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僕の羊と君が眠るまで。  作者: シュレディンガーの羊
◇青い恋をしている10題
7/32

貴方だけは言わないで。




好きに終わりがあるなら、

きっと貴方を好きにならなかったのに。




「わたしは好きよ」


こんな時にも、貴方は目を逸らさない。

だから、その瞳が好きだった。


「でも、もうだめなんでしょう?」


静かに尋ねた。

泣き叫ぶなんて考えられなかった。

そういうところがよくないのも理解していた。

自分が可愛くないことなんて、ずっとずっと知っていた。

それでも、貴方に名前を呼ばれるたびに可愛くなれる気がした。


「すまない」


その一言に、わたしは目をつぶった。




好きな本が一緒だった。

始まりはそんなささいなこと。

それがいつの間にか、お互いに本を薦め合い、好きな音楽の話をして、休みの日に一緒に出かけるようになった。

気づけば友人だったし、気づけば恋人だった。

分かりやすい区切れも、一般的な関係の手続きも一切なかった。


「好きだ」


ふいに話の途切れ目にそう言われたことがあった。

わたしはそれが今一緒に見た映画のことにも思えたし、わたしに言っているようにも聞こえた。

別にわたしは何がとは聞かなかったし、貴方もそれ以上は何も言わなかった。

けれど、気づけばどちらともなく手を繋いで、唇を合わせて。

甘さなんてきっとなかった。

どこまでも静かで、傷つかない距離で相手と恋していた。

それでも、わたしは貴方に恋をしていた。




「こんな終わりですまない」


閉じた瞼の向こうで貴方の声だけが聞こえる。

暗闇に溶けるようなその声がわたしは好きだった。

今まで好きだなんて口にしたことはなかった。

だから、いまさっき自分が言った言葉を思い出して、可笑しくなった。

それはまるで引き留めるように繋ぎ留めるように。

今まで、一度でさえ言わなかったのに。

それなのに、こんなに胸が苦しくて。


「終わりだなんて言わないで」


堪らず開いた瞳に、貴方。

眩しい世界と近いのに遠い貴方が悲しい。


「でも、終わるのは事実だ」

「終わらないわ。これから始めるの」

「……すまない」


貴方は頭を垂れて、それから踵を返した。

遠ざかる背中はこんな時にもしゃんとしていて、だから。

だから、好きだった。

そんな貴方だから好きだった。

さらさらこぼれ落ちていく気持ちを、なくしていく自分をかき集めて呟いた。


「終わるなんて言わないで……」


終わりじゃない。

わたしは終わるのが嫌だったのだと、貴方はきっとわからない。


「好きよ」


こぼれ落ちたひとつ。

愛おしげに頁をめくるあの長い指。


「好きなの」


こぼれ落ちるひとつ。

花を見つめるような優しいあの眼差し。


「貴方が思っていたより、わたしはきっと貴方が好きだったのよ……」


いま頬を伝う気持ちを、もっと早く貴方に言えばよかった。




終わるなんて言わないで。

お願い、わたしが恋した人。

わたしの想いなのに、終わるなんて貴方だけは言わないで。








青い恋をしている10題。

7.終わるなんて言わないで

『確かに恋だった。』より


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