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深淵に燃ゆる刃  作者: トキタケイ
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白衣の男達

「この間の本実験、どうなった?」

 眼鏡の男が口に飯を運びながら言った。その男が身にまとう白衣は汚れひとつない真っ白で、男の几帳面さを表しているようであった。

「それがさ、聞いてくれよ。ここまで失敗続きだったがやっと成功してさ、とんでもねぇ化物が出来上がったんだ。」

 眼鏡の男とは正反対に、いたるところに汚れがこびりついた白衣を着た男が答えた。


 二人の男がいる大部屋には複数の卓が並べられており、そこでは二人のように白衣を着用した人間が席に着きそれぞれ食事をとっていた。

 その様子から、ここはいわゆる食堂と言われるような場所であることが推測できる。

 この食堂の隅の席で二人の男は向かい合い、束の間の休息を味わうように昼食をとっていた。


「すると、部品との適合が完全に上手くいったってことか。」

 眼鏡が向かいで味噌汁をすする汚れに訊いた。

「あぁ、それはもう文句のつけようがないほどに。まるであの部品を持って生まれてきたかのような出来だ。」

「そいつは良かった。いやー心配したぜ。徹夜続きで泥人形みたいな顔をしてるお前を見ていたら、自殺でもしちまうんじゃねぇかと。」

「本部から送られてきた『榊メソッド』のおかげだ。榊さんはやっぱりすげぇ。論文の概要しか読んでいないが、頭の出来が全く異なるってことを嫌と言うほど思い知らされる。」

「まぁ、ここもほとんど本部の言われるとおりに動いているようなもんだからな。頭のいい連中の言うことをひたすら聞いていればいいのさ。」

「悲しいねぇ。」

 汚れが茶をすすり、頬張った飯を胃に流し込んだ。


「だがな…。」

そして口元を白衣の袖で拭い、渋い顔をした。

「一つ問題があってな。『アレ』は少し気性が荒すぎる。少し加減をミスったみたいでな。視界に入ったものが敵だろうが俺らだろうが、とにかく破壊しにかかるんだ。性格の形成については本部でも手こずってるみたいだから、まだデータ収集の段階だろうな。」

「あれだろ? 脳に棒を突っ込んで、こう、クイッとやるやつ。全く恐ろしいことするぜ。」

 眼鏡は箸を冷や奴に突き刺し、その表情に不快感を示した。


 それを聞いた汚れが呆れたようにフッと鼻で笑った。

「そんな古典的な方法じゃねぇよ。分かりやすく言うと、脳に部品を設置してだな、そこから微弱な電流を流すんだ。まあ、それをどこに設置するかが問題なんだが。とにかく、使えるかどうかは野外調査が終わってから上に報告するさ。それより、お前の方はどうなったんだよ。」

 訊かれた眼鏡の表情がさらに曇り、苦い薬でも飲み込むように茶をすすった。

「それがなぁ…。まず被検体の確保が問題なんだよ。ここらに居るのって、ジジババばっかりだろ? 十二歳未満の女なんてそもそも見つかんねぇよ。それに、この実験に有用性があるとも思えん。」

「何かしらの成果を上げないと、ここの存在意義自体無くなっちまうからな。所長も必死なんだよ。それでどうすんだよ。」

「サンプリング地を増やしてみるよ。まだ探してない場所はたくさんあるからな。望み薄だが…。」

 眼鏡はそう言いつつ空になった器を重ね、立ち上がった。


「俺はそろそろ行くよ。計画書を書き直さなくちゃいけないんだ。お互い大変だが頑張ろうぜ。」

「あぁ。」

「それと、そろそろ白衣を洗ったほうが良いぜ。血を見ながら飯を食うこっちの気持ちも考えろ。」

「これは油と薬品だ。」

「どっちにしても汚ねぇよ。」

 汚れはそう言い残し去っていく眼鏡を一瞥し再び食事に集中した。

 人の居なくなった向かいの席は、まるで新品のように綺麗に拭かれている。

 騒々しい食堂で、汚れは午後からまた始まる実験を考え重苦しい溜息をついた。


ここを開いて頂きありがとうございます。

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