4.
その夜、彼女は泣き明かした。
でも、どんなに悲しみに暮れていても時間は刻々と過ぎ、朝がやってくることを、改めて思い知る。
窓から差し込む眩しい朝日の中で、ユウは、ぼんやりと空を眺める。
ほとんど眠れなかったせいで、瞼が重い。
でももう、そんなことはどうでもいい、と思っていた。
元の世界には、父の元には、帰れない。
そう思うと、また、涙がユウの頬を伝い始めた。
呆然とベッドの上で俯いていると、ドアをノックする乾いた音が耳に届く。
ゆっくりと顔を上げると、白金の髪の美丈夫が驚いた表情でこちらを見ていた。
彼はユウに歩み寄り、そっと肩に触れた。
――気分は……。良い訳がないな、その様子だと。
ユウは、ただ、俯いた。
――ユウには、暫くの間、ここで滞在してもらうことにした。ここは私の屋敷だ。気を張らずに、ゆっくりすると良い。
――あ、あの、ヴィンセントさん……。
――ヴィンス、で良い。皆、私のことをそう呼ぶ。
――ヴィンスさん。
――ヴィンス、だよ? ユウ。
――私、ここでお世話にはなれない。
ユウが顔を上げてそう言うと、ヴィンセントの整った眉がピクリと上がった。
――何故?
――何故って……。私、この“世界”の人間じゃないんでしょ? 得体の知れない者がいれば、きっと、あなたの家族だって気味が悪いだろうし。
ユウがそこまで言うと、ヴィンセントは跪いて視線を合わせ、彼女の左手を取った。
――気にしなくてもいい。この屋敷には、私一人だ。ああ、勿論、仕えてくれている人間が多少はいるが、全く持って気に病むことではない。
そう言って、彼はふわりと優しい笑顔をユウに向ける。
そして、ポケットから何かを取り出した。
――言葉の不自由を解消できるかも知れない術をかけておいた。うまく行くといいんだが……。
右手に持ったそれを、相手の左の掌に押し付ける。
何の飾り気もない、銀色のリングだった。
――これ……。
左の掌の上で白く光るそれを、彼女はじっと見つめる。
――元の世界に、還してやりたいのは山々なんだが……。これで許してはもらえないだろうか?
ヴィンセントは、掌から自身の左手でリングを拾い上げ、ユウの左手の指に通す。
彼女は、一瞬、空間の歪むような不快な感覚に包まれたが、それはすぐに無くなった。
「どうですか? 私の言っている言葉が理解できますか?」
穏やかな口調のヴィンスの声。今度は彼女にもはっきりと言葉の意味を理解できる。
「はい、解ります」
「良かった。とりあえず、もう暫くはゆっくり休むと良いでしょう。あとで、必要なものを届けさせます。食欲は?」
(何も、欲しくない)
彼女は、そう意思をのせて、ゆるゆると首を横に振る。
「そうですか……。さ、横になって。もう一眠りなさい」
ユウを再びベッドに寝かせた後、ヴィンセントは静かに部屋を出て行った。
これで、ようやく会話のややこしい設定が取り払えました。
(↑なら、そんな設定にするなっていう…。すみませんm(_ _;m。)
ご協力ありがとうございました。心より御礼申し上げます。
今月中にもう少しお話を進めたいと思っています。
宜しければ、またお立ち寄りくださいませ。
ここまでお付き合いくださったあなた様に、最上級の感謝を。
諒でした。