第3話:作成
始めちゃうけどいいのかな?
あいつの姿は今ここにはないが、一言言わせてくれ。
「まじ、あざーーーっす。 ほんとお前神だわ。
何このフォルム。 めっちゃいいわ」
ほんとよくβーテストに当選してくれるし、
VRの筐体を買えるように手回しとかしてくれてるし。
まあ、もち支払いはこっち持ちだから、
いままであまり課金をしないで貯めてきた小遣いが瞬時にして吹き飛んだがな。
だがこの喜びを前に金をケチる人類など、いない!
小一時間程小躍りした後、なにやらかわいそうな目をした業者さんに気付き、
あわてて謝って印鑑を押して帰ってもらった。
ちなみに金は既に支払いを済ませてある。
「それではゲームを始めようか」
えーと、なになに? この筐体はあなたの健康を最低限は保障するものであり、
…外部パーツ…人体…信号…安全…証明…パルス…ああ、もういいや。
ここは飛ばしてっと次の章はっと、えーとなになに?
”どうせ前の章を飛ばしていると思うので簡潔に言ってやる。
安全は保障してやる、何かしたいときは中に入る→カセットを差し込む→横たわる。
そうすりゃ後は勝手にふたが閉まってお前の物語は始まる。
それじゃあ、ゲームの中で会おう。 By製作者一同
P.S.ちなみにこの後はスポンサーがどうのこうのとか何かあったときの説明書だ。
そこはそん時になってから読めばいい。”
簡潔にまとめたなあ、おい。
それじゃああいつも待ってるだろうし始めるとしますか!
なおカセットをどこに差し込むかがよく分からず、
説明書の続きにお世話になったのはここだけの秘密である。
ふたが閉まり何かが顔を覆って目の前が暗くなる。
そして暗い世界に輝く文字が浮かび上がる。
”New Worldを開始しますか? <Yes> <No>”
~この時Noを押していれば運命は変わっていただろう~
そして俺の指はYesの文字にむけられる。
”それでは新しい世界を。 その手に未来を。 いってらっしゃい”
そして体がどこかへ吸い込まれる、そんな感じがした。
今度は逆に空も地面も白い世界が目の前に広がる。
そしてその中にぽつぽつとした点があり、近寄るとそれが他のプレイヤーだということが分かる。
プレイヤーの集団は少し離れた場所にある白い建物の中に吸い込まれていく。
俺もその流れに乗っていると待ち合わせをしていた友を見つけた。
「おーい、すまんすまん。待たせた?」
「ああ、いや。 こっちも今来たばっかだ。
ところでお前、そのローブ姿、無駄に似合うな。 ぷぷぷ」
そう、プレイヤーの初期装備なのか、ここを歩いてる奴は全員ローブを羽織っている。
色が灰色でありまるでどこかの新興宗教団体のようだ。
「それよりこのなかでキャラつくるのか? だったらさっさと入ろうぜ」
遅れてきた俺が言うのもなんだが急かすと、
もったいぶったように引き止められる。
「まあ待て。 ユーザーネームとか何にするかどうかを決めとかないと、
向こうで困るだろうが。
後…話しときたいことがあるんだよ」
そういって人の流れから離れたところに俺を引っ張っていく。
「ちなみに俺のユーザーネームはタロットだ。
流石に弁良多由良天菅平からつけるのはどうかと思ってな。
それで名前の太郎をもじってみた。 どうだ、いかすだろ」
まあ、いけてるかどうかはともかく、本名を使わないという進歩は褒めておいてやろう。
「それでここでキャラを決めるんだがここでやることは六つ。
名前を決める。姿とかを決める。スキルを選ぶ。初期能力値を割り振る。
ストーリーを聞く。それらの説明をしてくれるねーちゃんを口説く。 それだけだ。
そこで覚えておくことことが四つ。
一つ、極振りなんて止めろ。 ガチで死ぬ。
二つ、姿は自分と変えすぎるな。 体がうまく動かせない。
三つ、これらは順番どおりにしなくていい。 スキルにあった名前をつけてもいいわけだ。
そして最後にNPCだからって尊大に振舞うな。 あいつらには知能がある。
どんなNPCにも必ず簡易AIが。
それなりに重要だと普通のAIが。
重要キャラだと最先端のAIが組み込まれているらしい。
もちキャラ決め姉さんも重要キャラらしく、
さっさと終わらせろよこのポンコツとかっていったプレイヤーが、
何故か蟲系の高位モンスターが跋扈するモンスターハウスから始まったらしい。
そのプレイヤーはキャラ決め姉さんと分かれる直前に、
”あら、手が滑りました”という棒読みの言葉を聞いたらしい。
それが本当かどうかは分からんが俺がプレイしているときにも、
NPCがやたらと頭いいときがあった。
少なくとも注意しておいたほうが賢明だろう」
それよりそのキャラを口説くというのはなんなんだ?
いま、情報が一気に来たせいで突っ込むタイミングを逃したが、
何で口説くっていう選択肢があるんだ? わけが分からないよ。
それはともかく今の情報を使ってキャラを作ってきますか。
「じゃあ、キャラメイクしてくるわ」
「おう、いってら。 俺はβのときのスキルとか引き継ぐから、
たぶん先に待ってるわ。 いいか、タロットだぞ。 忘れんなよ」
ちなみに後で聞いたところによるとβーテスターは、
初期設定と所持金と装備とかが自動売却されて得た金を引き継ぐらしい。
太郎改めタロットと別れて、俺も白い建物の中に入っていった。
中は小さな小部屋で、数字や記号が壁や天井を所狭しと蠢いている。
そしてその中央には魔法陣が描かれており、その真ん中に女性が一人座っていた。
「初めまして。 私はあなたの導き手。
あなたを新しい世界へと導くために手を差し伸べましょう。
それではあなたのユーザーネームを決めてください」
入口で幻想的な風景に目を奪われていると、女性が綺麗な声で話しかけてきた。
星が散りばめられた黒い和服が、この部屋の雰囲気もあいまって、
ミステリアスな感じがする。
まあ、ユーザーネームと言われてもタロットに言われたとおりに、
先にスキルを決めるつもりなのでそちらを優先したい。
立っているのもなんなのでキャラ決め姉さんの後ろに座ってみる。
「すいません。 先にスキルを決めさせてもいいですか?」
「はい、かまわないのですが…何で後ろに座るんですか?」
もちろんただの気分である。
「あなたの顔がまぶしくて見とれてしまいかねないからです」
やることその6、キャラ決め姉さんを口説く→ミッションクリア。
「そ、それはともかくスキルですね。 最初は10のスキルを覚えることが出来ます。
ちなみにどの程度ランダムにいたしますか?」
ランダム? なんじゃそりゃ?
「スキルは戦士などの要望を受けてこちらでおすすめのスキルを提案する方法、
一覧をお出ししてその膨大なスキル群の中からお好みのスキルを選んでいただく方法、
そしてランダムをひとつ入れるごとにレアが混じる確立が増えていくが、
どうなるかが分からないパルプン○のような方法があります。
どうなさいますか? そしていい加減前に来てくれませんか?」
レア! これはすごい奴が出て俺TUEEEEEEになるフラグか!
なんて甘美な響きなんだろうか。 おまかせはありえない。
だとすればとるべき道は一つ。
「すべてランダムで御願いします」
「それでよろしいですか?」
「はい」
「格闘系と魔術系が混ざる可能性もありますよ」
「ロマンのためなら惜しくはありません」
「それではしばしお待ち下さい」
確認が終わるとキャラ決め姉さんは何かをつぶやき、
それに呼応して部屋の記号や数字が勢いよく動き回る。
そして神秘的な光を発した後また元に戻っていく」
「それではスキル一覧と唱えて下さい。
そして前に座りなおしてください」
後半は聞き流してスキル一覧とつぶやくと、前に青い画面が出現する。
「えーと、どれどれ?」
・エフェクト<R>:動作にエフェクトが付くようになる。 それ以外の効果はない。
・ノックバック効果上昇:ノックバックに補正がかかる。 小さい攻撃にも付く。
・状態異常発生上昇:状態異常を発生させやすくなる。 全ての異常に有効。
・隠蔽:隠れる&隠す行動に補正が付く。
・感覚上昇:五感が鋭くなる。 ただし痛覚も鋭くなる。
・付与魔法:付与魔法を習得できる。 効果は魔力などに依存する。
・製作<料理>:料理の腕と味に補正が付く。 二度目以降はオートで出来る。
・連撃強化<R>:連続で攻撃するたびダメージが上昇する。 反撃されると補正は元に戻る。
・製作<薬>:製薬の腕と効果に補正が付く。 二度目以降はオートで出来る。
・スマイルパワー<R>:笑顔だと行動に補正が付く。 内心からだとさらに上昇。
「ちなみにどんなスキルになっているのか、聞かせてくれませんか?
もしかしたら何かアドバイスが出来るかもしれません。
あと前に来てくれませんか?」
例によって後半は無視して、スキルの名前を挙げていく。
言い終わったとき鈴を鳴らしたような笑い声が響き渡る。
「とてもちぐはぐですね。
クリティカルや気絶を出しやすいスキルを持ちながらハンマー使いとしては不十分。
隠れて攻撃するにはエフェクトがとてつもなく邪魔。
生産者に進むにはあなたのロマンを求める姿勢が妨げになる。
ソロになるには支援系が揃いすぎていて、
パーティーを組むには付与しか意味がない。
しかしRが三つも出ましたか。 それだけはおめでとう御座います」
なんかさんざんな言われようだった。
だがロマンを求めた結果がこれなら仕方が無い。
これをどうにかして…タロットに寄生でもするか。
それにRが3つもあるなんてすごいことじゃないか。
「レアってどのくらいすごいんですか?」
「そうですね、レアはランダム一つで2パーセント。
しかし10のスキル全てランダムにしたので一つにつき20パーセント。
つまり平均的にはレアは2つが妥当ですね」
俺TUEEEEかと思ったら違った。 少し運がいいだけだった。
「ちなみに俺TUEEEEをした人っているんですか?」
もしかしたら全てRの人とかもいるかもしれない。
まあ、そのためには全てをランダムにするという賭けに出る必要があるわけだが。
「えーと、その定義は曖昧ですが、一番すごい人になりますと、
10のスキルがすべてSRの人が二人いますね」
えっ? 何それ? SR? 10全て?
聞き間違いかと思いたいせりふが飛び出てきて耳を疑った。
もちろんSRについても聞き出した。
「SRというのはN、HN、R、HR、SR、HSR、URあるなかで、
まともに手に入る中では最高の性能を誇ります。
ちなみにランダムにすると0.1パーセント。
10全てランダムなら一つにつき1パーセントの超低確率なのですが、
まさか0.0000000000000000001パーセントしか起こらないはずなんです。
そんな馬鹿げたのに二人もいるなんて…ほんとAI生って何があるか分かりませんね。
ところで前に座りなおしてくれませんか?」
本当にキチガイじみた数字が出てきた。
宝くじでもあんな数字は出てこないだろう。
なんかそいつら主人公補正とかかかってるんじゃないの?
ほんとそんな気がしてきた。
「次に何をお決めになりますか?」
「ステータスで御願いします」
「それでは40ポイントを
STR、VIT、INT、MIN、DEX、AGI、MP、LUKに割り振って下さい。
ちなみに極振りも出来るには出来ますがVITとSTRとAGIには、
振っておかないと大変なことになりますよ♪」
何が大変かは聞かないことにしておこう。
それには流石に振るとしてどうしようか?
少し考えた後、どうするかを決めた。
「じゃあ10、1、1、1、1、20、1、5で御願いします」
「ずいぶん極端なステ振りにしましたね。 これですと活動そのものは問題なく出来ますが、
すごい紙装甲ですよ。 かといって回避も難しいですし。
生産職にいくにはSTRが高すぎますし。
戦闘だとプレイヤースキルがかなり要求されますが大丈夫ですか?」
「大丈夫だ、問題ない」
「もっと不安になりました」
顔は後ろにいるので見えないが悲しそうな雰囲気だった。
女性をあまり悲しませちゃいけない。
ネタに走るのはこのくらいにしておこう。
そろそろ名前を決めておこう。
ということで他のネトゲとかで使っている名前を挙げてみる。
「ではユーザーネームはアンノウンで御願いします」
「既に存在します」
それは仕方ない。 他のにするだけだ。
「じゃあ、謎」「存在します」
「ミステリー」「存在します」
「Mr.X」「存在します」
「無貌の王」「存在します」
「顔なし」「存在します」
「」「存在します」
「黒幕」「存在します」
「影武者」「存在します」
「人形」「存在しません。 登録は可能です」
おお、やっとだ。 というかプレイヤーの数が膨大だから、
クトゥルフねたすらも使われてるのか。
では最後にアバターを完成させてしまおう。
「では、キャラを「その前に御願いですから姿を見せてくれませんか」」
うん、これ以上いじるのは俺の趣味じゃない。
そう思い、前のほうに移動する。
「ああ…普通ですね。 うしろに戻って結構ですよ」
「酷い!」
今までの仕返しなのか、毒の含んだ言葉が飛んできた。 ぐすん。
それはともかくキャラを作ってしまおう。
「ところでサイズとかはダメージとかに影響ってあるんですか?」
「ありませんよ。しいて言えばリーチ等に差が出てきます」
そうか。 これはいいことを聞いた。
女性に涙を流させるな? 今は男女平等の社会だ、関係ない。
ネタが尽きた? そんなわけがないだろう。
やられるのは趣味じゃない。 やるほうが趣味だ。
平和がほしい? よろしい、ならば”戦争”だ!
しばらくしてキャラが完成した。 性別はいじれなかった。
「どんなキャラにしたのですか? 見せてくれませんか?」
「俺はさっきの言葉にいたく傷つけられました。 そのため前には出られません」
「そっ、そうですか。 それではデーターは以上でよろしいでしょうか?」
#人形 男
Str:10 Vit:1 Int:1 Min:1
Dex:1 Agi:20 MP:1 Luk:5
スキル:エフェクト、ノックバック効果上昇、状態異常発生上昇、隠蔽、感覚上昇、付与魔法、
製作<料理>、連撃強化、製作<薬>、スマイルパワー
うん、OK。
キャラ紹介
アシスタント系AIコード0001
通称キャラ決め姉さん
初期設定に関わる全知識を与えられている。
部屋の中にある数字や記号は乱数プログラムをあらわしており、
記号を取り除いたらなおかつ全てを見切れる眼力と理解力、
またそのプログラムを理解できるならばランダムスキルを調整することが、
可能かもしれない。
だがそれは人間業とは思えない。
機嫌によってセリフが変わるのは製作者以外知らないことである。