第2話:始動
始めちゃってもいいんだよね
「おい、知ってるか?」
俺はそんな友の声で前を向いた。
「いや、たぶん知らねーよ」
なんだか分からんがとにかく知らんこととしておく。
俺はうそが基本的に嫌いだ。
つまり知ったかぶりというのもなんかむかつく。
だからよく分かんない時はとにかく否定しておく。
まあ、こいつの場合は知らないって言ったら嬉しそうに、
自分の知ってることを自慢げに話してくるからな。
そうするとこいつって単純だから機嫌よくなるし、
たまにタメになることとか、極秘話とか仕入れてきて話すから、
まさに一石二鳥ってやつになる。
「何だよ、VRゲームの一般公開も知らなかったのかよ。
お前、どんだけ情報弱者なの? 馬鹿なの? 死ぬの?」
「いや、流石にそれは知ってたわ。
つーか聞いてなかった。 いつからそんな話になってんだっけ?」
VRゲーム、つまりはバーチャルリアリティという、
一昔どころか十数年前までSFだとか夢の技術とか言われてきた代物だ。
ところがある企業がロマンを求めて本気で開発した結果、
面白がって投資したのと、謎の技術提供、後いろいろな偶然などもあいまって、
ついに3年前この現代に登場した。
その後医療関係や、軍事関係等に引っ張りだこになったり、
安全確認のための実験を何度も何度も繰り返し、
そして一年前、世界で過労死が最も多い企業として、
その企業が選ばれるくらいの猛ピッチ&精密さで製作が進められたゲーム。
それが今話題になっている
”New World~未来をこの手に~”通称ミラ。
そのβーテストが去年の今頃始まり、そして明日一般公開される。
まあ話題になってるからって俺達二人の話題に上っているとは思わなかったがな。
なにせほとんど一年ぶりの再会だ。
つもる話もあるだろうに、ってまあ
βテスターとしちゃあ現実よりそっちのほうが話したいか。
「つーか人の話し聞けよ。 ミラの話聞きたがって他のお前じゃん。
何? βーテスターの生話、聞きたくねーの?
もっと敬えよ、称えよ、崇めよ、拝めよ」
「それで一年前にいきなり電話かけてきて、
βーテスターになるから学校とかその他モロモロよろしく♪
とか一年前に言ってきてその後散々俺に迷惑をかけまくった
テスター様の含蓄豊かな御言葉をありがたく拝聴せよと?」
なんか調子のって崇めよとか言い出したから、ちょっと頬をひっぱってお仕置きしてやった。
まあお仕置きというならもっとひどいのがあるんだが、
さあ、いつ話しに上るやら。
「ところでお前に頼んどいたネトゲは順調?
トップランカーキープしてる?」
おお、噂をすれば影とやら。
「ああ、あれ。 消 え た よ♪
つまりアカバンされたわ。 今までの努力、乙!」
どうやらこいつβーテスターの名前が公開されるのをあまり気にとめてなかったんだが、
こいつの苗字が”弁良多由良天菅平、べんりょうたゆらてんすがだいら”という、
日本にこいつん家しかいない苗字だったため、
こいつがミラを始める前にやっていたネトゲの住人が、
それを発見して不思議に思い運営に告発。
運営がそれを受けてボットの可能性ありと見てアカバンとなったわけだ。
まあ、本名をユーザーネームに使うこいつが馬鹿だったってことで。
その流れを聞いてもはや魂が抜けたような白い顔をしているこいつに、
「ほら、しっかりしろよ。 お前にはこれからミラが待ってるんだろ」
一応友達なんで、一応。 ちょっと励ましてやる。
まあ、それで何とか気を取り直したようだ。
それでは話をミラの事に戻そうか。
「ということで続きを、どぅぞぉ」
「言い方がむかつくなぁ、というか今度はちゃんと聞いとけよ。
…あれは今から45万年前のこと」
「エルシャ○イじゃないんだし、そんな昔なわけねえだろ」
俺がぼけたらこいつが突っ込む。
俺がぼけなかったらこいつがぼけて俺が突っ込む。
そんなかんだでまたとりとめのない話が延々と続いていく。
そして話を始めてから数時間後…
「まあ、ミラって実際に見ないと分かりづらいから、
話は明日のミラの中でするわ」
「だったら最初からそうするって言えよ!」
”キャラ紹介”
弁良多由良天菅平 太郎
主人公の数少ない友達。
もっともこいつの友達は主人公だけ。
約5千人いたβーテスターに抽選で受かった幸運な一人。
ミラではタロットと名乗る。