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頑張れ!笑顔なPKくん!  作者: ミスタ
20/33

第20話:虐殺

始まったらそれまでさ

 あと数分もしないうちに、

開戦の火蓋は切られるだろう。

だけどその前にやっておきたいことがある。

「何やってるんだ? 人形」

タロットが不審な目を向けてきても作業を続け、

「出来た」

というわけで完成、避雷針つき掘っ立て小屋。

見た目はただの掘っ立て小屋、

しかし材料は豪華にオリハルコンを使用しました。

というか考えたとおりに変形してくれるオリハルコンじゃないと、

製作<建築>持ちじゃない俺には、

掘っ立て小屋をまともに造れるかどうかすら怪しいものだ。

相変わらずよく分かってなさそうなタロットを中に引きずり込む。

中で体育座りをして少し待つ。

するとタロットが中に入って数秒たったくらいで、

ホロビオンへの侵攻が始まった。


 先に言っておくが、

別に参加者と認定されてない俺たちに、

始まったかどうかは分からない。

侵攻側としても見なされていないから、

どちらにせよ俺たちが能動的に知るすべはない。

…だとしたらある現象をもって、

開戦だと思えばいいわけだ。

それは前にバアル様と戦ったときに、

俺を戦闘開始から1分も耐えさせなかった攻撃、

その名を”天罰”

それが開戦早々落ちてきた。

まあ、それがなくても、

周りのプレイヤーが、

「始まるぞ」とか「いくぞ」なんて、

言ってるからそれでも分かるんだけどね。

その町全体を覆ったであろう巨大な雷を、

掘っ立て小屋の中から見たら、

外が光に包まれて、

白くなったように感じる。

「「目が、目がぁぁぁぁぁぁぁ」」

HPの9割の固定ダメージに、

麻痺とスタンと一時的な失明。

俺たちも特殊攻撃には高い耐性があるはずのオリハルコンの屋根を、

貫通してきた雷に貫かれて大ダメージを負った。

ちくしょう、

せっかく対策した意味が無いじゃないか。

タロットからも哀れみの視線が飛んでくる。

少しすると過剰なまでの回復魔法も飛んでくる。

攻略組の俺たちでさえ全快する魔法は、

ダメージを負った全てのキャラを元通りにしたが、

その分医療部隊の負担が激しそうだ。

なにしろ攻略組と違って、

誰が回復するのかどうかは決まってなさそうだし、

さらに他のゲームと違って他人のHPゲージというものが、

見えない設定になっているからだ。

それじゃあずいぶん無駄も多かろう。

それに初めて共同戦線を張る奴もいるだろうし、

やり難い事この上ないだろう。


 こうして魔王の雷は、

全てのプレイヤーに開戦を高らかに告げた。


 さらに思い付きが無駄になってしまった悲しみを、

もてあましている俺の上に、

バアル様が降らしたであろう雨が降り始める。

それを開戦の合図と判断したのか、

城門はそれに呼応したかのように大きく開け放たれ、

…そしてすぐに魔物が進入してくる。

「いや、なんで門の前に待機済みなんだよ」

プレイヤーの誰かが文句を言っているが、

そんなルール誰が決めた?と言わんばかりに、

次々と魔物やら悪魔やらが入ってくる。

たちまち乱戦となり、

阿鼻叫喚の地獄絵図が広がる。

城壁の上にいる魔術師部隊も、

味方に当たるのを恐れてか、

なかなか撃てていない。

アカベエが懸命に指揮を執り、

態勢を立て直そうとしているが、

声が上手く通っておらず意味をなしていない。

たぶんアカベエ本人が突っ込んだ方が、

まだいい結果になると思う。


 哀れ前線に配置されたタロットはそこに残し、

俺はこっそり戦場から離れていく。

もともと支援系として働いていた俺は、

後方で待機していたため、

特にとがめられなかったのだろう。

そのまま町の安全圏まで移動しようとしたけれど、

流石にそれは失敗した。

見つかった。

魔王軍だからいいんだけどね。

見た目が人間だったけど、

執事のゴトーがいたから分かった。

流石にそれは見間違えようが無い。

話を聞いてみると、

どうやら城門じゃなくて違う所から入ってきたらしい。

まあ空を飛べる奴にとっては、

城門の有無なぞ関係ないか。

向こうは向こうで任務があるらしく、

ゴトーだけ残させてさよならした。


 ゴトーだけ残させたのには意味がある。

ゴトーはいつものように指示を待つ。

「で、何をすればよろしいのですか?」

今から俺たちがするのは簡単なお仕事だよ。

とっても簡単なお仕事さ。

君は俺に言われたとおりドアを壊す。

俺はまだ寝ているプレイヤーやNPCに、

ナイフを突き刺す。

ねっ、簡単なお仕事でしょ。

プレイヤーは基本的に宿屋に寝るから、

まずはそこに行こう。

宿屋に着くなり、

宿帳を探してプレイヤーがどこに泊まっているかどうかを確認した。

あとは宿帳に記載されていて、

なおかつ外出札がドアにかかっていない部屋に、

入っては殺し、

いなかったら探して殺した。

残念なことに、

NPCは数人いたが、

プレイヤーはあまりいなかった。

やはり襲撃クエストで起きちゃったのだろうか。

残念で仕方が無い。


 でもありがたいことに、

次の得物はすぐに見つかった。

そしてなんであまり人がいなかったかが分かった。

宿屋からでてとぼとぼ歩いていると、

どこかの家のお坊ちゃんだと思われたのだろう。

まあ、執事を連れていて、

高そうな服を着ているからね。

町を哨戒していた衛兵さんが、

「まだ避難していない子がいたのか。

早くこちらへどうぞ」と、

シェルターの中へと案内してくれる。

その中には先ほど城門の前で見たのよりも、

多くの人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人。

どこかの大佐が「ゴミのようだ」と言わんばかりの人間。

「これだけあったら…」

「どうしたんですか? 貴族様」

ここまで案内してくれた衛兵が、

突然話し出した俺に、

疑問符を頭に浮かべてそう尋ねる。

「これだけの人数がいたら、

どれだけのモノの腹が満たされるだろうか」

そう言いながら衛兵に”君と僕だけの世界”を使う。

衛兵はいきなり厨房にいることに驚いている。

その隙に俺はコック服に着替え、

そして衛兵の腹を気軽に引き裂く。

すると中から白い卵が零れ落ちる。

そして激痛にあえいでいる衛兵の腹から、

しゃもじでご飯を出し、

インベントリの中に入れてあった醤油で味にアクセントを出し、

俺のこだわりである鰹節とオクラをかけて、

さあ、出来上がり。

そして”君と僕だけの世界”を解除すると、

血塗れの服とオクラ卵かけご飯が、

俺の手の中に収まっている。

服をキュウベエの中に収納し、

卵かけご飯をどうするか決めあぐねていると、

違う衛兵が向こうから歩いてくる。

「君、こんなところでどうしたんだい?

執事さん、この子に外は今危ないよって言ってくれなきゃ駄目じゃないですか」

今は中も危ないよ。

それはともかくこのご飯どうしよう。

「なんだい? そのご飯。

俺にくれるのかい?

でも俺はもっと食べ応えのあるステーキとか」

料理に文句を言った衛兵さんは、

哀れミディアムレアのステーキ<&付け合せのサラダ>になりました<笑>。

ステーキの方はゴトーに持たせて、

そのままさらに進んでいく。

そしてふわっふわなオムレツができたり、

二人分の背骨を継ぎ合わせた串に刺さったドネルケバブ。

タコスに、ピザに、味噌汁まで作って、

もう持てそうも無い時に、

ようやくプレイヤーが現れた。

「何だおめーら、

てか大丈夫かい?

作ってはみたけど運べませんって顔してるぜ。

俺たちのところに持って来いよ。

食べてやるからさ。

ありがたく思えよ」

そうして着いた先には、

生産者や自由人のような、

プレイヤーだけど戦闘力が無い奴らがそこに集まっていた。

イアンと名乗ったその男は、

そのまま俺を厨房に連れて行き、

「俺たちの食事を作れ」と命令する。

命令されるのは好きじゃないが、

ここは寛大な心でもって作ってあげようじゃないか。


 お代は君たちの命でいい、おつりはいらない。


 それからしばらくたった。

戦闘のほうはどうなっただろうか?

このシェルターの中にいたプレイヤーは、

全員厨房の中で楽しく殺っているんだが、

タロットは楽しめているのだろうか?

そう思っていると遠くから物音が聞こえる。

全員調理し終わったと思っていたけど、

まだ誰かいたのかな?

それともNPCが様子を見に来たのかな?

服についた汚れを落として、

様子を見に行く。

そこには頭から少し血を流しているプレイヤーらしき人物がいた。

その男は俺を見るなり安心した顔を見せる。

「おい、君はプレイヤーか?

さっき前線は崩壊した。

敵の卑劣な策で、

町に放火されるわ、いろいろ破壊されるわ、

挙句の果てには同士討ちが多発するわ、

散々な目にあって、

敗北の色が濃厚だ。

ここも危険になるかもしれない。

だから非戦闘員は、

領主の屋敷にある通路から避難させることになったのだが…。

他のプレイヤーはどこに行ったんだ?」

ああ、最後の原因は俺だわ。

それにここも危険になるかもしれないじゃなくて、

危険そのものだけどね。

まあ、他のプレイヤーなら、

厨房でおいしい料理になっているか、

死体になっているか、

死体の腹に収まっているかのどれかだから、

全員厨房にいるということで、

間違いは無いだろう。

その旨を伝えたら、

「そうか。

みんな食いしん坊だな」

と笑っていた。

「ええ、みんな大声ヒメイをだして、

楽しく食べてましたよ」

「そうだな。

特に俺の知り合いのイアンなんかは、

マナーが悪いから、

特にうるさそうだ」

ええ、他のプレイヤーは命乞いとか助けを求めたりして、

可愛ささえあったのに、

あの男だけは、

「俺を殺すなんて許されると思ってるのか?」とか言って、

ふざけた事をぬかすから、

本当にうるさかったわ。

お前ごときを殺すのに、

いったい誰の許可がいるというんだか?


 そのまま厨房へ向かおうとする男に、

後ろから声をかける。

「ところで祝勝会のために、

もう少しレベル上げと料理を

しておきたいんですよね。

付き合ってくれますか?」

まあ選択権はないけど。

「はは、生産職の鑑だな。

だけどさっき言ったとおり、

祝勝会は難しそうだ」

何言ってるんだい?

さっき言ったとおりだから、

祝勝会が出来るんじゃないか。

振り向いたその男の顔に、

フォークを刺して、

麺を引っ張り出す。


 最後にペペロンチーノが出来たところで、

俺の戦いに幕は下りた。


 厨房には、

百を超える料理が湯気をたて、

数多の骨と内臓の上に置かれ、

溢れ流れる血に染まり、

食べられるそのときを待っている。

まるでこの悲劇を終わらせてくれと願うかのように。

”キャラ紹介”

イアン

本名:剛田海庵

成金社長の息子だからか、

選ばれた人間であるという、

歪んだ認識をしている。

唯一の友達の骨河原という男も、

同じような性格の馬鹿だが、

こちらは正真正銘名家である。

食べることが大好きだが、

自分が作ると大惨事になるため、

他人に強制的に作らせる。

もちろん文句は言わせない。

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