エイラと濁った男の子
#魔女集会で会いましょう
魔女エイラは呆れていた。
目の前には小さな男の子。
身なりはそこそこ。
ガキの癖に悟った目をしていた。
なかなかの逸材だった。
「あたしゃもう弟子を取るつもりは無いんだよ。ほら、さっさとお行き!」
エイラは持っている杖を振りかざした。あっちへ行けといったつもりだったが通じなかったようで、その子は微動だにしなかった。
「……どこに行けば良いの? 僕に行って良い場所は無いんだ」
濁った瞳で、彼は言った。
「ここにも無いようだけど?」
「どこに行けば良いか教えて」
彼はエイラに縋ってきた。黒いローブの裾をしっかりと握って、一歩も動かなかった。
「……どっかに行かないと、お前を喰っちまうぞ?」
「食べるなら、食べても良い。魔女は人を喰うって聞いた事がある」
「んな不味いもん喰いやしないよ」
脅しは失敗した。
「僕を食べて」
濁った瞳は狂気に溺れていた。
エイラは無駄だと悟った。
「最後の奉公かね。ま、お前が大きくなったら喰うとしよう」
エイラは彼を食料として迎えいれた。
彼を拾って二十年。
世を捨てた彼には才能があった。失われた魔術を、棄てられた魔の芸術を世に甦らせた。
「ここまでやっちまうとは、思ってもみなかったねぇ」
エイラの前には大人になった彼がいた。濁った瞳でエイラを見ていた。
「あなたのおかげです」
彼はエイラの前にひざまずいた。
「僕は、あなたの食料になり得たでしょうか?」
エイラは彼を見据えた。
「食料には失敗したけど、新しい身体にはなれそうだね」
エイラの体が縦に裂け、虚無が彼を呑み込んだ。
黒のローブがどろりと溶け、闇色の何かを形作った。
「あたしゃもう疲れたから、後は頼んだよ」
魔女エイラは消え、新たな魔女となった彼が、いた。
濁った瞳をたたえて、黒ローブを纏った、第三十四代目の魔女エイラが。