第10話:弱肉
遅れてしまったがそれでも始まりは始まりだ
最近俺が単独行動をとることが多いので、
タロットがかまってちゃんになっている。
「どこのウサギなの? 寂しいと死んじゃうの?
孤独なの? ぼっちなの?
彼女いないの? 童貞なの?」
とかって煽っていたら、
「そうだな、自由人の誰かが、お見合いとか、合コンとかやってるって聞いたことがある。
ちょっとそこに行ってみるわ」
と、適う事のない希望を胸に去っていった。
というか姿形の大きく違う、
声も能力も大きく違う、
性格だって違うだろう、
そんなこの世界で、
一体何を求めているんだろうか?
タロットが見えなくなったところで俺は街の外に出て、
西にある近くの森へと進む。
ここは初心者から中級者まで使う、
通称、豚人と虎のジャングル。
今まで言っていなかったが、中央の街からは基本的に四方向へ進むことが出来る。
俺たちが最初レベル上げをしていた南のウサギ平原。
伝説が眠る土地へと続く東のゴブリン沼地。
神々が顕現する聖地へと続く北のスライム荒野。
そしてプレイヤーの目標である魔王が君臨する土地へと続く、
北のオークと虎のジャングルである。
クリアへ至る道だからか中央の街からいける場所としては、
四方向の中では一番難易度が高いが、
その分を帳消しにするほど経験値が高い。
またオークからは財宝、
虎からは毛皮、
どちらも高く売れる品物なので、
そこに行くプレイヤーはあとを絶たない。
ただしオークはただでさえ強いのに集団行動をとり、
虎は攻撃力、隠密能力、敏捷度が著しく高く待ち伏せするので、
死ぬ人もあとを絶たない。
そこで俺はそれに便乗しよう。
さあ、PKの開幕だ。
まずは確実性を出すために、ソロのやつを狙ってみるか。
それとも洞窟の入口から逃げられないように殲滅してみるか?
それとも…いやまて…これなら…、
ああ、もういいや。
とにかく殺そう。 考えるのはその後だ。
#人形 男<Lv83<+55>>
Str:420<+280> Vit:42<+280> Int:42<+0>
Min:42<+280> Dex:42<+28> Agi:840<+56>
MP:42<+0> Luk:210<+56>
スキル:死の雰囲気<2>、一方的な攻撃<3>、感染型状態異常<1>、隠蔽<10>、
死の感覚<3>、呪刻魔法<1>、人喰<3>、惨殺<4>、
実験動物<1>、快楽殺人<3>、PK<黒>
無拍子<R><1>、認識の歪み<R><1>、ペイン<R><1>、遅覚<R><1>、
伝達阻害<R><1>、悪夢<R><1>、
君と僕だけの世界<SR><1>
武器:毒塗りペシュカド<短剣> 攻:144 特殊効果:毒80 備考:抉りやすい
防具:オークの着ぐるみ 防21 備考:視界狭 オークだと思われる
キュウ○エ人形:耐:50 特殊効果:レーダー、テレパス、インベントリ
~とあるプレイヤー~
俺はカナリヤ。 本名は八雲 カラレ。
今は攻略とかは他の人に任せて、
彼女と一緒に楽しんでプレイしている。
ちゃんと安全マージンはとってあるし、
器用値が高い意外は平均的にとってあるから、
長所こそないものの弱点もない。
この森はたまにオークの集団とか、
虎の待ち伏せにあうから危ないそうだけど、
俺の吟遊詩人スキルである、
まあ、吟遊詩人じゃなくても取れるスキルだけど、
楽器を鳴らしてその音を聞き取り周りを察知する、
音響探査というスキルがある。
これで虎のいる場所や、
1匹から3匹くらいでたむろっているオークの場所が分かるってわけさ。
このスキルがあれば、
彼女には…八雲 牧子ことマッキーには、
オークの薄汚い指なんて一本も触れさせない自信がある。
「いや、何言ってるの?
前衛職である私こそがカナリヤに指一本触れさせないんだから」
そう嬉しいことを言ってくれるマッキー。
本当に俺は幸せものだ。
だから、俺は俺の俺にしか出来ない<スキルがあれば誰にでも出来る>
仕事を始めようか。
”音響探査”
よし、後方120m程度にオークの群れ。
右斜め前方70mにはぐれオーク。
左200m先に虎。
「じゃあ行こうか」「うんっ」
少し歩くと標的はすぐに見つかった。
こともあろうか木に寄りかかって休んでいる。
このゲームのモンスターはAIを搭載しているから、
そのせいで手ごわいからいやだけど、
生活感とかまで再現されてるから、
たまにこうやって休んだり食事をして、
非戦闘態勢のオークがいるのだ。
これはチャンスと思って突っ込もうとしたけれど、
マッキーから冷静な判断が下る。
「待ちなって、カナリヤ。
ほら、あのオークってナイフ装備してるじゃない。
もしかしたらあのオークってはぐれじゃなくて偵察兵とかじゃないの?」
もしそうだとしたら、さっき突撃してたとしたら、
仲間を呼ばれて大変な目にあう可能性が多かったわけだ。
いくら安全マージンをとってるといっても、
多勢に無勢でも平気かと問われると、
無理だと即答できる程度だ。
「ありがと、マッキー。
ほんとマッキーはサイコーだわ」
「なによ、照れるじゃない。
カナリヤだってサイコーだと思うわよ」
いや待てのろけてる場合じゃない。
これがチャンスであることには変わらないんだ。
ん? ちょっとまてよ。
もしかしてあれをこう使えば…、
俺は仲間を呼ばれるのを阻止する方法が一つあるかもしれない。
「ちょっと試してみようかな?
これで仲間が呼べないかもしれない。 音響空間」
「何やってるのよ、カナリヤ。
それじゃあ、逆に声が大きくなっちゃうじゃない。
頭でもいかれたの?」
違うんだな、それが。
確かにこのスキルは一般には声を大きくして、
支援歌の効果をあげるのに使われる。
だけど正確には、
音を反射する結界を張ることで、
その内部の音を増幅する程度なんだ。
効果範囲を広げたかったらマイクというスキルを使えばいい。
ステレオでも効果範囲は爆発的に増える。
まあ、話は逸れたがこれで、
偵察兵オークの仲間を呼ぶ声は、
この結界で反射し、
そもそも僕らが戦っているのを、
目視できるやつらぐらいにしか伝わらない。
そのことをマッキーに言ったら、
「すごいじゃない、
それでいっちゃいましょ。
あとこれを攻略組に打ったら、
なんか報奨金とか出るかもね」
ああ、そうだな。
スキルの新しい使い方とかにも、
それが使えるとなれば貪欲に求める連中だからな。
俺たちのために頑張ってくれてるし、
このくらいは援助してやらないと。
「それじゃあ、1,2の3で突っ込むわ。
そしたらあなたの歌で援助して。
頼りにしてるから」
ああ、こっちもだよ。
マッキーは得物である長刀を手に、
見つからないよう近くまで歩を進める。
それじゃあ、
1、2の
3!
3を数えた瞬間マッキーは勢いよく長刀を前に、
突撃していく。
それを見てオークもようやく戦闘態勢にはいるが、
遅い。
どうせばれるのだからと僕も声高らかに、
支援歌”戦士賛歌”を歌い上げる。
これで一撃とは行かないまでも、
数回攻撃すれば死ぬだろう。
そんなあまい事を考えていた俺にもありました。
長刀をマッキーが振り下ろした瞬間、
オークとマッキーは一瞬にして見えなくなってしまう。
はっっ?
ここからが地獄の始まりだった。
マッキーがいない? 何で?
オークも一緒に消えた? 何で?
何で消えたんだ?
でもあんな事になるなら、もういっそのこと消えたままでいてほしかった。
少ししたら両方とも消えたのと同じくらいの唐突さで、
俺の前に出現する。
だがマッキーは消える前と後で、大きく姿を変えていた。
なあ、マッキー。 何で腹が抉られているんだ?
なあ、マッキー。 何で顔が恐怖に歪んでいるんだ?
なあ、マッキー。 何で腕と足がなくなっているんだ?
なあ、マッキー。 何でオークの口から腕が飛び出ているんだ?
なあ、マッキー…。
嘘だろ、嘘だろ、嘘だろ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ、
こんなの嘘に決まっている。
マッキーがオークに負けて死ぬはずがない。
マッキーはまだ死んでない。
そうだろ、マッキー。
茫然自失としている俺の足元に、
オークはマッキーの頭を転がしてくる。
その顔に貼り付けられた笑みは、
オークという醜悪な種族にもかかわらず、
とても気持ちよさそうに見えた。
「ああ、そこの君。
女性の体って、ほらっ、男性の体に比べて、
こう、むちっとしてるというか、
やわらかいような食感がまろやかとか、
そんな感じがしておいしいと思わない?
ほら君にもこれをあげるよ。
一緒に食べよう。
おいしいものはみんなで食べたらもっとおいしくなるからね」
オークがいきなり笑顔で話しかけてきたが、
その言葉の十分の一も理解できなかった。
おいしい? 何が? 女性が? 男性が? マッキーが?
食べる? 何を? 肉を? 人を? マッキーを?
一緒に? 何を? 食事を? 食べよう?
マッキーを、一緒に、タ ベ ル??????????
「なんだ? 食べないの?
なら君も
エ・サ・ニ・ナ・レ」
グサッグサッグサッグサッグサッグサッグサッグサッグサッグサッグサッグサッグサッグサッグサッ
グサッグサッグサッグサッグサッグサッグサッグサッグサッグサッグサッグサッグサッグサッグサッ
グサッグサッグサッグサッグサッグサッグサッグサッグサッグサッグサッグサッグサッグサッグサッ
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
だれか…俺を…
殺してくれ
そして望みどおりそのプレイヤーは死亡した。
”キャラ紹介”
カナリヤ&マッキー
吟遊詩人である支援系と、
長刀使いであるアタッカー&タンクのバランスのよさ。
現実世界でも二人は付き合っており、
そしてこの世界で物理的に永遠に別れた模様。
尚、カナリヤは合コンで鍛えた綺麗なテノールを生かしたいが故に、
マッキーに無理を言ってこんなスキルになったのだという。




