二章
裏野ハイツは、木造二階建ての古びた建物だった。見た限り、一階に三部屋、二階に三部屋の、計、六部屋で構成されているようだ。狭い駐輪場には、錆びた自転車と原付バイクが停められている。
「それで、翼。その人はどこの部屋に住んでるんだ?」
勇太が裏野ハイツを見上げながら訊ねた。
「兄ちゃんの話では、101号室の人だって言ってたような」
「ふーん」
部屋番号は玄関前の表札に書いてあったため、すぐに分かったが、名前の記載は一切無く、どんな人物が住んでいるのかを窺い知ることは出来なかった。
建物の裏手に回ると、伸び放題の雑草が足元に生い茂っていた。長い間、誰もこれといった手入れをしていないのだろう。
三人はそこを分け入って、101号室の部屋のベランダを覗いてみた。
ステンレスの柵で囲われた小さなスペースには、枯れた植物の根付いた植木鉢が寂しく転がり、物干し竿には、少しよれた白のタンクトップとトランクス、ジャージのズボンが干してある。
肝心の窓にはカーテンが引かれていて、中の様子は一切分からなかったが、人の気配はなさそうだった。
「洗濯物を見る限り、一人暮らしみたいな気もするけどな」
「確かに……」
そんなふうに勇太と翼が思案していたとき、隣の、102号室と思われる部屋の窓から、一瞬、誰かがこちらを覗いていたような気がした。
「ね、ねえ、もういいんじゃない?」
一気に居心地の悪くなった航は、二人を急かすように言った。
「そうだな。これ以上ここにいたら、虫刺されだらけになりそうだ」
二人の反応から察するに、どうやら視線のようなものに気づいたのは航だけらしかったが、とりあえず、三人はその場を離れることにした――。




