19話:イベント当日に生理で苦しむメインヒロインとは
「うぅ、何もしたくない・・・」
南の3つ目の街の酒場の1テーブルでアカネはへたり込んでいた。
「アカネちゃん、大丈夫?しんどいなら無理して参加してくれなくても良いんだよ?」
同じ女性であるカノンがアカネの背中を撫でながら言う。
「・・・大丈夫、だ。ほら、世の中にはVRディストラクティブって言う治療法があってな、だから、現実にいるよりは、まだ楽だから」
「でもアカネさん。生理って血圧とか下がるらしいですし、時間加速空間で過ごして大丈夫なんすか?やっぱり休んだ方が・・・」
げっそりとした顔で言うアカネに、テオも声をかける。アバターでこそ端正な顔のままだが、現実だと生理の影響で浮腫んでいるのをテオは知っていた。だから、つい半年前までなら『生理用ナプキン?なんかエロいっすね』とか言っていたかも知れないが、今は割とガチで彼も心配している。
「いやだ、せっかくの時間加速を逃したくない・・・」
アカネは唸りながらそう言う。こういう所で頑固なのだ。カノンは溜め息をついた。
「わかった。じゃあアカネちゃんは今日は指揮官ロールね」
「指揮官?」
「そ。この前取りに行った千里眼スキルと、アカネちゃんのイリュージョンマップの魔法を使って状況を把握して、メッセージで知らせるの」
千里眼
アカネ達が今日の為にわざわざ獲得しにいった魔力感知系スキルの一つで、半径100メートル以内の空から目視可能な好きな場所に視線をとばせるスキルだ。
「・・・それじゃあ作業出来ない。ラストスパートなのに」
「戦闘になった時だけで良いから。私達は最初遠くまで探しに行って、見つけたら千里眼の効果範囲まで誘導するの」
「・・・わかった」
アカネの了解を得て、取り敢えず戦闘中の基本的な動きは決定する。
にしても、本当に大丈夫怠い。デリカシーのないデブはともかく、さっきから何も喋らないジルは解ってくれているのだろうか?
そんな事でアカネはジルを睨む。
「ン、イヤ、辛イノハワカルゾ」
どうやら、わかるらしい。ならもっと怠い雰囲気を装おうかな。
そんな悪い事を考えていると、カノンが思ってもみない事を言い出した。
「あっそうだ。これ、『気力薬』っていう状態異常耐性を上げる薬なんだけど、一応イベントには持ち込めるみたいだからいざという時は使って?」
「え?」
「だってほら、アカネちゃん抜きじゃキツい場面も有るだろうしねー。それにこの薬使ってる間は痛みとかが和らぐらしいよ?ネット情報だけど」
ナニソノ便利グッズ
そんなもの存在するなら、アカネはとっくに使っているだろう。情報のソースはネットらしいし半信半疑だ。それに、そうまでして動きたくなかった。のだが、カノンは取り出したその薬を無理やり押しつけてくる。麻薬みたいだと、そう思いながらアカネは渋々それを受け取った。
「・・・そう言えば、アカネさんって顔とか隠さないでいいんすか?」
ふと、テオが言ってカノンも思い出したように頷く。そんな二人とは違ってジルのみが不思議そうだ。
「顔ヲ隠ス必要ガアルノカ?」
「あのねジル君。アカネちゃんのアバターって実は現実のアカネちゃんと全く同じなのよ」
「は?」
カノンから聞かされた事実に、ジルは自分のキャラも忘れてそんな声を出す。ゲーマーとしてあり得ないから驚いたのか、アカネが現実でも美少女なのに驚いたのかは分からないが、衝撃だったのだろう。あとその声は割と可愛らしかった。
「でもなー。このゲームってアバター変更できるの?」
「んーどうだろ。今のところ出来ないんじゃないかな?」
「じゃあ、どうしようもないな」
「まあ仮面とかで顔を隠してる人はいるけどねー」
カノンはそう言って店の外を指さす。イベントのせいでプレイヤーでごった返しになっている町の通り。確かに何人か仮面で顔を隠している人がいた。
「今思ったんすけど、ジルさんがいつも鎧なのもおんなじ理由なんすか?」
「ン?アア・・・ソンナ感ジダ」
少し躊躇いながら答える。何か聞いてはいけない事を聞いてしまったような。そんな気がして、テオも黙ってしまった。
「そういえばこの前ドロップで仮面のアクセサリー入手したんだけど、アカネちゃんいる?」
話の雰囲気を変えるためかは知らないけれど、カノンがアイテムボックスをあさり一枚のお面を取り出す。
真っ白な何の装飾の無いシンプルなお面・・・の中央に、『顔出し厳禁』と赤く大きくプリントされていた。
「ンなもんつけるか!!!」
流石のアカネもこのお面をつけて歩くのは嫌らしく、お面を奪い取ってカノンの額に投げつける。カノンのおでこが気持ちいい音を立てた。
「こんなの付けたら逆に目立つだろうが!」
「だってアカネちゃんなら寧ろ売名行為とか言ってつけてくれると思ったんだもん」
「顔を売るのに顔を隠してどうする」
眉を歪ませてカノンを見つめるアカネ。少し残念そうな瞳でアカネを見つめるカノン。しばらくして、アカネはため息をついた。
「まあいい。仕方ないから今回だけそれをつけてやる」
「ほんと!?」
「今回だけだ。今日のイベントは人目も多いし、確かに大勢に顔を見られるのは避けたいしな」
言い訳交じりにアカネはそう語る。だけど、そんなところにテオがいらぬ言葉を放り込む。
「アカネさんってツンデレっすよね」
直後、テオの顔面にアカネの杖がめり込んだ。
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テオが顔面を抑えてうずくまっている。ゲーム内では痛覚は制限されているから、十中八九大げさな演技だろう。それを皆分かっているから、テオの事など気にも留めず別の方向を向いていた。無念テオ。
「そろそろだねー」
何がかと言えば、それは勿論イベントだ。現在の時刻は17:55。このゲーム初のイベントである、4対4の対人戦イベント、『Battle of Quartet』の開幕まであと5分を切っている。酒場の窓から見える大通りには多くの人々が今か今かと待ちわびていた。
そして、ついに時計の針が12の文字を通り過ぎた。
バンと、大きな花火が打ちあがる。全くもってゲームの世界観とは合わないような色とりどりの光が薄暗くなった空を照らし、大きな音楽が流れだした。
いや、これじゃ世界観ぶち壊しでしょ・・・
その演出に多くのプレイヤーが沸き立つ中、アカネはそんな事を思ってしまう。だがしかし、そんな彼女にあるものが目に入ってしまった。
花火の咲いた後の空にポツリと佇む人影。地上から発せられたライトがその人影に集まって、同時に人の視線もそこに集まる。
真っ白な衣に銀糸の髪の毛。教会で出会い、真っ白な謎空間でも出会った神と言う名の運営がそこにはいた。
「皆様こんにちは。本日はこの世界で最初の大規模イベント、『Battle of Quartet』にお集まり頂きありがとうございます」
会場が沸き立つ。
「今回のイベントは、事前に告知していたとおり、4人パーティーでのTWO内最強を決めるイベントです。まず、東西南北の四つの街事にバトルロアイヤル形式で専用マップでの予選を行い、その後各街上位8チームによるトーナメント。その後、各街一位のパーティーによる決勝トーナメントを行います」
事前に知らされていたことの確認。だが、勿論アカネはそんなもの詳しく見ていない。
「では、予選開始まであと20分ですが、その前に、私、ベルダンディから一つプレゼントを」
彼女が手に持っていた錫杖を振り上げる。光が集まり球をなす。青く輝くエフェクトが空を覆った。
そして、それを振り下ろす。集まっていた光は降下し、そして大きく展開された。
「ワールド・オブ・テレヴィジョン」
魔法が発現し、南の三つ目の街の空に巨大なモニターが展開される。大きさで言えば、二百メートル四方はあるだろう。街のどこにいても、戦闘のようすを常に観戦できる仕掛け。予選落ちしたプレイヤーが楽しめるように、そして、パーティー間で情報戦が巻き起こるようにするためのギミック。
これはアカネを隠さないといけないかもしれない。
そう思って、カノンは唸るのだった。




