7話:初勝利?
「後は任せた!」
そう言って、大蜘蛛の腹の下に転がり込むアカネ。
直後追って来たミノタウロスが勢い余って大蜘蛛と激突した。
「ファイア!!」
2体の巨大なモンスターがぶつかり合う中アカネは最後のMPを使いきってファイアを放つ。
この時のために温存しておいたファイアを。
そして偶然にも、その炎が2つの絶対者の敵意をお互いに向けさせる。
ミノタウロスは蜘蛛を、蜘蛛はミノタウロスをファイアの使用者と認識し、互いに戦闘を開始したのだ。
アカネはこの混乱に乗じて付近の岩陰に身を潜める。
何もかもが上手く言った。
と言うより上手く行き過ぎた。
と言うのもさっきのファイアは2体の殺し合いによる経験値を得る為であり、お互いのヘイトを自分たちから反らすことに拍車をかけたのは本当にに偶々だった。
と言うより、寧ろ今の行動で2体の敵意がアカネに向くことさえ十分有り得たのだ。
だけど、アカネは一度に2体の敵から経験値を得られるチャンスを逃すわけにはいかなかった。
何故ならそれはレベルを上げないとまともに戦えないから。
だからアカネは益々この機を逃せなかった。
それに、少しでもダメージを与えればそれだけで経験値が貰えるというのだから、これほど上手い話はないのだ。
ドゴン!
ミノタウロスが斧を振り回す音が、
ザクン!
大蜘蛛が鎌状の脚で何かを断ち切る音が隠れている岩の向こう側から聞こえてくる。
度々、目の前に大蜘蛛の足の一部やミノタウロスの真っ赤な鮮血が飛び散り、それが2体の戦いの凄惨さえを生々しく伝えてくるがアカネは微動だにしない。
そして、10数分後。
アカネの脳内を流れるレベルアップの電子音がその戦闘の終結を告げたのだった。
『レベルアップ:1→33(獲得経験値5334)』
プレイヤー:アカネ
Lv:1→33
経験値:0/12
HP:11→171
MP:13→77
攻撃力:4
魔法力:0+24
物防 :0
魔防 :0
器用 :0
知力 :42
敏捷 :0
残りステータスポイント:0→192
スキル:魔法式構築IV 落下耐性I 暗視I 隠密I 脳内図形作成
装備 :武器 初級魔法使いの杖(両手)
頭 -
胴 -
腕 -
腰 -
足 -
アクセ ー
『スキル:策士を獲得しました。(獲得条件:知力40以上且つ、自ら敵に与えたダメージ5以下で敵を単独撃破)』
『スキル:極悪非道をはじめとする獲得しました。(獲得条件:敵2体以上を争わせる事で敵を撃破且つ、そのモンスターが自身より30以上レベルの高い時)』
『称号を獲得しました【初心者冒険者】(レベル10以上)』
『称号を獲得しました【一端冒険者】 (レベル20以上)』
『称号を獲得しました【一人前冒険者】(レベル30以上)』
「ははは」
突然の過剰なレベルアップにアカネの口から呆れたような笑い声が漏れる。
取りあえずステータスを割り振ろうか。
アカネは顔面の筋肉が緩むのを必死で押さえ込みながらステータス割り振りを始める。
そう、今度はやらかさないように、テオに言われたように。
ちゃんと戦闘出来るようにステータスポイントを配分するのだ。
幸いな事にステータスポイントは有り余っている。
だから、魔法力多めに他均等に割り振っていく。
攻撃力:4
魔法力:0+24
物防 :0
魔防 :0
知力 :234
敏捷 :0
残りステータスポイント:0
『スキル:魔法式構築Xを獲得しました(獲得条件:知力100以上)』
『スキル:魔法言語理解を獲得しました(獲得条件:知力200以上)』
『スキル:高速思考IIIを獲得しました(獲得条件:知力210以上)』
『スキル:並列演算IVを獲得しました(獲得条件:知力200以上)』
魔が差しました、ごめんなさい。
アカネは心の中でそう呟くが、決定してしまったものは仕方ない。
そして、申し訳程度に先程入手した魔力の秘薬を使用する。
魔法力:0→1+24
1しか上がらなかった、その結果にアカネは軽く溜め息をつく。
魔力が1しか上がらなかったら、結局今までと変わらないのだ。
ちゃんと魔法力にポイントを割り振れば良かった。
そんな後悔がアカネの心を支配していく。
が、その後悔も次に表示された通知によって、これで良かったのだと言う気持ちへとすり替わることになる。
『スキル:賢者への神護(獲得条件:知力150以上、且つ知力が魔法力の100倍以上)』
「へっ?」
間抜けな声を上げて、アカネはスキル概要を確認する。
賢者への神護:魔法力、MPを知力と同じ値にする。
はい?
アカネは声が出なかった。
そして段々と別の意味でやってしまったのではないかと言う気持ちが湧き上がってくる。
そう、アカネはやらかしてしまったのだ。
だが、これでアカネに魔法を使えないと言う心配は無くなったのだ。もうテオに文句を言われる事も無いだろう。
幾つかメールが届いてるな…
アカネはその事に気づいてメールボックスを開く。
するとそこには10を超える未読メールが貯まっていた。
そしてその大半が運営からのプレゼントメール。
残りの1通がテオからのメール。
遅い、と思うかもしれないが、その着信は1時間ほど前。
アカネは全く気がついていなかっただけであった。
「まぁ無視していいか」
自分が送ったメールへの返信を開きもせずにゴミ箱へ直行させたアカネは、そのまま運営からのプレゼントを一括で受け取る。
<プレゼント『サンダー』他12件を受け取りました>
やるべきことを全てやり終えたアカネは、メニュー画面をそっと閉じてさっき倒れただろうモンスターのドロップアイテムを回収しに行くことにする。
そっと、立ち上がり、隠れていた岩の向こう側を確認する。
僅かに日の光の射した谷底に、グロテスクに首を跳ねられたミノタウロスと何本も足を失った大蜘蛛。
岩肌に赤と緑の血液が大量に付着しているのを見て、吐きそうになりながらアカネはその2体の死体に近づいていった。
「うわぁ、本当にキモい」
何いつも飯男に言っているような罵りではなく、本当の意味での「キモい」の言葉。
そんな愚痴を言いながらミノタウロスに近づいて、ドロップアイテムを回収する。
そして、アカネがミノタウロスからアイテムを回収し終えると、その首の無い死体と飛び散った赤色の血液もろとも青色の粒子となって分解されていった。
「あー、ホント嫌だ。次蜘蛛でしょ?無理無理」
今度は蜘蛛に対して同じ様な事を言いながら、ミノタウロス同様アイテムを回収使用とするアカネ。
「あれ?アイテムの表示がない」
大蜘蛛の死体にドロップアイテムの表示はなかった。
ただそこにあるのは毛深くて緑の体液を滴らせる死骸だけ…
「まさか、まだ生きてたり、しないよね?」
残念ながらそのまさかだ。
瀕死に追い込まれた蜘蛛は時に死んだふりをして、獲物が寄ってくるのを待つ。
と言う生態があるのかどうかは知らないが、どうやらこの蜘蛛はそうプログラムされていたらしかった。
ザクッ
鋭い刃が空間を切断する。
気がつけば、アカネの左腕が肩からすっかり無くなっていたのだった。
5/12修正
ステータスに器用を追加しました。