第24話:万能
主人公が街中でもPK出来るようになる為のくだりがようやく終わり、
そして新たな道が始まった。
まあ、立ち話もなんなので、
適当に応接間に案内する。
でも一つ言っていいだろうか?
俺の拠点は確かに洋風だ。
だから家に入るときに、
靴を脱げとは言わない。
だからといって、
百足に乗ったまま入るのはおかしいと思う。
体が細いから、
入る分には問題なさげだけど、
床を脚が貫いちゃってるんですけど。
どうしてくれんの?
「それで師匠を迎えに来るって、
どういう意味ですか?」
「わにゃ、それについては、
クエストという形で説明するのです」
冷や汗が止まらない。
嫌な予感しかしない。
受けるなと本能がささやいている。
「ぽにゃ、私ことMr.TBS三世は万能。
それぞれ何かしらの技能に極化した存在が、
それぞれ何かしらの権能を所持した存在が、
どれも私自身なのです。
分かったですか?」
えーと…、
戦闘やら生産やら商売やら、
その道では化物と呼ばれる超人連中の集団が、
Mr.TBS三世っていうこと?
「ねにゃ、そんな認識で大体あっているのです。
そこにシステムが関与した形なのです」
そういいながら、
何かが書かれた羊皮紙を押し付けてくる。
これは…クエスト用紙?
最近は全然使ってないから、
懐かしささえ感じる。
”クエスト:私の回収”
あと8人居場所の分からない私がいるので、
回収ヨロ。
報酬はピースエリアの無効化権。
違約金はHP100%。
期限は一ヵ月。
「もにゃ、これを持っていけば、
近くにいるかどうか?
誰が私なのかが分かるのです。
さあ、行くのです」
矢印の形をした金属を、
ぶら下げただけの紐。
しょぼっっ、しょぼすぎるよ。
製作者Mr.TBS。
あの自称天才か。
それだったら効果は高いんだろうけど、
もうちょっと見た目をどうにかできなかったのかねえ。
あまりに酷すぎるよ。
それからはまさに地獄の日々だった。
矢印の向く方向を目指して、
ゴトーと一緒に全国行脚。
一人目は剣士っぽい人。
そこで俺はまたもや人生で初めての経験をする。
しかし何度でも言わせて貰うが、
刀で斬られた後に、体がゆっくりずれていって、
数秒後に真っ二つになる経験なんかしたくなかった。
さらにその後上半身を傷口にぴたっとあわせたら、
そのままくっつくという謎現象。
何とか説得して戻ってもらった。
常識よ、戻って来い。
二人目はメイド。
屋敷に侵入しようとした瞬間、
素手で空間らしきものを引き裂いて出現。
まさかワープにも力ずくがあるとは思わなかった。
そのまま呆けている俺は吹き飛ばされ、
屋敷の外どころか街の外へ飛ばされた。
ゴトーと一緒に飛んでいると爽快感があるが、
こうやって飛ぶと恐怖しか湧かない。
仕方が無いので屋敷の主人に、
この前得た大金で横面を引っぱたき、
メイドさんを解放。
そして戻ってもらった。
常識はどこに行ったんだ?
三人目は鉱員。
山をえっちらおっちら運んでいるのを発見。
そうだよね、
インベントリに入らないから、
自分で運ぶしかないよね。
何かがおかしいような気もしたが、
いや、おかしいことを認めたくないだけだ。
この子も雇い主に金を払って解決。
解決はしたんだから、
山を手放したせいで、
危うく生き埋めにされかけたことは、
忘れよう、そうしよう。
常識よ、戻ってきてくれ。
四人目は巫女さんだった。
見た目はおとなしそうだったので、
やっと楽にいけそうだと思ったら、
PKスキルを持っているせいで、
そもそも神社に入れないことが発覚。
なんとか紙面でやり取りをし、
神主さんとの壮絶なバトルの果てに、
何とか戻ってもらった。
代わりに俺が三日間巫女の代理をすることになった。
俺は男なのに。
常識と貞操観念が消えそうになった。
五人目と六人目は奴隷になっていた。
金で解決しようかと思ったけれど、
向こうは王侯貴族、金じゃどうしようもなかった。
コロシアムで優勝すればいいといわれたけど、
初戦の対戦相手が金を稼ぎに来たAUことロリチート。
瞬殺された。
なんでここにいるの?
だけど運のいいことに、
AUが剣を振り回したから町が全壊し、
結果として二人を戻らせることが出来た。
ん? 何かおかしいところがあった?
剣を振り回しただけじゃ、
町は全壊しないって?
それは普通の長さの剣だったらの話だよ。
鞘に収まっている段階だと、
綺麗な短剣だったのに、
抜くと光の柱が…、
気が付いたら町が綺麗さっぱり消えていた。
プレイヤーも常識を捨てやがった。
七人目は魔女だった。
まあ鬱屈とした森に住んでいるのはまだいい。
古そうな家に住んでいるのもまだいい。
顔を布で覆ったりして、
肌を見せないようにしているのもまだ分かる。
だからといって俺を鍋の中に入れて煮ていいわけじゃない。
俺を鍋でぐつぐつ煮ても意味ねえぞ。
5日経って体の麻痺が取れるなり、
ゴトーを生贄にして、
何とか説得し戻ってもらう。
この日俺は、
ゴトーの信頼の一部と、肝臓を失った。
やめて、もう俺の常識度は0よ。
最後は自分で帰ってた。
涙が出るほど嬉しかった。
クエスト報酬をもらい、
早速町に行く。
ロリチートが町の入口にいた。
涙が出るほど悲しかった。
泣く泣くあきらめた。
それからというもの、
町へ襲撃しようとするたびに、
あのロリチートがいる。
せっかくのクエスト報酬が無駄になったストレスは、
適当なプレイヤーで晴らさせてもらおう。
さあ、誰を殺ろうかな…。
~プレイヤーサイド~
えっと、ナリタって名前です。
最近親友のソノカに誘われて、
変な集団に入ってしまいました。
親友としては止めた方が良かったのかもしれませんが、
ソノカとの友情がなくなっちゃうのが怖くて、
結局ずるずると…。
はぁ、こんなのじゃ駄目なのは分かってるんだけど、
悪事の片棒を担いでいるってのは分かってるけど、
それを正そうとする行動力なんて私には無い。
よく母さんからは”あなたは意志が弱い。
もっとしゃきっとしなさい”って言われるけど、
その母さんとはもう一年も会えてないから、
心細くて、心細くて。
まあ、こんな風だから、
今もこうやって私は…。
はあぁぁぁぁぁぁぁ。
その集団からは任務を命令されているけど、
ぶっちゃけ逃げ出したい。
でもあそこにはソノカもいるし、
それに逃げたとしても追っ手がかかりそう。
もう、なんか、やだなぁ。
はぁぁぁぁぁぁぁぁ。
「ねえ、お姉さん。
なんかため息が多いけどどうしたの?」
「うん、ちょっといろいろあってね。
…ん? 君だれ?」
振り向いた先には顔を、
かわいいお面で隠してはいるけれど、
それを不審に思わせないほど、
かわいいぺんぎんのアップリケ。
ペンギンさんのお面。
声と身長から判断すると、
これは…ショタ!!
なにこれカワイイ♪
小さなコックさんは、
自分を料理人と名乗る。
そして「ねえ、どんな料理が好き?」と、
可愛らしい声で質問してくる。
私個人としては、
もうこのままこの子を、
いろんな意味で食べちゃいたいけど、
だれが見てるか分かんないし、
任務を終わらせちゃおう。
私の任務は弱そうなプレイヤー最低一人、
ある場所まで誘導すること。
この任務が終わったら、
ソノカに頼み込んで、
このコック服を貰おう。
そして宝物にするんだ。
私はそう決意した。
そしてそんな感情などおくびにも出さず、
「料理を作ってくれるなら、
私の他に食べさせてあげたい人がいるから、
その人の分を作ってもらっていいかな?」
とコックさんに言ってみる。
すると簡単に「いいよ」とうなずく。
こう素直な感じもまたかわいい。
ああ、今の話が適当で、
ある場所に連れて行くのが目的だとは、
この子は思ってもみなかっただろう。
そうして平原を抜け、
森の中を進んでいく。
後ろでコックさんが、
のんきに鼻歌を歌っている。
少し下手なところもまたかわいいというものだ。
そしてさらに歩いていくと、
少し大きな広場につく。
「ちょっと、その人を呼んでくるから、
少しだけ待っててね」
私がこの場所にいると、
戦闘に巻き込まれちゃうかもしれないから、
そう言って逃げようとすると、
袖をつかまれて、
「えー、いかないでよ」
と、言ってくる。
ああん、もうかわいすぎる。
でもそんな至福の時間はすぐに終わった。
「おい、もういいぞ。
あとは俺たちの仕事だからよ」
そう言いながら数人のプレイヤーが、
全員武器を構えながら、
広場の中に入り込んでくる。
なかには剣の腹を舐めたりして、
完全に世紀末の住人と化しているプレイヤーもいる。
「ねえ、これはどういうこと?」
どこか不思議そうで、何故か嬉しそうな、
疑問が投げかけられる。
その問いには、
集団のリーダーが答えた。
「そうだな、冥土の土産に教えてやろう。
その女はお前を嵌めるためにここまで連れてきて、
俺たちは今からお前を殺す。
そう、お前はここで死ぬんだよ。
人類の優越種であるこの俺たちに、
殺されることを感謝しな。
ああ、殺してくれてありがとう御座いますってな」
はぁぁぁぁぁ、なんか醜い。
なに自分から優越種って名乗ってるんだろう。
俺たちはPKだから殺す立場だ。
だから食物連鎖の上にいる。
だから俺たちは優越種だ。
って小学生じゃあるまいし。
まあ、言うと何されるか分かんなくて怖いから、
絶対に言わないけど。
「うん、ありがとう」
…へっ??
いや、何で感謝するの?
「ところでお姉さん、そろそろだと思うんだ。
なんか背中が痛くないかい?」
背中? 特に痛くないけど。
なんかくっつけたのかな。
恐る恐る触ってみる。
触ってみて気付いた。
くっついてるんじゃない、逆だ。
背中の肉がごっそりと抉り取られている。
なんで抉られて…。
「なんかごちゃごちゃ言ってるけど、
とにかく死ねエエエエ」
プレイヤーたちが、
いや、PKたちがコックさんに、
それぞれ攻撃を仕掛ける。
連携が全然取れていないその攻撃は、
あっさりと回避される。
「おい、避けるなよ。
おとなしく殺されろ」
そう言った男の目に箸が突き刺さり、
抜き取られた目玉はなぜか、
みずみずしい野菜へと変化する。
「君からは小麦粉、君からはベーコン、君からはチーズ。
君からは違う野菜、君からは…、
さあ、こんなに食材もあることだし、
おいしいピザを焼きましょうか」
指を順々に向け、
わけが分からないけど、
とにかく危険なことを言い放つコックさん。
とにかくここにいたら食材になってピザの具にされちゃう。
そう思って逃げようと踵を返した瞬間、
背中から激痛がはしる。
そうして痛みにあえいでいる間に、
次々とPK連中は抉られ刺され潰され取られ、
でもまだうめき声を上げてるって事は生きている。
あんな体になっても生きている。
そしてコックさんが一歩、また一歩私に近づいて来る。
「ありがとう、そしていただきます」
そして私はあの感謝が、
食材として向けられた感謝だということに気付いた。
”キャラ紹介”
ナリタ<本名:成田 庭>
普通は成田と呼ばれるが、
親友のソノカにだけはテイと呼ばれる。
BL、ショタが大好物である。
本人はそのことを隠しているつもりだが、
男の子をみる目が明らかに興奮しているため、
ばればれである。
彼女からはおいしい卵をいただきました。




