2.
どれくらい時間が過ぎたのだろう。
柔らかに抱きとめられているような感覚の中で、少女は再び目を開けた。
「ここ……」
簡素ではあるが、使いやすそうに整えられた室内。
その窓際に備え付けられたベッドの上に、彼女はいた。
開け放たれた向かいの窓からはさわやかな風が吹き込み、カーテンを揺らしている。
そっと喉元に手をやると、包帯が巻かれている。
どうやら、ナイフでつけられた傷の手当てをしてくれたらしい。
ほぅ、と一つ、溜息をつく。
(私、どうしちゃったんだろう……)
『目が覚めましたか?』
ぼんやりしていた少女の耳に、穏やかな男の声が届く。
声の主は、ドアを背に立っていた。
『部下が大変失礼をしました。彼に代わって、お詫びをさせていただきたい』
何かを話しながら、その男はゆっくり近づいてくる。
少女には、“声”は聞こえど、その“言葉”が全く理解できない。
その恐怖に、僅かな身体の震えを感じ、彼女はどうしようもなく俯いた。
『どうなさいました、お嬢さん?』
ベッドの前で立ち止まり身体を屈めて、その男は不思議そうに少女の顔を覗き込んだ。
シーツを掴んでいた手に、そっと触れられる。
――何を怖がっている。侵入者の分際で。
意識の中に直接飛び込んできた“言葉”に、全身の血が一瞬にして沸き上がるような感情が、少女に湧き上がる。
添えられた手を振り払い、睨みつけるように視線を返した。
「侵入者だなんてっ! 私にも解んないわよっ!」
思わず叫んだあと、彼女はハッと我に返る。
頭の上から落とされる、男の、射抜くような冷たく鋭い視線に、身体はガタガタ震え、無意識に掴んでいたシーツをさらに強く握り締めていた。
彼女の眼から溢れる涙が止まらない。
(こんなのイケナイ。私は、強く、明るく、いなければならないのに)
――泣くな。泣いても疲れるだけだ。
再び意識に飛び込んできた“言葉”に、少女は顔を上げる。
肩に手が添えられていた。
――解るか? 私の言っていることが。
止まらない涙を放ったまま、彼女は必死で頷いた。
――とりあえず、落ち着け。
男は紅茶の入ったカップを差し出した。
――おかしなものは入れていない。だから、安心して飲んでいい。
その紅茶の仄かな香りと温かさは、恐怖に囚われた少女を解放してくれるものだった。
諸事情(?)により、2話連続でUPです。
宜しければ、もう1話、お付き合いくださいませ。