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僕の羊と君が眠るまで。  作者: シュレディンガーの羊
◇青い恋をしている10題
5/32

鬼ごっこには負けません。




追いかけて追いかけて

それから罠をかけてみせてよ。




「せーんぱいっ!」


後ろ姿を見つけて、走り寄る。

勢いをそのままに抱き着こうとすれば、ぎょっとしたような顔で避けられた。

車は急には止まれないの法則で、せんぱいを通り越してしまい、振り返って唇を尖らせた。


「せんぱい、どうして避けるんですか!」

「……轢かれそうだったから」

「轢きませんよ! 失礼ですね! 私は普通に抱き着こうとしただけですよ」

「なら、逆に俺が引きそうになったから?」

「そこで首傾げないでくださいよ。私は普通にアプローチしようとしただけなのに」

「普通の意味と、アプローチの本来の意味を理解してほしいと思う俺の気持ち……」


遠い目をしかけたせんぱいに、なんだか今日も幸せだなんて私は思ってしまう。

せんぱいの黒髪くせっ毛は今日も寝癖ばっちりで、身長が高いのに猫背だから眠たそうな目もよく見える。

その姿を眺めていれば、なんだか自然と口元がにやけてきて、そのまま何も考えずに口を開く。


「せんぱい、今日も好きです」


対してせんぱいは一度だけ私に視線を寄越し、窓から空を見上げた。

返ってくるのは相変わらず一言。


「今日も空がよく晴れてるな」




せんぱいのことを考えると、きらきら弾ける炭酸とか、青空に真っすぐ伸びていく飛行機雲を思い出す。

なんだか胸がきゅーってなって、堪らなくなって走り出したくなる感じに似てる。

それで、その先にせんぱいがいたらいいのにって思う。


「せんぱぁい」

「その間延びした呼び方やめて」


気に食わない、とせんぱいが口をへの字にする。

それだけでなんだか可愛く見えて、嬉しくなってしまう。

緩む口元を隠して、尋ねてみる。


「ねぇ、せんぱいはそんなに私に素っ気ないんですか?」

「別に素っ気なくない」

「私の愛が足りないですかそうなんですね」

「そうではないんですね」

「なら何ですか、何が必要ですか」


ずぃと近寄れば至近距離で視線が交わる。

揺れることなんて知らないような黒い瞳。

そこに私はいますか。

なんて思いが一瞬だけ頭を過ぎる。


「67回」


不意にせんぱいがそう言った。


「ろくじゅうなな?」

「俺に好きだって言った数」


逸れた視線を追えば窓の外。

晴れた空が眩しくて、目を細める。


「本気なら普通そんなに毎日言わない。遊びで言ってるならやめてくれ」


静かな声がそうやって、流れていくのを聞きながら私は瞳を瞬いた。

せんぱいは淡々と続ける。


「誰かが俺を本気で好きなんて言ったら、その日は雨が降ると思う」

「雨が降れば信じるってことですか?」


気づけば、そんな馬鹿みたいな質問をしていた。

せんぱいの目が不機嫌そうに私に向けられる。


「俺の話、聞いてたの?」

「ちゃんと聞いてましたちゃんとわかりました。その上で質問しました」

「……ただの言葉のあや」


それを聞いて、私は迷わずにせんぱいの手を取り握った。


「な、」


もちろん予想外だったみたいで、慌てたように振り払おうとする。

でも、私は力を入れて握りしめる。


「好きですせんぱい」

「だからっ」

「お願いです、せんぱい」


私の切実な声音に気づいて、せんぱいの抵抗が止まる。

心の中で私は一度だけさんぱいに謝った。

せんぱい、ごめんなさい。

それからいきなり手をひっぱって、体制を崩したせんぱいの頬にキスした。

一瞬の空白。


「なっ!?」


今度こそ、手を振り払われて距離を取られた。

その目にありありと浮かぶ驚愕。

でも、もうそれくらいではへこたれません。


「こうなったら強行手段です」


わざと偉そうに胸を張る。

ただただ目を白黒させているせんぱいに強気に笑う。


「お願いです、せんぱい。これで私のこと、意識しちゃってください」


そう宣言してぱくぱくと口を閉開するせんぱいに、私はにっこりとしてみせた。




追い掛けるだけは時々辛くなってしまう。

だから、恋は人を強かにさせる。

気づいてくれないなんて嘆くくらいなら、気づかせてあげればいいのです。

暴論なんて言われてもいい。

ほら、せんぱい。

私のこと、意識しちゃってくださいな。








青い恋をしている10題

5.意識しちゃってください

『確かに恋だった。』より


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