6.
すっかりご無沙汰しております……。
それから少女は、再び、次の世界へと旅立った町の人々を丁重に弔った。
術師の身体は、燃えずに残った荷台を拝借し、二人が暮らした、町はずれの家まで運んだ。
「ヒュー。あなたは私に、何を望んだの?」
頬に付く、黒く乾いた血の跡を優しく拭いながら、少女はもうしゃべらないその人に問いかけた。
そして、青白く温度の感じられない頬にそっと口づけ、届くことの無くなった想いを口にした。
「……大好き、でした。もうあなたがいないなんて、考えたくないよ」
ほんのりと赤く色づく頬を寄せ、愛しい人を支える手にぐっと力を込めた。
「置いて……逝かないで……もう、一人は嫌なの、ヒュー」
静かに眠るその人の頬に、暖かな涙が落とされた。
枯れることを忘れた涙は次々と落ち、少女の表情をも共に流していった。
「……さよなら」
拾われてから共に過ごした家の脇に、術師の亡骸を埋葬し終えた少女は、あの日同様、父の形見のレイピアを手にし、その場を立ち去った。
一年前の誕生日に術師から贈られた、イヤーカフを耳につけて。
* * * * * * *
―― ソノ日カラノ事ハ、アマリ憶エテイナイ。イヤ、思イ出シタクナイダケナノカモシレナイ。
また少し薄くなった光は、ユウに真剣な眼差しを送る。
ユウは、向けられたそれを、正面から受け止めた。
―― タダ、兵ノ集団ヲ見カケルト、自国・敵国関係ナク殲滅シテイタ。ソレダケハ、オボロゲニ憶エテイル。
「エヴァ様……」
―― ソウ。我モ、村ヤ町ヲ襲ッタ奴ラト何一ツ変ワラナイ。……イヤ、ソレ以下カモ知レナイナ。怒リニマカセテ我ヲ忘レテシマッテイタ。ヒューハ、コンナコトヲ望ンデ、我ニ力ノ使イ方ヲ教エタノデハナイノニ。暫クシテ気付イタガ、既ニ引キ返セナクナッテイタ。ソシテ、我ハイツシカ、漆黒ノ人、ト呼バレルヨウニナッテイタ。
「漆黒……」
―― 黒イ髪二、黒イ瞳。加エテ、我ハ、夜、移動スルタメニ、黒イ服装デイタカラダロウナ。
眉を八の字にひそめ、小さく首をすくめたエヴァの姿を、ユウは、何となく微笑ましく思った。
しかし、そう思ったも束の間、その表情は、一瞬にして硬くなった。
―― アヤツガ我ノ前ニ現レタノハ、ソウ呼バレルヨウニナッテ、少シシテカラノコトダッタ。
「約束の、方?」
ユウの問いかけに、エヴァは、コクリ、と頷く。
―― ヒト目見テ、ヒューガ生キ返ッタノデハナイカト、疑ッタ。
「似て、いらしたんですね。その方と、エヴァ様の大切な方が」
―― アァ。髪ノ色、瞳ノ色。声ヤ体格マデ、瓜二ツダッタ。……呼吸ガデキナカッタ。我ガコノ手デ、冷タイ土ニ葬ッタノダカラ。
硬い表情のまま俯くエヴァに、ユウはかける言葉を見失った。
―― アヤツハ、静カニ我ニ声ヲカケタ。コノママ大人シク引ケバ、見逃シテヤッテモイイ、ト。我ハ、ソレヲ一瞥シテ、断ル、トダケ告ゲタ。
「何故……?」
再び顔を上げたエヴァは、静かな笑みと、その後に、何かを堪えるかのような表情を浮かべた。
―― ソコカラ数日、昼モ夜モ関係ナク、術ト剣技ノ応酬ヲ繰リ返シタ。アヤツハ強カッタ。アヤツノ纏ウ魔力ハ、ヒューノモノトソックリダッタ。姿容ダケデナク、コンナモノマデ似テイルノカ、ト心底驚イタ。ダガ、ソレモ、ソノハズ……
エヴァは、大きく息をつき、その目を伏せた。
―― アヤツハ……勇敢ナル人ト呼バレタ、クリストフハ……
「……その方は?」
―― ヒューノ子……ダッタカラ……