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黒の管理者  作者:
第一章
9/50

6.

 

すみません。長いです。

キリの良い適当な部分が見当たらず、今回、2,000字オーバーです。

特に、携帯からご覧いただいている方、本当にゴメンナサイ…。

腱鞘炎に、ならないで、ね?




 

 

 

「ユウ、度々申し訳ありません。アートはいい奴なんですが、少々、真面目過ぎるところがあって…」

「いえ……」

「さ、ユウ様、こちらを羽織ってくださいまし。お身体が冷えてしまいます」

 バスケットから取り出した淡い色彩のストールをふわりと肩から掛けられる。

 

「あ、すみません。ありがとうございます」

「ユウ、彼女はジュディ。君の世話をしてくれるよう、頼んであります」

「ユウ様、申し遅れました。私、ヴィンセント様にお仕えしております、ジュディ・ブリュネルと申します。ジュディ、とお呼び下さい。ユウ様がこちらでご静養なさる間のお世話を、ヴィンセント様より承っております。どうぞ、ご遠慮なさらず御用をお申し付けくださいませね」

 そう言いながら、彼女はユウの手からタオルを受け取り、そっと微笑む。

 

「……いろいろとご迷惑をおかけします」

「まぁ、迷惑だなんて。スティアート様の方が、よっぽど迷惑ですわ」

「ジュディ、それはあんまりだ。アートが可哀想だよ」

 ぷぅ、と頬を膨らませる彼女の隣で、ヴィンセントが口元を押さえクツクツと笑った。

 

「気分はどうですか? 少しは楽になりましたか?」

 ヴィンセントがベッドの脇で跪き、ユウの顔を覗き込む。

「……ええ、おかげさまで」

 彼女は俯いたまま、ニコリともせずそう答えた。

「……少し、話をしましょうか?」

 

 ジュディがヴィンセントのいるところまで椅子を持ってくる。

 彼は片手を挙げ「ありがとう」 とジュディに礼を言い、椅子に掛けた。

 ジュディは「何か御用の際はお呼び立て下さいませ」 と、一つ黙礼をして部屋を出て行った。

 

「さて、何から話しましょうか? 何か訊きたいことはないですか?」

 相変わらず、物腰の柔らかい話し方で言葉を紡ぐヴィンセント。

「訊きたいことが多すぎて、どれから訊いていいのか……」

「そうですね。では、この大陸(せかい)のことを少し話しましょうか?」

 穏やかに微笑むヴィンセントに、ユウは、素直に首を縦に振る。

 

 

 * * * * * * *

 

 自然豊かでおおらかな大地、『レリーズフィールド』。

 この母なる大陸には、三つの王政国家がある。

 

 一つは、大陸の北東部にある『レイズリール』。

 鉱物の産出が多く、工業が主な産業で、この大陸では二番目に大きいな領土を持つ国。

 優れた技術の工業製品を大陸内外の国に輸出している。

 

 一つは、大陸の北西部にある『カーエンタール』。

 領土は一番小さいが商業が盛んで、主に貿易で成り立つ国。

 一次産業がほとんど根付いておらず、生活に必要なものは、そのほとんどを他国からの輸入で賄っている。

 また、貿易国であることから犯罪も多く、その為、大陸三国の中では、最も大きな軍事力を保有している。

 

 そして、最後の一つは、大陸の南側殆どを占める『ベイルシャール』。

 レリーズフィールド三国の中で最も領地が大きく、一番長い歴史を持ち、また、最も栄えている国。

 農業が盛んで、農産物はもちろん、その加工品の品質にも優れている。

 

 この大陸三国は、遥か昔に起きた大きな戦争以降、万一、その領地を他国から侵略されるような事態に陥ったとしても、すぐさま当事者以外の国の援助が入る協定を結んだ。

 とは言っても、ここ百年以上、そういった事態は起きておらず、どの国家の国民達にも安穏な暮らしが続いている。

 

 * * * * * * *

 

 ヴィンセントが物静かに語るこの“世界”を、ユウはじっと聴いていた。

 

 彼女が義務教育で教わった世界には、『レリーズフィールド』などと言う名前の大陸はなかった。

 やはり、この“世界”は、彼女がいた世界ではないらしい。

 

 ユウは溢れてくる不安な気持ちを抑え、ヴィンセントに向き直る。

 

「……私、コチラの“世界”に来て、何日経ったんでしょう?」

「眠り続けていたのは一週間です。ですから、今日で八日目。実は、貴女の首を傷付けたナイフ、アートが刃に弱い毒を仕込んであって……。貴女にはこの毒に耐性がなかったのか、大変辛い思いをさせてしまった。本当に申し訳ない」

 ヴィンセントが深々と頭を下げる。

 その姿に、なぜが動揺してしまう彼女がいた。

 

「あの、止めて下さい。こうして手当もしてもらっているし、もう、いいですから……」

「身体はどうですか? 傷は、痛みますか?」

「いえ、大丈夫です」

「そうですか……。術が間に合ったようで、よかった……」

 ホッとしたように表情を緩めるヴィンセントに、ユウは気になった言葉を問う。

 

「術?」

「ええ、解毒のための魔術ですが、それが何か?」

「魔術、ですか」

「力の小さな者でも使えるような特別なものではありませんが、どうなされました?」

「……私の国に、魔術は存在しません」

「そう、ですか。ここに住まう者は、大なり小なり魔力を持ちます。魔力が無い、魔術が使えないと言ったことは有り得ないのです」

「……もう、どうやっても、帰れませんか?」

 絞り出すような声の問いかけに、ヴィンセントは辛そうな笑顔を浮かべた。

 

 何も言わない目の前の男に、彼女は縋るような視線を向ける。

 嫌な沈黙が部屋の中に満ちていく。

 その重い静寂に堪え切れず、ユウが両掌で顔を覆うと、その隙間から涙がこぼれた。

 

「……今、貴女をこの世界に呼び寄せた人間を全力で捜しています。すみません。私たちができるのは、それが精一杯なんです……」

「捜し出してどうするんですか? その犯人が見つかったとしても、私は帰れないんでしょう? なら、犯人なんかどうだっていい。私を、元の世界に帰してっ!」

 抑えていた不安な気持ちが一気に溢れ、咽び泣く声が叫び声に変わる。

 ユウの顔を覆っていた手は、何時しかシーツとともに固く握り締められ、強く震えた。

 慟哭が部屋中に響き渡り、ベッドの上で折った膝を抱え込んだ彼女の微かに震える背中を、温かく大きな手はそっと撫で続けた。

 

 暫くそれが続き、その声がほんの少し落ち着いた頃、項にヒヤリとした手が添えられ、直後、ユウは恐ろしいほどの眠気に襲われた。

「な、にを?」

 ユウがヴィンセントを睨み付けようとするも、力は全く入らない。

 

「“眠り”の魔術をかけました。……もう少し、おやすみなさい」

 辛うじてヴィンセントの姿を視界の端にとらえたところで、ユウはそのまま深い眠りに落ちて行った。

 

「……力及ばずの私を、どうか許してください」

 震える声で呟いたその顔が、恐ろしいほど苦しげに歪んでいたことを、彼女が知ることはなかった。

 

 

 


 

ここまでお読みいただきました、心優しきあなた様。

お疲れ様でした。そして、心から、ありがとうございます。


諒でした。



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