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黒の管理者  作者:
第三章
47/50

5.

若干の戦闘シーンと、人の亡くなるシーンがあります。

不快に思われる方、苦手に思われる方は、閲覧をお控えくださいますようお願い申し上げます。


皆様のご協力に感謝いたします。


 

 

「……エヴァ様?」

 そろり、とユウがエヴァの頬を伝う涙を拭おうと手を伸ばす。

 しかし、その手は目的を果たせず、空を切った。

 ―― 今、主ニ見エテイルノハ、我ノ思念。オ互イニ、触レルコトハ叶ワナイ……。

 少し哀しげに微笑むエヴァに、ユウは、行き場を失った手を、キュッと握った。

 

 

 * * * * * * *

 

 

 拾った術師と拾われた少女。

 この二人は、出逢いからしてよろしくなかった。

 

 束ねてもなおさらさらと流れる白金の髪を振り乱し、暴れ狂う少女を押さえつける術師。

 己の未熟さに気付きながらも、己の思うがままに生きようとする異色の少女。

 家の中では昼夜を問わず、男の怒声と、少女の張り上げる声が響いた。

 

 しかし、日数を重ねるにつれ、その絆は少しずつ深まり、穏やかなものへと変わっていった。

 術師は少女に、時には愛弟子のように、時には我が()のように、時には妹のように接した。

 少女は術師を、時には師として、時には父親として、時には兄として慕った。

 

 そうして彼女の周囲では、穏やかに時が流れ、少女は十七の歳を迎えた。

 だがしかし、世界では未だ戦火が弱まることはなく、その日は、突然やってきた。

 

 新月の深夜、普段なら目覚めることのない少女が目を覚ました。

 何気なく視線を向けた窓の向こうの見慣れた街並みは、灼熱の地獄絵図と化していた。

 

「ヒュー!」

 寝台を飛び下りて大急ぎで術師の下へ向かうも、その姿は既になく、少女はしばし、途方に暮れる。

 そうこうしているうちに窓の隙間から流れ込んで部屋中に漂い始めた、喉に絡みつくような臭いに、思わず眉根を引き寄せた。

 次の瞬間、少女ははじかれたように駆け出し、寝台の底に隠してあったレイピアを手に、転移の術を念じた。

 

 転移先は、町の広場。収穫祭や、定期市など、いつも人々で賑わう場所だった。

 しかし、いまはすっかり様変わりをしていた。

 

 屋台の立ち並んでいた道の両側には、すっかり焼け落ち、ぶすぶすと燻る家屋の残骸。

 道路には既に天に召された者たち。町のシンボルであった広場の噴水は、焼け出され、熱さに耐えられず飛び込んだものの、そのままこと切れたらしい人々で溢れていた。

 

 その光景に、少女は、ガグリ、と崩れ落ちた。

 かつて、自身の生まれ育った村で見た光景と重なり、全身の震えを止められなかった。

「エヴァ……」

 聴きなれた声が耳に届き、少女は我に返った。

「何故、ここに……」

「ヒューを追いかけて来たの」

「……俺の気配を追えるのか」

 術師は苦しげに表情を歪めた。

 そんな術師に少女は一瞬違和感を感じるも、すぐに拭い去った。

「ヒュー、みんなが……」

「あぁ。オレが来たときには、もう、この様だったよ」

 さらりと言ってのける術師に、少女はカッとなって食らいついた。

「何で! 何でそんな言い方……!」

「落ち着け。悲しんだところでどうなる? その隙に、今度は自分が殺られるんだ。そんな隙を与えるくらいなら、相手が打つ次の手を考えるんだ」

「な……!」

「ここは戦場だ。昨日までの町じゃない」

 ピシャリと言ってのけた術師の眼は、少女が拾われてから一度も見たことのない、感情のない瞳だった。

 

 見た目より逞しい両腕に掴みかかったか細い両手から、力がすうっと抜けた。

 間髪を入れず、背後から、ビャン、と空気を切る音が耳に飛び込んだ。

「来たか……」

 深い緑色の瞳の奥にギラリと光る何かを見つけ、少女は思わず後ずさった。

「行け。ここは、お前のいる場所ではない」

 冷たく響く男の声に、少女は我を取り戻し、携えたレイピアを構えた。

「何をしている! 早く行け!」

「嫌! 私は、私の意志で闘う! あなたの指図は受けない!」

 グッと噛み締めた歯列は、気を緩めるとすぐにガチガチと音を立てそうになるが、それでも、少女は、この場を離れなかった。

「……勝手にしろ。面倒見きれんぞ」

「自分の事は、自分で護れるよ。ヒューが、教えてくれたもの」

 すぅっ、と息を大きく吸うと、少女は防御術を唱え、錬成し、姿の見えない敵に備えた。

 その姿を見て、術師はひどく顔を曇らせたが、それはほんの束の間のことで、ふるりと頭を横に振り、相手の次の手に神経を研ぎ澄ませた。

 

 一呼吸の沈黙ののち、背後の燃え尽きた家の柱が、ガラン、と音を立てて崩れた。

 と同時に、四方八方から大量の矢じりが二人をめがけて飛びかかる。

(ブラィスト)

 術師の詠唱で瞬時に竜巻が起き、数多あった矢じりの多くはその役目を果たすことなく姿を消した。

 その少し慣れた場所で、少女は火炎の術を乗せたレイピアを揮い、飛んでくる矢じりを燃やし、叩き落とす。

 が、次々と休むことなく飛んでくるその数に、完全にと言っていいほどその場を離れる道を絶たれた。

 加えて、暗闇の中、敵の姿も未だ捕らえることができておらず、二人の表情にも疲労の色が濃くなっていった。

 

 そうして、かなりの時間が過ぎた。

 矢じりの雨は、どうにか止んだように思われた。

 

 二人の周りには、黒く焼け焦げたり折れたりした、大量の矢が落ちていた。

 そんな中で、ふらふらと立っているのがやっとの少女を、術師が諭す。

「もういいだろう、お前は早くここから去れ」

「嫌だ! まだ、私は、闘える!」

 そう言いながら両足を踏ん張る少女に向け、術師は、すい、と手をかざした。

「何を……!?」

「行け。お前には、まだ、未来(あした)がある」

「嫌だ! ヒューと一緒に……」

封鎖(ブロエイド)移動(トラフ)

 少女が全てを言い終わらない間に、その姿が術師の目前から消えた。

 

「どうか、生きてくれ、愛しい人……」

 ポツリ、と寂しげに呟くと、術師は、その気配を一変させた。

「さぁ、終わらせよう……」

 天を仰いだ術師の周りの空気が、ドン、と歪んだ。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 それから三日後。

 少女は、飛ばされた場所から、ようやく町へと戻ってきた。

 幸いにも、飛ばされた先は彼女の見知った町ではあったが、術師に転移の術をかけられてから、なぜか術が使えなくなっていた。

 そのせいで、この町に戻るまでに三日間もの時間を費やすこととなった。

 

 ようやく戻った町ではあったが、もはや人の気配はなく、街道に立ち並んでいた建物も、既に原形をとどめてはいなかった。

 

 少女は、町の中心にある、噴水の広場へと急いだ。

 そこは、術師と別れた場所。

 まだ、彼は、そこで待ってくれているかもしれない。

 そんな思いで、おぼつかない足を前に進めた。

 

 噴水のそばの街路樹に人影を見かけ、少女は足をもつれさせながら駆け寄った。

 

 そこには、眠っているかのような穏やかな表情で樹に背中を預け、息絶えた術師が座っていた。

 

「……ひゅ……」

 少女は溢れる涙を抑えることもせず、温度を失った術師の身体を強く抱きしめ、声が嗄れるまで慟哭し続けた。

 

 


ご無沙汰しておりました。


未だ、魔女様の昔話ですが、想定外に自身の身のまわりがバタバタしてしまったことと、自身の表現力の無さで、なかなか書き進められずに今日に至りました。


やっぱり、まわりくどい説明文が多くて、どうもすっきりしない……


もう少し時間が出来たら手を入れたい、と切に願っております。


こんな文章ですが、ここまでお付き合いくださったあなた様に、心の底からの感謝を。


諒でした。


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