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黒の管理者  作者:
第一章
5/50

2.

 

 

 どれくらい時間が過ぎたのだろう。

 柔らかに抱きとめられているような感覚の中で、少女は再び目を開けた。

 

「ここ……」

 

 簡素ではあるが、使いやすそうに整えられた室内。

 その窓際に備え付けられたベッドの上に、彼女はいた。

 開け放たれた向かいの窓からはさわやかな風が吹き込み、カーテンを揺らしている。

 

 そっと喉元に手をやると、包帯が巻かれている。

 どうやら、ナイフでつけられた傷の手当てをしてくれたらしい。

 ほぅ、と一つ、溜息をつく。

 

(私、どうしちゃったんだろう……)

 

『目が覚めましたか?』

 ぼんやりしていた少女の耳に、穏やかな男の声が届く。

 声の主は、ドアを背に立っていた。

 

『部下が大変失礼をしました。彼に代わって、お詫びをさせていただきたい』

 何かを話しながら、その男はゆっくり近づいてくる。

 少女には、“声”は聞こえど、その“言葉”が全く理解できない。

 その恐怖に、僅かな身体の震えを感じ、彼女はどうしようもなく俯いた。

 

『どうなさいました、お嬢さん?』

 ベッドの前で立ち止まり身体を屈めて、その男は不思議そうに少女の顔を覗き込んだ。

 シーツを掴んでいた手に、そっと触れられる。

 

 ――何を怖がっている。侵入者の分際で。

 

 意識の中に直接飛び込んできた“言葉”に、全身の血が一瞬にして沸き上がるような感情が、少女に湧き上がる。

 添えられた手を振り払い、睨みつけるように視線を返した。 

「侵入者だなんてっ! 私にも解んないわよっ!」

 思わず叫んだあと、彼女はハッと我に返る。

 頭の上から落とされる、男の、射抜くような冷たく鋭い視線に、身体はガタガタ震え、無意識に掴んでいたシーツをさらに強く握り締めていた。

 

 彼女の眼から溢れる涙が止まらない。

(こんなのイケナイ。私は、強く、明るく、いなければならないのに)

 

 ――泣くな。泣いても疲れるだけだ。

 再び意識に飛び込んできた“言葉”に、少女は顔を上げる。

 肩に手が添えられていた。

 

 ――解るか? 私の言っていることが。

 止まらない涙を放ったまま、彼女は必死で頷いた。

 ――とりあえず、落ち着け。

 男は紅茶の入ったカップを差し出した。

 ――おかしなものは入れていない。だから、安心して飲んでいい。

 その紅茶の仄かな香りと温かさは、恐怖に囚われた少女を解放してくれるものだった。

 



 

諸事情(?)により、2話連続でUPです。

宜しければ、もう1話、お付き合いくださいませ。

 


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