■第2話 Side:メイ
■第2話 Side:メイ
その朝のイメージトレーニングは完璧だった。
毎朝、7時前には学校に着いてしまうオオムラ君より早く登校し、靴箱に手紙を
入れ大慌てで部室に行って着替えを済ませ、素知らぬ顔して朝練の準備をしなく
てはならない。
オオムラ君は、2年生部員なんだからもっとのんびり登校してきたっていいの
に、1年生より早く出てきて朝練の準備をしマネージャーの私の仕事まで手伝
ってくれる。
先輩の自分より遅く出て来る後輩部員にも、決して嫌味を言ったりしない。
実のところ、あまり深く考えていないのではないかと思う。
そんなのオオムラ君にとっては、取るに足らない事なのだと。
そんなオオムラ君は典型的なムードーメーカーで、人一倍頑張るけれど残念
ながら補欠で、でもそれに卑屈な感じになることは一切なく、顔半分が大きな
口なのが特徴のよく笑う人だ。
そんな私は、自覚はないけれど世で言うところの ”ドジっ子 ”という部類に
入るらしい。
不本意ではあるが結構な確率でまわりから言われるという事はそうなのだろう。
そんな私がマネージャーをする野球部は、そのドジっ子体質のお陰でまぁまぁ
被害をこうむっており、あの温厚と言われる部長の顔を引き攣らせたのは1度や
2度ではない。
多分、部長の温厚の水準は高い位置で設定されているんだと思う。
そう思いたい。
そんな私を、大きな口を開けてガハハと笑いながらいつもオオムラ君は助けて
くれる。しかもそれは、フォローして作り笑いを浮かべる感じではなく、本当に
心の底から愉しそうに笑う。 その笑う顔が大好きで。大好きで。
気付いたら、もう、困っちゃうくらい、大好きで・・・
勇気を出して告白をしようと決めたのは、3か月前。
3か月間、策を練った。
本当は夏祭りではなくて、春の桜まつりに照準を合わせていたのだが、モタモタ
するうちその計画は無理だと判明し、じゃぁ次は初夏のあじさい祭にと路線変更
したが、ぼんやりしてるうちに祭は終わっていて、七夕にはなんとかと思ってい
た矢先に季節外れのインフルエンザにかかるという予想だにしないハプニングに
見舞われ、もう、この夏祭りが最後のチャンスだった。
何故そんなにお祭りにこだわるのかと言うと、大して理由はない。
なんとなく、お祭りがいいかな~って。楽しいし。
キライな人いないでしょ、お祭り。
靴箱に入れる手紙の為のレターセットを買いに行くが、種類の多さに迷いに迷っ
て、その日は買うのをやめて浴衣コーナーに浴衣を見に行った。
夏祭りはやっぱ浴衣かな~と思ったのだけれど、浴衣を物色しながら、まずその
前に手紙を書いて靴箱に入れなければならないし、私、まだレターセットも買え
てないって気付く。
もう一度文具コーナーへ行ったら、意外にアッサリと ”コレ ”ってのが見つかり
じゃあ最初の決められなかったのはナンだったんだろう?って自問自答。
手紙の文面はコレで良し。
自分の名前は・・・・書けない。 書いて、もし来てもらえなかったらショック
死しちゃう。
だから自分の名前は書かないのは決定として、オオムラ君の名前って書いた方が
いいのかなこうゆう場合。
でも、靴箱に入ってるってことは自分だって普通気付くよね?
なら、いいか。 わざわざ書かなくても分かるはずだし。 書くのやーめた。
朝7時前には学校に着いてしまうオオムラ君よりも早く登校し、靴箱に手紙を
入れた。
そして、朝練の準備をしながらオオムラ君を待つも、一向に彼は顔を出さない。
(あれ・・・? 今日って、休み・・・?)
すると、珍しく遅れてきたオオムラ君は、何故か狂ったように腕立て伏せを
している。
(手紙・・・ 受け取ってくれたんだよね・・・?)
いつも以上にオオムラ君のことばかり気になってしまって、バケツに入った
ボールをひっくり返し、キャッチャーフライに駆けだした捕手の足元まで広
がったそのボールはギャグのように捕手をすっ転ばせて、また私は温厚な
はずの部長を引き攣らせた。
やっぱり、部長の温厚の水準は高い位置で設定されているんだと思う。
そう確信した。
夏祭りまで、あと2日・・・