちゃんの家も、水が溜まらなくなった井戸も……親友の家も、全然変わってない。
ん? 親友の家には光が灯っていない。
どこかに行ってるのか?
まぁ、これからはずっと村に住むんだからまた会えるだろ。
まずは家に帰って妻にあうんだ!
家に帰ると、2階の寝室の窓からロウソクの小さな光が見えた。
たぶん、あそこに妻がいる。
そうだ!
せっかく魔法が使えるようになったんだから少し脅かしてやろう。
俺は<フライ>の魔法を使い、ゆっくり窓に近づいた。
少しづつ窓に近づいていく……この時、すでに俺は聞いたことのある男と妻の声に気づいていた。
このまま窓の中を見てしまうと、今まで信じてきた物がすべて壊れてしまう気がした。
それでも……俺は確認せずにはいられなかった。
「いいのか? 大事な夫の親友とこんな関係になっても?」
「いまさらそんなこと言う?」
「ハハハッ、確かになw」
「どうせ戻ってこないんだしどうでもいいじゃない。 でも良かったわ、私たちのことも息子たちのこともバレずにあの男が消えてくれて」
「あいつ、俺の子供の自慢を俺にしてくるのなw 笑いこらえるのに必死だったわw つーか村人ほぼ全員とっくの昔に気づいてるのに、誰もあいつに教えてやらね~のw」
「ねぇ……そんなことより」
「わかったわかった、まったくお前は変わんねぇな~」
悪い夢を見ているようだ。
すぐそこで起きている光景も、聞こえてくる声も、すべてが頭を激しく揺さぶる。
なんで親友と妻が?
俺の子供?
まったく意味が分からない……。
……俺はただ眺めていることしかできなかった。
……そういえば、アリサが俺のことを待っているんだった。
……早く戻らないと。
俺は1年前と何も変わらないはずの道を引き返していった。
「……クッ、ハハハハハハハハハハハハッ! 1年でこんなに変わるもんなのか! いや、違うな! 何も変わっちゃいねぇ、俺の見ていた世界がみんなと違かっただけか!? なんかもう分からなくなってきたな、ククククッ、笑うしかねぇよ」
はやくアリサのところへ戻らないと。
でもどうしようか?
あんなこと知ってしまったらこの村にはいられないし。
というか、俺って魔王倒さずにのこのこと帰ってきた戦犯じゃん。
どっちにしろ王国から出て、人のいないところに行かないと。
それにしても、まさか王国軍と騎士団が壊滅させられるなんてな。
魔王軍もなかなかやるのな。
……はぁ、アリサにはなんて言えばいいんだろうか?
取り留めもないことを考えながら、麦畑が広がる道を歩いていく。
すでにアリサの姿は見えていた。
アリサは人形を抱きかかえながらずっと俺が戻ってくるのを待っていたようだ。
俺に気づくと、アリサはこっちに駆け寄ってきた。
「パパ、遅いよ…………パパ?」
「ごめんなアリサ! 実はな……」
「パパ?」
「ちょっと事情が変わってこの村に住めなくなっちゃったんだ」
「……パパ?」
「こんなとこまで歩かせといてなんだけどさ……」
「…………パパ」
「……どうした、アリサ?」
「……どうして泣いているの?」
「……え?」
俺が泣いてる?
そんなはずないだろ。
俺は頬を触った。
指をなにか生温かいものがつたう。
指を離して見てみると、たしかに涙で濡れていた。
――――俺は知らないうちに泣いていたのだ。
俺はその場に崩れ落ちた。
保とうとしていた糸がぷつんと切れたように、足に力が入らなくなったのだ。
アリサの前ではカッコ悪いとこ見せたくなかったんだけどな。
父親の威厳ってやつはあっさりと無くなっちまうもんなのかな?
今の俺、そうとうカッコ悪いよな。
……もう何も考えたくないのに、頭の中で様々な思考が浮かび上がっては消えていく。
……遠くの方で、アリサの声がする。
……体を揺さぶられている気がする。
どうしたんだ、アリサ?
何をそんなに必死になっているんだ?
お父さんな、色々とあったせいで疲れているんだ。
お願いだ……すこしだけ休ませてく―――――――
「大丈夫だよ………アリサはずっとパパと一緒にいるよ」
耳元で響く、アリサの静かで優しい声。
アリサは、膝をついてうなだれていた俺をそっと抱きしめていた。
俺の首を包み込む細くてか弱い腕。
頬に触れる柔らかな髪。
そして、耳にかかるアリサの暖かい吐息。
―――――意識が、思考の渦から引き上げられた。
「なぁ……聞いて欲しいことがあるんだ」
「……なに、パパ?」
「……実はパパ、魔王を倒す使命を与えられた勇者だったんだ。 城の中でアリサと出会ったのもたまたまの偶然で、本当は魔王を探していたんだ」
「……知ってたよ」
「そうか……驚かさないようにただの農民だって嘘をついたんだがな。 ……なんで、俺が勇者だって分かってたのに、魔族の敵だって分かってたのにこんなところまで着いてきたんだ?」
「……アリサはね、ずっとあの部屋で一人で泣いていたの。 部屋の鍵を閉められ外にも出ることが出来なくて……そんなアリサは、勇者さんから逃げられるよう鍵を開けられてもどうすることも出来ず、ただ泣いていることしかできなかった。 ……そんな時、オジサンが……パパが扉を開けて優しく語りかけてくれたの。 ……うれしかった、たとえパパが勇者さんで、最後に殺されることになってもいいと思った。 アリサはパパとずっと一緒にいたいの」
「……俺は国から追われる身だから……誰もいない場所で一生を過ごさないといけないんだ。 ……ついてきてくれるか、アリサ?」
「……ついてくるなて言われてもついてくよ、アリサにはパパしかいないの」
「……ありがとう、パパもアリサしかいないよ。 じゃあ……行くか」
「うん!」
――――2人は月明りの照らす夜道を歩き出した。
付け足しが終わりました!
プロットもなしに雰囲気で書いたせいもあってか、けっこう話に矛盾が生じちゃった感がありますが、連載するときはちゃんと修正しますので許してください。
誤字脱字、文章こうした方がいいよみたいなのもらえると嬉しいです。
書いてて気づいたんですけど、1話1000文字にするとどうしても内容が薄くなっちゃいますね。
連載始める時は、やっぱり1話3000文字くらいで投稿します。
……このあと復讐ザマァするのがセオリーな気がしますが、正直、そういうのめんどくさいんでザマァせずにのんびりする予定です。