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エルフさんと学ぶ憲法、その2:国民主権とは?

 太陽が燦々と輝くお昼時、大学の中庭にアキラとラティの姿があった。

 芝生に腰を下ろした二人の膝上には空になった弁当箱が鎮座している。


「ごちそうでした」

「はい、お粗末様でした」


 言葉と共にそそくさと弁当箱を回収するアキラにラティは微笑みかけた。

 今日の二人は作る人、食べる人であった。


「アキラさんは本当にお料理が上手になられましたね」

「自分でやらないと向こうでは死んでましたからね、主に味覚が」

「ええ、講義もそのくらい真面目に――」

「さあ今日の講義を始めてください、ラティ。僕は頑張りますよ!!」


 ・国民主権


「勢いで流された気もしますが、今日の本題に入ります。

 アキラさんは『国民主権』についてはご存知ですか?」

「単語だけは、一応ですが。基本的人権の尊重、平和主義と並ぶ日本国憲法の三本柱のひとつですね。

 昨日の話からすると、国家の決定権が国民にあるということでしょうか?」

「復習もきちんとされているようでなによりです。

 正確には、主権とは『国家の政治のあり方を最終的に決める力』、より平易な言い方をすれば『国家権力』のことですね。

 これが国民の元にあり、他国などに邪魔されずに行使できる、ということを指して国民主権と言います。

 このことは憲法前文や、第一条において『主権の存する日本国民』と明記されていることからも窺えます」


 >前文(抜粋):日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。


 ※翻って、他国に占領されたりして国家として独立した意思決定ができない状態を主権がないといいます。


「さて、アキラさん、ここで言われている“国民”というのは誰を指していますか?」

「えっと、一言でいうのは難しいですね」

「あら、どうしてですか?」


 ラティルは嬉しそうに問いを重ねた。

 アキラがわからないではなく、難しいと答えたからだ。


「現在の日本のような代表民主制において、主権の最も顕著な行使方法は『選挙権』です。

 その点を考えれば、ここでいう国民は『有権者』であると考えるのが自然なように思います」

「それではいけないのですか?」

「僕たちは議員を選んでも、良くも悪くも彼らに○○をしろと命令、あるいは委任している訳ではありません。

 同時に、彼らは『全国民』の利益を考える必要があります。有権者のことしか考えてなかったらそれはそれで困ります。その点で、主権が――国家の政治のあり方を決める力が有権者だけにあるとは言いきれません」


 アキラの解答をラティは満面の笑みと小さな拍手で迎えた。


「素晴らしい解答です。アキラさんの仰った全国民とは『現在存在している具体的な個々の国民全体』と言い換えられます。

 これはやや同語反復(トートロジー)な言い方になって申し訳ないのですが、憲法によって憲法を規定するのが『立憲的意味での憲法』である以上、憲法を制定する権利も全ての人間が生まれながらに持っている筈ですね?」

「仮に憲法によってその権利を与えるのでしたら、卵が先か鶏が先か、という話になってしまいますし、前憲法的権利であると考えるべきですね」

「そうなりますね。そして、この憲法を制定する権利ですが、既に憲法が制定されている日本では『憲法を改正する権利』と言い換えられます。

 実際の憲法改正の手続は『日本国憲法の改正手続に関する法律』で定められているのですが、投票できるのは有権者だと想定されています。これをどう考えるかが問題となります」

「つまり、国民主権のいう『国民』とは本質的には『全国民』ですが、実際の権利の行使の面では『有権者』であるという風に考えられるんですね」



 ・まとめ

 国民主権とは、国民=全国民、主権=国家権力の行使。

 しかし、選挙権は有権者に限られるように国家が縛りプレイしているので、選挙や投票などの場面では国民=有権者でもある。


 ざっくり言うと、全国民のパワーを結集した権力玉をスーパー国民がぶっぱなす方式です。

 スーパー国民は場合によって、有権者→議員→首相と形態変化していきます。


 ※国民主権における『国民』の解釈は、全国民主体説と有権者総体説という二説が対立した結果、上記のような折衷説でいいんじゃんというのが通説になっています。


 法学では極端な論に対抗する為に逆極端な論を持ち出して泥沼の論争になった末に折衷案が通説になると言うことがままあります。

 折衷案だと定義が広くなりすぎて曖昧になって意味ないじゃん、とツッコミが入るまでが一連の流れです。



 ・余談

 『憲法を制定する権利』と『憲法を改正する権利』を一緒くたにしていいのか?と疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれません。

 これは改正するという意味をどう捉えるかにもよるのですが、ここで言う『改正』とは変えようと思えば1から10までまるっきり変えることまで含んだものと解されています。


 その顕著な例が『日本国憲法』です。

 日本国憲法は手続き上は明治憲法を改正する形で発布されています。

 日本国憲法の頭に『朕は~』とあるのは、日本国憲法が発布されるまでは明治憲法が維持されていたからです。


 では、なぜ学校では「新憲法」などとまるで新しく憲法を制定した空気で語られているのでしょうか?


 これは、日本国憲法の制定された1947年、日本はまだ占領統治中で『主権がなかった』のに(主権の最もコアな部分である)『憲法を改正する権利』があったのか、いやない。したがって、日本国憲法は無効だ!!

 ――と主張して大学の憲法学でも明治憲法しか講義しない先生がいたりいなかったりしたから、かもしれません。

 現在でも、手続き的にグレーな部分のある日本国憲法は改正して真白くした方がいいんじゃないの?と法律面から主張されている方はいらっしゃいます。



 その2、終了



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