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僕の羊と君が眠るまで。  作者: シュレディンガーの羊
◇青い恋をしている10題
2/32

曖昧に揺れて。




ありふれた言葉で

終わらせるならそこまでだと。




君の後ろ姿を見つけて。

笑って駆け寄ろうとすれば、その横に女の子の姿も見つけて。

あっと思ったときには、あたしの目の前で二人は手を繋いだ。

踏み出しかけた足が、道路に縫い止められたように動かなくなった。

何かを言いかけた唇は、小さく息を零しただけでそのまま閉じた。

照れたように笑った君が見えた。

その笑顔の先にいる女の子も、はにかむように優しげに笑い返して。

ずん、と心に鉛が落ちた。

あたしに気づかずに二人は歩いていく。

繋がれた手ばかり見ていた。

頭を過ぎるのは見たことない君の笑顔。返す女の子の姿。

気づけば、二人の姿はもうなかった。

固まっていた体に自由が返ってきて、やけに静かだった世界に音が戻ってくる。

でも、だからこそさっきの二人の繋がれた手と笑顔がちゃんと本当のことだってわかってしまった。

それでも嘘だって思いたくて笑ったら、その拍子に涙が零れた。

あれれ、と目を擦れば後から後から壊れたみたいに雫が頬を濡らす。

おかしいな、こんなはずじゃないのに。

溢れる涙に対して、感情は置いてきぼりで。

ただ、渇いていくのがわかった。

喉が渇いていくみたいにわかりやすくないけれど、何かが渇いていく。

ぽろぽろ泣きながらそう思った。




君と一緒に笑うのが楽しかった。

新発売のお菓子の話とか、最近見た映画の話でよくもりあがった。

君の話し方には独特のリズムがあって、あたしはそれが心地好くていくらでも聞いていられた。

だよなって一人だけ同意を求められると、なんだか嬉しくて、すぐにだよね、と笑顔で返した。

目が合えば息をするみたいに話をして、相手がへまをすれば、茶化しあった。

気づけばいつも君の前だと笑っていて、それが楽しくて嬉しくて幸せだった。




「好きなんじゃないの?」


クラスメートによく聞かれた。

でも、尋ねられるたびあたしは困った。


「好きだけど、わかんないよ」

「確かに大親友っぽくあるよね」


一緒にいて楽しいのが親友になるのか、好きな人になるのかその基準は曖昧で。

言葉にしてしまうのがなんだか怖くて、あたしはいつも笑ってごまかした。

みんなが、好き、かっこいいと顔を赤くさせている気持ちが、なんだかとてもありふれていて。

君への好きが、そんなありふれたものだと思いたくなかったのかもしれない。




溢れる涙がようやく止まった。


「好きじゃ、なかった」


ひび割れていく心のままに呟く。

心が鉛を詰め込んだように重い。


「好きじゃ、なかったの」


曖昧にしていた気持ち。

見て見ぬふりだった好きのカタチ。


「好きなんかじゃなかったんだから……っ」


繰り返している言葉が、気持ちを切り裂いていく。

小さく小さくかけらにしていく。

自覚も名前もなかった。

好きだからこそ曖昧にしていた。

だから痛くて、心が軋むように痛くて。




私は君が『好き』だったんだ。

さよなら、曖昧に壊れた私の恋。








青い恋をしている10題

2.曖昧すぎて壊れやすくて

『確かに恋だった。』より



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