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ご無沙汰しております……
第三章、本日より開始です。
漆黒の闇の部屋の中、少女が一人、佇んでいた。
遥か彼方から、絹糸のようにか細い光の筋が幾筋が差し込み、少女の頭部に落ちた。
光は少女の髪で踊り、その艶やかさを示す。
光の筋は次第に集束し、その太さを増していった。
光の中でゆっくりと瞼を開いた少女の瞳は、先程まで纏っていた闇と同じ色。
その瞳の奥には、癒えることのない哀しみを湛えていた。
瞳と髪の色を除いては、何処にでもいそうな見かけの少女。
しかし、彼女は、その風貌には似付かわしくない剣を携え、一人、部屋を出ていった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
いつもと変わりない朝がやってきた。
窓から差し込む、ようやく昇り始めた朝陽。
ガラス越しに聞こえる、小鳥たちのささやき声。
何一つ変わらない、静かな朝だった。
横たえていた身体をゆっくりと起こし、ユウは、小さく息を吐き出す。
それからベッドを降りて窓を全て開け放し、そのままの姿で靴も履かずに、中庭へと足を進めた。
朝焼けの落ちる芝生を素足で感じ、傍らに植えられた名も知らぬ草花にそっと手をやる。
何ということのない些細な行動が、特別なことのように思える。
そんな不思議な気分に、ユウは包まれていた。
中庭の中央にある樫の木の幹に背中を預けて座り、昇り来る朝日を眺める。
知らぬ間に、その頬を涙が伝った。
「ユウ……」
突然聞こえた声に、ユウはその肩を、ビクリ、と震わせた。
「泣いて、いるのか?」
ユウは、その心配そうな小さな声に、ゆっくりと首を横に振った。
「違うの、ヴィンス。泣いてるんじゃないのよ」
ゴシゴシと少し乱暴に目元をこすり、ぎこちない笑みを浮かべる。
「目にゴミが入ったみたいなの。それだけ」
そう言って、すぐ後ろまでやってきたヴィンセントを振り返った。
「大丈夫ですか? 見せて?」
隣に座ったヴィンセントの大きなあたたかい手に頤を取られ、つい、と上を向かされる。
ユウの目を覗き込もうとする顔が近づくにつれ、ユウの目尻には、再び涙が湛えられた。
「ユウ……」
「ごめん、ね、ヴィンス」
痛ましげに眉を顰めたヴィンセントに、ユウはポロポロと涙をこぼしながら困ったように笑った。
次の瞬間、その大きな手はユウの肩を抱き、自身の胸に小さな身体を押し付けた。
「我慢、しなくていい。無理は、しないでくれ」
大きくはないその声に、ユウの涙の堰は決壊した。