3.
――どうだ? 少しは落ち着いたか?
「はい、ありがとうございます。お紅茶、ご馳走様でした」
彼女は、すっかり飲み干してしまったカップを男に手渡す。
――声に出さなくてもいい。身体に触れていれば意思疎通できるから。
右手を肩に置いたまま、左手でカップを受け取り、彼は少し笑った。
――さて、落ち着いたなら、いくつか質問をしたい。その答えによっては、これからのお前の境遇が変わるから、決して嘘はつかないように。いいか?
その言葉に、少女はコクコクと頷く。
――では、まず、名を。私はヴィンセント・クリストファー・ロイスだ。
――榊侑です。
――サカキ、ユウ?
――そう。姓が榊で、名前が侑。
――では、ユウと呼ぶが構わないか?
ユウは頷く。
――ユウ。君がいた場所はこの国の許可された者以外は立ち入れない場所だったんだが、どうやって入ったか説明してくれ。
――解りません。っていうか、その前に、ここドコ? 私、帰らなきゃ。お父さんが、お腹空かせて待ってるから。
――どういうことだ?
――だから、私には解りませんってば。補習で遅くなって、学校から急いで帰ってたのに、突然目の前が眩しくなって、気がついたらあの場所にいたの。で、ここ、ドコ?
そこまで聞くと、ヴィンセントと名乗った男は、目を閉じた。
――ここは、ベイルシャール国の王都、ベイルファスト、だ。
――そんな場所、知らない。ねぇ、ホントのとこ、教えて? あ、どこかの国の領事館とか?
――嘘ではない。ここは、レリーズフィールド大陸のベイルシャール国だ。間違っても領事館などという場所ではない。
――知らない、知らないっ! そんな国の名前なんて、知らないわよっ!
シーツをギュッと握り締め、大きく頭を振る。
――……先程、ユウは、『突然目の前が眩しくなった』、と言ったな?
――うん。
――訓練生時代に読んだ古文書で、“召喚の術”を発動させた時、召喚対象は目も開けていられない程の光に包まれる、と読んだ覚えがある。これが正しいとすると、何処かの誰かが術を使って、君がいた世界からこちらの世界へ、君を呼び込んだのかも知れない……。確証はないが。
――呼び込むって……。なんですか、それ? どうして、私が?
――理由は判らない。
「私はうちに帰りたいだけよ? ねぇ、お願いだから、私を、うちに帰してっ!」
肝心なところをはぐらかされ、思わず目の前の男の両腕を掴み、身体を揺する。
――すまない、それはできない。召喚魔術は、今や、禁忌の古代魔術。その術を発動させたものは、その理由がどうであれ、処刑される。
彼は、そう言って表情を歪め、ユウから視線を逸らせた。
――……一人に、して……。
ユウは、強く掴んでいた彼の両腕を払い除けるように離し、シーツを頭から被り込む。
小さな溜息がシーツの向こう側から聞こえ、暫くすると、人の気配もなくなった。
涙が溢れて止まらない。彼女は、泣き声を我慢するのに精一杯だった。
本文中に、"―"で始まる会話(?)がありましたが、
魔術で直接相手の意識に語る、という設定でして…。
(ヴィンセント君が冒頭部でちらっと申しております)
加えて、『意識上の会話』ということで、
普段の話し言葉とは、若干、印象・言い回しが異なります。
いやはや、我が儘な設定が多くて、誠に申し訳ございませんm(_ _;m。
すべては、文書き能力の低い、私のせいでございます…(x_x;)
ご~め~んな~さ~いぃ~ ・°・(ノД`)・°・
今回も、ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
そんなあなた様に、最上級の感謝を。
諒でした。