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黒の管理者  作者:
第三章
46/50

4.


 術師と魔女様の、出逢いです……。

 



 仄明るく光る人影が、その姿を少し薄める。

 チッ、と小さく舌打ちをして、漆黒の人は、続きを語り始めた。



 * * * * * * *



 その術師は、小さな町の外れに一人住んでいた。

 町へクスリや野菜を売りに行った帰りに通りかかった、比較的人気の少ない往来の片隅に、うず高く積み上げられた薄汚れたぼろきれが目に付いた。


「……誰だこんなところに……」

 荷車をその場に停めて、改めてそちらを見ると、一瞬、山が、ぴくり、と動いた。

 怪訝な面持ちで近寄ると、ぼろきれの山だと思っていた物は、外套をまとった少女だった。

「おい、お前! しっかりしろ!」

 術師は少女を抱き上げ荷車に乗せ、自身の家に連れ帰った。


 そこから一週間、少女は高熱にうなされ、術師は親身に看病し続けた。

 八日目の朝、窓から差し込む朝陽に、眩しそうに目を細める少女の姿があった。


「熱は下がったか」

「あの、私……」

「行き倒れだよ。お前みたいなのが、無理しちゃだめだ。もう少し養生したら、すぐに家に帰るんだ」

 術師は少女に、少し辛く言って聞かせた。

「私…… 私は帰らない」

 果ての無いような虚ろなさまと、沸々と湧き上がるような怒りのさまを瞳に湛え、少女は、ぼそり、と呟いた。

「……何故?」

「帰る場所は、もう、ない。みんな、奪われてしまった。全て、壊されてしまった。とうさまも、かあさまも、村の人たちも、牛も、馬も、羊も、畑も、野原も、何もかもみんなっ!」

 少女の叫びとともに、一瞬の間も開けず派手な音を立てて窓ガラスが飛び散り、破片が術師に襲いかかった。

 術師は咄嗟に防御の術を念じ、寸でのところで光る破片(やいば)を跳ね除けた。


「……で、お前はどうしたい?」

 ちりちりと小さな音を立て、右手で砕けたガラスを集めながら、術師は少女に静かに訊ねた。

「……みんなの仇を取りたい」

 芯の通った声を聴き、術師は、はっ、と鼻であしらった。

「お前に何ができる? お飾りの剣を持ち、何もできず、ボロボロになって、道中で行き倒れているような奴に。さぁ、言ってみろ?」

 迫りくる気迫に、少女は怯えた。

 握り込まれた術師の右手は、徐々に赤く染まりつつあった。

「……何も、できない。でも、でも!」

「でも、も、クソもない。みすみす、命を投げ出しになんか行くんじゃない。自分の命をどう思ってるんだ?」

「忌み、嫌われるモノ。無い方が、良かったモノ」

 静かに答えた少女に、術師の平手が飛んだ。

「なんてことを言うんだ! オレがその性根を叩きなおしてやる!」

 そうして、少女、エヴァは、術師、ヒューの下で、生きていくこととなった。



 * * * * * * *



 ―― ヒューハ、厳シカッタ。我モ、一人デ暮ラシテイタカラ、身ノ周リノコトニツイテハ心配ナカッタガ、何セ、力ガナカッタ。デモ、ヒューハ、我ニ術ノ才能ガアルト言ッテ、丁寧ニ術ヲ伝授スルヨウニナッタ。『オ前ハ、敵討チニ行クンダロウ?』ト、ナ。


 遠くを眺めるように闇を見つめる瞳に、小さく新たな光が浮かんだ。









 

 いつもありがとうございます。

 今回も、魔女様、語りました。

 実は、魔女様、お話し好き……?


 ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。

 そんなあなた様に、心からの感謝を。


 諒でした。




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