チュートリアル
どれくらいの時間が経ったのだろうか、緩やかに流れる時間に微睡みながら、
心地よい眠りの中で起きることのできない時のように、覚醒を促すものもなく、
今も恍惚とした意識が続いている。
思考が停止し時間とともに意識も流されて行く。
光も暗闇もなく心地よい永遠に微睡んで抜け出せない。
生きているのか、死んでいるのかわからない状態が続いて時折、聞いたことのない男女の声や、暖かみと光が瞼らしき物をくすぐる。
それはどこか懐かしく、胸のあたりを温かいミルクで満たしてくれる様でもあった。
あれ?
ミルクってなんだっけ。
思考も感覚も全てが曖昧だった。
都市一番の路地に面した薄暗い小道で、僕は気配を消し息を潜め通りを往来する獲物を物色していた。
狙うは観光で訪れた、成金っぽい格好をした、いかにも金持ちぽいのを狙う事。
「あれだ」
僕はねらいを定め、観光にきた金持ちらしき夫婦に走り寄りぶつかる。
そして、大袈裟にそして派手に転げる。
「痛い、痛いよーっ」
そう僕は、あちこちに痣や傷がある為に有利だった。
「大丈夫かい、坊や」
しめしめ、荷物を傍に置き手を差し伸べてきた。
「うん、ごめんねもう泣かないよ」
「あっ、ああ」
「大丈夫なの? お家まで送ろうか」
ほんっと、こいつらっておめでたい思考している。
僕は、差し伸べた手を思いっきり引っ張りバランスを崩させる。
それと同時に、傍をすり抜け荷物を奪い去り路地へ駆け込んだ。
「だ、誰か!泥棒だ〜!」
近くにいた憲兵が駆け付けるも、僕はいつも通り得物を抱え自宅へ戻る。
「遅かったねぇ、今日の稼ぎ出しな」
そう言って鞄をうばって突き飛ばすと、奥へ持って行った。
しばらくすると、男が出てきた。
そして、僕の胸ぐらを掴み男の頭の上まで持ち上げた。
「苦しいよぉ」
「いいかガキ、今日はあれで勘弁してやる、明日も頼むぜ、そしてさっさと外で遊んできな。
俺たちはこれから忙しんだ」
そして、手を離すと僕はその場に落とされた形になった。
僕は言われた通りに家を出た。
あの男と女は実の親だ。
昼間から呑んだくれて、稼ぎがなければ腹いせに殴られる。
決して、食事は与えてもらえない。
寝床も、自分で見つけた廃墟で他の子供と寝ていた。
2年前の5歳迄は、僕にも家と両親がいた。
身体が弱い母とそれを支える優しい父だったのだが、
母が病でなくなり、それまでの医療費やなんかで、どんどんと家は荒んで行き、新しい母が来てからは父も人が変わってしまった。
家も失い、ぼろぼろの借家に身を寄せていた。
仕事をしなくなって昼間から酒とギャンブル、に明け暮れるようになり、僕は盗みをやらされていた。
私は朝の学びごとが終わると、一般家庭の子供が着るような服装に着替えて城を抜け出していた。
友達がいるわけでもないけれと、いつもとある少年を見ていた。
私には同年代だが信用のできる友達がいた。
彼女は、私の正体を知る唯一の子供で城に出入りする、料理人の娘だった。
そして、自由が効く彼女を通じ少年の素性を知った、勿論少年の暮らし、やっている事素性などなど。
その頃から、助けたいといつも考えながら、少年の事を眺めていた。
そしてある考えに至った。
「近衛隊隊長さん、わかっていますね。
少年窃盗の親が無理矢理やらせている、この案件。少年を助ける事が目的です。」
「はい、承知しております。まず少年と、親を別々に捕まえ、宮廷料理人の娘のリリムお嬢様に証言させる事です。」
「その後は私に任せてください。」
「わかりました。」
「では、作戦開始。」
近衛隊隊長を含む作戦メンバー8名は持ち場に移動始める。
私は、遅れて馬車で少年の狩場の、大通り路地に向かい少し離れた所で待機する。
朝10時ごろ市場も開くため、人の往来が多くなるからだ、観光で訪れら人も夕方及び、正午までが最も出入りが多いからた。
いつもの通り少年が現れた。
私は、いつもの建物の屋上から眺める。
仕込んでおいたお金持ち風観光客風近衛兵も万全だ。
スタンバイ完了後小一時間ほど過ぎた頃、少年はいつものようにいつもの路地に現れた。
私の合図で作戦が動き出す、少年は思っていた通りに餌に食いついた。
少年は動き出す瞬間こちらを見て微笑んだ。
『もしかして、私達の計画の事知っている?』
私は思わず、言葉を失いそして次の合図を忘れそうになった。
しかし、今はそんな事考えている場合じゃない。