第16話:無数
始められるのならそうしましょう。
そして近況を話し合っていると、
ようやく開始の時間になった。
「もう時間か、
それじゃあ人形の料理の話は後で聞かせてもらうことにしよう」
「そうだな、
でもお前なんかが合コンで人気者になった話も忘れるなよ」
リアルコミュ障のタロットが、
女性人にちやほやされる図ってのは、
体系や顔が変わっているこの世界でも、
あまり想像出来ない。
まあ、最初は想像通り疎外感を感じていたらしいが、
合コンの最中にユニークモンスターに襲われたとき、
拳一発で撃退してみせたら、
いちやく人気者となったらしい。
羨ましいやらなにやら。
コロシアムの内側を見ていると、
いまだに一人きりで待ち続けているロリチートの姿がある。
それに行儀の悪い攻略者が、
食べ終わったポップコーンの容器を中に投げ捨てたりして、
ちらほらとカップやダンボールや紙コップが落ちていて、
悲壮感すら感じる。
ただしほかに人影はないため、どうやらまだ来ていない様だ。
なんか初対面のときも、次にあったときも、
めっちゃぼうっとした感じだったから、
いや、そもそも師匠と同じ性格だとすると、
面倒の一言で行くのを渋るかもしれない。
それでも魔王たちがこれだけ勢ぞろいしてるからには、
来なきゃまずいだろう。
「ふぅ、まだ来ないのか」
「無理もありません。
主人の強さはいまやこの世界で対抗できるのは、
傲慢の魔王以外いないでしょう。
まだ強いほうである神々と呼ばれるものは、
現在デスゲームとやらの影響でおりませんから。
思えばあのNPCも無謀な事をしたものです。
きっと恐れをなして逃げ出したのでしょう。
あれほどの装備をつくるAIが、
主人の強さを理解できないはずが御座いませんので」
「ねえ、叡智の書。
確かにあたしは強い。
それは自他と共に認めることだ。
でもあたしの強さはあたし一人のものじゃない。
皆の絆でつくられた強さだ。
皆の思いでつくられた強さだ。
皆の心の繋がりが今のあたしをつくったんだ。
傲慢なのは敵だけでいい。
怠惰なのは弱い仲間だけでいい。
憤怒するのは仲間の痛みだけでいい。
暴食たるのは長い戦いの前だけでいい。
嫉妬するのは強さを求める仲間だけでいい。
強欲になるのは仲間の解放のためだけでいい。
色欲に溺れるのは元の世界へ無事に帰ってからでいい。
あたしはただ
正義であり、勇気があり、知識があり、慎重であり、
忠実であり、貞節であり、愛がある、
そんな人間を目指しているだけだ。
だからあたしは絶対勝てるなんて思っちゃいない。
絶対勝とうとする思いがあるだけだ。
だから叡智の書。
あんたも油断しないで、
いつものように勝利をつかもうよ」
「…畏まりました。
それでしたらこんなこともあろうかと、
あの男にマーキングしておいた術式を、
探査いたします」
俺にはロリチートと本の話の内容が、
あまり聞こえなかったのだが、
このとき何故か思った。
それは最初から使っておけよ、と。
なにやら魔法陣が光り、
それが消えた後、
本が屈辱だとでも言わんばかりに報告する。
「主人、大変申し訳ないのですが、
すでにこの場所にいます」
「!?
あたしの神眼に映らないのに、どうしているんだ」」
驚いた顔のロリチートの足元にあったダンボールが、
突如跳ね上がり中から青年が出てくる。
「それはネ、
ダンボールをかぶっていたからだヨ」
なんだよ、そんな無茶な理屈。
そんな考えが胸をよぎる中、
コロシアムの会場にいる人の視線は、
いきなりダンボールの内側から出てきた青年に集中する。
というかなんでダンボールの下から、
出てきたりするの?
あれ?
それ以前に何で俺は、
ダンボールがあったことそのものを不自然に思っていなかったんだ?
確かに俺はダンボールを見て認識している。
まったく訳が分からないよ。
「あんた、いつからいたんだ?」
「いつからだっテ?
確か14分前にここについテ、
あとはいつ気付くかを仲間内でトトカルチョしながラ、
ダンボールの中に潜んでいただけだヨ。
何もおかしいところはなイ」
むしろおかしくないところがあるのだろうか?
ロリチートはすこしの間、
魂が抜けたような顔で突っ立っていたが、
自分の顔を叩いて強制的に覚醒させた。
「まあ、あんたがどんな風に出てこようが、実際問題関係ない。
ただあんたを倒して、あの装備を手に入れるだけだ」
そう言いながら得物である巨剣を構える。
その気迫、重心の安定さ、威圧感、闘志、隙の無さ、
全てが俺どころかバアル様すら超えている。
それに対し青年は、
威圧感どころか戦う気があるのかどうかすら怪しい。
さらに今にも矛を交えんとしているロリチートの目の前に、
青年は3本の指を立てると。
「三つ言っておく事があル。
一つ、ステータスは全て5でレベルは1ガ。
二つ、この体に剣先から出た衝撃波だろうガ、
爆発魔法で吹き飛ばした砂粒だろうガ、
光魔法のフラッシュだろうガ、
なんであろうと当てさえすれバ、
そっちの勝利ダ。
無論、こちらから当たりにいっても同じダ。
三つ、その上で何か一つ好きなハンデを言うがいイ。
勝つナ、みたいな勝負そのものに関わるもノ、
本気を出セ、みたいな強化をもたらすもの以外なラ、
攻撃するナ、防ぐナ、その場から動くナだろうガ、
なんでもOKだヨ。
それを踏まえたうえデ、
ハ ジ メ ヨ ウ カ」
完全になめた発言を繰り出す。
つまりはこの体には指一本どころか、
その程度すら触れさせることは出来ないし、
攻撃や防御をしなくても、
ロリチート程度なら勝てるといってるわけだ。
それを聞いたロリチートは、
蔑む様な顔をしただけだったが、
本はあからさまに興奮した挙動をみせ、
青年にくってかかる。
「ふざけないでいただきたい。
我が主人に対しそのような申し出、
逆の対場ならまだしも、
この立場でよくも言えるものです」
そんな激情を飄々と受け流す青年。
叡智の書と名乗るくせに、
意外と感情に流されやすい本。
そしてついにロリチートも本を無視し、
その申し出を受ける。
「いいだろう。
ならば、まっすぐ戦え。 決して逃げるな。
それだけでいい」
「OK、ハンデは決まっタ。
ならば始めようか。
さア、3…2…1…、
戦闘開始ダ」
その言葉がコロシアムの中に響いた瞬間、
ロリチートは青年に向かって駆け出した。
~AUサイド~
あたしは戦闘開始と言われた瞬間、
あいつに向かって全力で駆け出した。
本が珍しく感情を乱していたが、
それもあたしの感情の代弁だろう。
いかに憤怒せず、と己を戒めても、
仲間から引き継いだこの力をなめられて、
いい気分になるはずもない。
だから最初から全力で行く。
全力といっても時の旅人は使わない。
あれは時間をとめる関係上、
相手に攻撃を当ててもダメージは入らない。
攻撃をする一瞬だけ前に解除する必要がある。
だけど反射神経はステータスと関係が無い。
もし0.01秒で反応されたら、
万が一のことがおきかねない。
慎重かつ迅速に…、
倒す。
そう意気込んだはいいものの、
何してんだあいつ?
一本剣を取り出したかと思えば、
二本目、三本目、四本目、五本目、
六、七、八、九、十、十一、十二、十三、十四、十五、
そして十六本目の剣。
それらの剣を一本ずつ上に投げ上げ、
そして左手でキャッチして、
右手に渡し、また投げ上げる。
「確かあれって…シャワー?」
なんで大道芸が始まるんだ?
本格的に意味がわからないが、
無視して突っ込もうとすると、
腕の動きが変わり、
周りから驚愕と笑いが入り混じった歓声と、
盛大な拍手が響いてくる。
左腕を右腕の下に通すウィンドミル。
それをジャグリング用のナイフでもない剣で、
そして十六本でやっているのは脅威の一言に値するが、
それじゃあ戦いの意味は無い。
いつの間にか歩みの止まっていた足を再度動かそうとした瞬間、
何故ジャグリングをいきなり始めたのかを理解した。
空があまりにも暗く、何かがこのコロシアムの上空を覆っている。
否、覆っているんじゃない。
あまりの膨大さに埋め尽くされているだけだ。
「16ソードシャワー、
からの16ソードウィンドミル、
を囮にしたミリオンソードシャワー」
ふざけるな。
最初のシャワーと次のシャワーは、
意味が大きく違ってきてるだろうが。
「さア、インフレの波に飲まれて溺れたまエ」
16本の剣を結界でも張るように展開し、
あたしが近づけないようにしながら、
あいつの言うことが真実なら1000000もの剣が、
機関銃でも撃つかのように降り注ぐ。
でも…
機関銃じゃまだまだ遅い。
コロシアムの内部が剣でびっしりと覆われ、
観客たちがどよめく中、
青年は一人勝ち誇る。
「まだまだですネ」
だけどあたしはまだ負けちゃいない。
1000000本だろうが、あたしそのものを囲めるのは、
せいぜい1000本が限度。
同時に1000本を捌き続けることが出来れば、
これは1000対1となんら変わりない。
そしてあたしにはそれだけの力がある。
だから無傷で剣の山に身を潜めている。
そして今、膨大な剣の山から飛び出した。
その油断した体を真正面から刺し貫こうとする。
だけど剣があと少しで届く距離になった瞬間、
後ろから猛烈な力で引っ張られる。
「数が足りなイ。
そうですカ。
よろしイ、ならバ、グーゴルソードで」
それを後ろに引っ張られながら耳にする。
あれっ、確かグーゴルって、
10の100乗だったっけ。
無量大数が64乗だから…、
おいおい、インフレにもほどがあるだろ。
剣が一本一本1キロだとしても、
それの10の100乗倍だとしたら、
地球でさえ10の25乗キロもないのに、
それをはるかに超えてるなんて。
今、引っ張られてるのはそれか。
冗談がきついよ、まったく。
そしてあたしはコロシアムどころか、
地域一帯全てを巻き添えに、
敗北した。
~人形サイド~
今日はさんざんな日だった。
タロットや他の魔王様と会えたのはよかったけど、
痛みはないけど剣に刺されるわ。
同じく痛みはないけれど剣の星?に引き込まれて、
体がぐちゃぐちゃになるわ。
まあ、もう過ぎたことだから別にいいけど。
タロットを盾にしたからそこまで深く刺さらなかったからいいけど。
そういいながらも微妙に気にしながら歩いてると、
不意に声がかけられる。
「きにゃ、来てたのです?」
おっ、師匠がいた。
ここ最近あってなかったけど、
というか今の騒ぎの発端は師匠にあるとかって聞いたけれど、
それにあの青年の関係者であることが確かなわけだけれども、
まあ、そこらへんはおいておこう。
「お久しぶりです。
それより何ですか? あの量は。
なにやらゴーグルでしたっけ?
それだけの量をよくぞ…」
それでも沈黙はいやだったので、
あたりさわりのない話題を振る。
「みにゃ、サウジリオンなのです」
…へっっ?
「ねにゃ、じいさんの最大数はサウジリオンソード。
その前に使うのがミリミリオン。
つまりあと2段階インフレ化を残しているのです。
この程度で驚いていたら身が持たないのです」
そう言い残すと、
呆然とする俺を置き去りにし立ち去っていった。
説明
ミリミリオン…10の約3000000乗、ただのキチガイ数字。
あまりのも膨大すぎて誰も使わない。
そもそも宇宙全体の素粒子の数が
だいたい約10の80乗程度?<脳内インフレにより故障中>なので、
物理学的にはまずない。
サウジリオン…10の10乗の10乗の10乗の100乗から0を4つだけ取った数字。
もはや頭がおかしいとしか思えない。
”キャラ紹介”
エラー
エラー