六章
暗闇の中、気づかれず人を追跡するというのは想像以上に難しかった。なにしろ、距離が遠くなれば、すぐにその姿が辺りと同化して消えてしまうのだ。
ところどころに設置されている街灯がなければ、二人は間違いなく男を見失っていただろう。
それから男は、これといった寄り道もせずにコンビニへ着くと、そのまま真っ直ぐ中へ入っていった。
「今のところ、何も変わったところはないな……」
「そう、だね……」
しばらく駐車場の影に身を潜めながら、男が出てくるのを待つ。その間、勇太はチラチラと腕時計に目を落とし、時間を気にしているようだった。
やがて男が買い物を済ませて店を出てくると、タバコを一本吸ってから、再び来た道を戻り始めた。手に持ったビニール袋の中には、翼が言っていたように、弁当やペットボトルが入っているように見えた。
「どうだった、翼。何か動きはあったか?」
男が101号室に戻っていったところで、二人は翼と合流した。
「いや、何も。そっちは?」
「こっちも特に変わった行動は見られなかったな。寄り道もしなかったし――」
「そうか……。この後はどうする? 監視を続けるのか?」
勇太は少し考えたのち、首を小さく横に振った。
「いや……今日は解散しよう。色々情報も整理したい」
「分かった。――おい、航。帰るってさ」
「……え? あ、うん」
航は翼に肩を叩かれるまで、二人の会話が耳に入っていなかった。というのも、あることが気に掛かっていたからだ。
それは、101号室の男の表情だった。
コンビニで買い物をしているときの横顔は、店員に会釈もして違和感はなかったが、外でタバコを吸っていたときの表情は、どこか機械的というか、人間らしさのようなものが全く感じられなかった気がしたのだ。
けれど、それもあくまで自分の感覚だ。だからどうしたと言われればそれまでだったため、二人に伝えようとまでは思わなかった。




