2話:イケメンなブタさん
徐々に青い粒子が集まって確かな人の形を形成したのは、どこかの中世ヨーロッパ風の建物に囲まれた広場のような場所だった。
すぐ後ろを振り返れば大きな噴水があり、青く澄み渡った空に透明な水しぶきが舞っているのを横目に、アカネはメニュー画面を開いてみることにする。
ピロン
そんな機械音が脳内で鳴り響き、視界の上側に色々と見慣れぬ文字列が表示された。
『スキル:魔法式構築Iを習得しました(獲得条件:知力6)』
『スキル:魔法式構築IIを習得しました(獲得条件:知力16)』
『スキル:魔法式構築IIIを習得しました(獲得条件:知力26)』
『スキル:魔法式構築IVを習得しました(獲得条件:知力36)』
さっきのステータス割り振りの影響で何やらスキルを入手したらしいが、魔法式構築というスキルが一体何なのかチュートリアルを飛ばしたアカネにはよく分からない。
だから、アカネはその通知をガン無視して、まずはメニューからマップを探す事にした。
「マップが、ない」
それもそのはず、このゲームはそう言う物なのだ。
そもそもゲームのコンセプトが「自らの足でまだ見ぬ世界を見つけ出す」と言う物なのだから、地図は自分で作るか他のプレイヤーが作った物を買うしかない。
「アカネさん?」
そんな事も知らずにワタワタしているアカネに声がかけられる。
最近は毎日聞かされている男の声だ。
「クソブタか、お前がいないから混乱したよ」
そう思って顔をあげると、高身長で細身な金髪のイケメンの姿が目に映る。
飯男じゃない、そう思ったアカネは恥ずかしさの余り混乱し始めるが、そんな不安も次の瞬間消え去ることになる。
「混乱したのは俺の方ですよ、何で現実と同じ姿なんですか?名前も」
「お前、飯男なのか?あの無駄にデカくて醜悪な飯男なのか?」
「ぐっ、なかなか酷いこというんすね。そうですよ、あの飯男ですよ。でもこの世界ではちゃんとプレイヤー名で呼んでくださいね。ほら『テオ』って」
よくある、主人公のような名前。
今の飯男の姿ならまだしも、現実の姿には到底似合わない名前にアカネは素直な感想を述べる。
「うわ、きも」
「ぐあっ」
アカネの言葉に心を深く抉られ、引き吊った顔をする飯男、もといテオだが、気を取り直して明音にオンラインゲームの常識を教えることにした。
まず第一に、オンライン上で本名を使うことが危険だということ。
第二に、VRMMOで現実と同じ肉体のアバターを使うのはもっと危険だということ。
第三は特に言うことがないので言うのを止めることにしたが、どちらもネトゲをやる上で非常に重要なことなので、テオはその事を必死で言い聞かせた。
「わかったわかった、それで、まずは何をすればいい?」
「そうですね、まずは簡単な武器を買いに行きましょう。その後、一度外にでて適当に何かモンスターと戦ってみるのは…」
「却下だ」
「なっ何ですと!?」
提案を断固拒否され、過剰なリアクションを取るテオだが、アカネはそんな事気にせずに今後の方針を語り出す。
「まずはどこか落ち着ける家を借りて、そこで研究の続きをする。異論は認めない」
「ふぁっ!?な、なんの為にこのゲーム買ったんですか?バカなんですか?」
「お前に言われたくない。そもそもこのゲームを買ったのはお前がこのゲームが思考加速装置の代わりになるみたいな事言ったからだろ」
今になって、テオはその事を思い出す。
そう言えば知力を強化すれば実際に頭の回転が速くなるとかならないとか言った事を。
そして後悔する。
ちゃんとそんな効果があるのか確認せずに、その場しのぎでそう言った事を。
「いやいや、この世界で何かするにしてもお金がいるでしょ?家買うにも、紙を買うにも。それにまだ俺たちはレベルが低いからそこまで知力の効果が薄いですし、ね?」
テオはそう言って必死にごまかそうとするのだが、冷静に考えてみてもまさにその通りで、天才的な頭脳を持っているアカネは理解したくは無くてもそのことを理解してしまう。
まずは武器を買ってモンスターを倒し、お金を集める。
どれだけやりたく無くても避けては通れぬ道なのだ。
「分かった、じゃあ武器を買いに行こう」
「そ、それじゃあ...」
「だが、ある程度お金がたまって拠点も出来たら私はそこに籠って研究するからな」
「知力もちゃんと上げてからですよ?」
「あぁ、じゃあ行くぞ」
こうして、はじまりの町の武器屋を目指して歩き始める二人。
そう言えばこの町は何て言う名前なんだろうか?
と、ふとアカネは疑問に思うが、そんな事研究には関係ないと直ぐに興味を失う。
ただ、実の所アカネは未だ体験したことのないこの状況に若干胸が熱くなるのを感じなくもなかったのは、ここだけの秘密である。
「それで、アカネさんはどんな職業にする気なんですか?」
「職業?研究者だが?」
「いやそうじゃなくて、RPGとしての職業ですよ。まぁこのゲームは職業が何個あるのかも分かりませんし、そもそも職業があるのかも知りませんし、つまりどんな武器を使うのかってことですね」
「ん、何も考えてなかった。何がいいと思う?」
「そうですね、マナー違反なんですがステータスを見せてもらってもいいですか?」
もうずいぶんと武器屋に近くなっってきた辺りで、アカネは自身のステータスをテオに送り、その過程でテオとフレンド登録をしておく。
この手の操作はゲーム初心者のアカネには慣れないものではあったが、テオの言うとおりにやった結果、何の問題もなくステータス情報をメッセージとしてテオに送信することが出来た。
「えっと、これがアカネさんのステータスですねー。あっそうそう、もし誰か知らないプレイやーにステータスを見せろとか言われても簡単に見せたらいけないっすよ」
「はいはい、分かってるから」
やはり面倒見のいいテオはまたもアカネにネトゲの常識を教えながら、送られてきたステータスを開く。
そして次の瞬間、大勢のプレイヤーで賑わう武器屋の目の前で一人のイケメンの絶叫がこだますることとなった。
「なっ、何してるんですかーーー!!!!!」
と
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