その先へ
『……すみれちゃんだよね?
この前椿と店に来てくれた。』
『あっ…
陸くん…。』
『………雨降って来たし
乗りなよ。………ね?』
『ありがとう………』
陸くんはわたしの浮かない表情を見て
遠慮がちにそう言った。
『……すみれちゃんちはどの辺なの?
家までぢゃなくても近くまで送るよ。
俺、傘持ってるから。』
『……わたし……
ひどいことしちゃったんです。
椿にっ……最低な態度しちゃって………』
『…やっぱり椿となんかあったんだね。』
陸くんは車を停車した。
『椿のこと
前まですごく遠い存在に感じてたんだけど
最近だんだん近い存在になってて……
わたしも自分の気持ちに気付いていたのに
それとは正反対な態度で……』
『…うん。』
『もし、……好きな人が昔の思い出のものを持ってたら
陸くんならどうする……?』
『…そーだなぁ。
やっぱいい気はしないよね。…まぁ俺ならすぐ言うかな。
全く分からない様にしまうか、捨てろって。』
『………そうだよね…。』
『そうゆうのは早いうちに言って解決した方が
お互いの為だと思うなぁ。
ぢゃないとソレを知ってる方は辛いし
辛い顔をしてる相手を見てる方はもっと辛いと思うよ?』
陸くんはわたしの顔を少し覗き込むに言ってきた。
『うん……。そうだよね。
…………わたしバカみたい……』
『あと俺が言っちゃっていいかわからないけどさ…、』
陸くんは一呼吸おいて話した。
『だいぶ前に椿と会った時に
【好きな子の名前が俺と同じ花の名前】って言ってて。
【今までは女みてーな名前で嫌いだったんだけど
そいつと出会ってからは悪くねーなって。
なんか…共通点があることがこんな良いと思ったの初めてなんだよなー】
そう言ってた。
それってさ、…すみれちゃんのことだよね?』
わたしはまた苦しくなった
なんで椿のことになるとこんなに胸が痛くなるの
『椿がそうやって女の子のこと話してくるのも
ほぼ無いからめちゃくちゃビックリしたし、
この前一緒に店に来てくれたぢゃん?
そうゆうのも初めてだったからこうゆう行動の仕方は
きっとアイツが本気だからやってることなんだなーって思った。』
椿が本気で……
わたしのこと………
『陸くん……
わたし、…椿は元カノの雪音さんのことちょっとは引きずってるんぢゃないかって思ってたの……。』
『雪音…??
あ〜っ昔付き合ってたね。確か年上だったよね。』
『…その雪音さんとみんなが写ってる写真が
家にあって……
それはなんでたと思う……?』
陸くんはわたしにこう言った
『直接つばきに聞いてみなよ。
すみれちゃんなら出来るよ。
大丈夫。』
わたしの背中を押してくれた陸くんは
椿の親友にふさわしい力強さがあった
『……陸くん。
ありがとう。
…………今から椿のところ、行ってくるっ……』
車から降り
来た道をもう一度、わたしは走り出していた
いまどんなに雨が降ってたって
何があっても椿と会うまでは…
話すまでは…諦めちゃいけない
走り出して数分経った頃、
椿のマンションが見えてきた
同時にバックの中にあるスマホが
鳴り出した
椿かもしれないと思いながらも
マンションへ急いだ
『椿っ……!!』
ちょうどマンションから出てきた椿を見つけた。
『すみれっ……』
わたしは椿に抱きついた。
『……こんな濡れて…
大丈夫かよ……』
『……ごめんね……』
『……どんだけ心配させんだよ…』
『椿のこと傷つけてごめんね…
……ごめんなさい……』
『俺の事はいいから。』
『全然っ良くないよ!……』
わたしの濡れた髪の毛を
優しく撫でた
『……部屋入ろ。
このままぢゃ風邪引くだろ。』
肩を抱く椿の腕が暖かった
わたしは部屋に入り
すぐにシャワーを浴びるように言われた。
そして椿はわたしがシャワーに入ってる間に
近くのコンビニで下着や必要な物を揃えておいてくれていた。
さすがに下着は恥ずすぎて買うのに気まずかったって
言ってた椿の顔が可愛いすぎてわたしはちょっと笑ってしまった。
『あのねっ、わたし椿の部屋飛び出してからあのあと
陸くんと偶然会ったの。』
『うん…。それで?』
『陸くんが背中を押してくれた。
そんなの誰に言われなくても私自身の気持ちで決めなきゃいけない事だって分かってるけど……
でもなんか椿のことをちゃんと知ってる人に言われる言葉って大きいなって思った…。』
『そかそか。
つか陸から電話来たよ。』
『なんだ知ってたなら知ってるって言ってよー。』
『そうゆうのってさ聞いて話されるより
相手から話してくれる事に意味あると思わない?
隠さないことが嬉しいぢゃん。』
『まぁ、そっか…。
そうだよね。』
『………あの写真はさホント俺の意識の低さが悪かったってゆうかそんなに意味ないんだよ…。
ごめんな。』
椿はわたしにぺこっと頭を下げた。
『意味ないってゆうのは…
気持ちは完全にないってこと…だよね…?』
『もちろんあるわけないよ。
ただ昔のダチとの思い出写真の中にただアイツがうつってたってだけなんだ。
てか俺のそうゆう色んな無神経さがすみれに嫌な思いさせたんだよな…って』
『うぅん。
椿のことちゃんと信じてれば良かっただけなのに
わたしが勝手に凄いモヤモヤしちゃったんだよ…。
ごめんね。』
『…陸にさ、勘違いから悪い方向に行くことは多いんだから気をつけろって言われてさ。』
『陸くんもそんな事言ったりするんだね。』
『なっ。俺ら2人で居ても昔からあんま女の話しないから
びっくりした。』
この感じだよ。
ほんの少し前までは険悪なムードになってたのに
ちゃんと話し合って
誤解が解けて
笑えるの
『……てかいきなりこんなこと聞くのオカシイと思うんだけどさ、…宮原拓人とは連絡取ってんの?…』
『えっ…何で??』
『いや普通に気になったから…』
『そこそんなに気になる…かな…??…』
『別にしょっちゅー思ってるわけぢゃねーよ。』
わたしは椿の隣に座り
手を握って言った
『別れて飛行機で日本を飛び立ったその日から
ただの一度も連絡取ってないよ。』
『椿のこと
好きなんだって思った。』
『だいぶ遠回りしちゃったのかな…
自分の気持ちに気づくのも…
付き合いたいって思うのも……』
思い切り抱き寄せられ
わたしも椿の胸の中に顔を埋めた
『遠回りした分の時間、取り戻そう……
言っとくけどその辺の男には色んな意味で負けねーから』
わたしは頷いて
椿を抱きしめ返した。
その瞬間から
私達は恋人同士になった。
椿の愛情に包まれた初めてのその夜は
わたしにとって忘れられない夜になった
つづく。