表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒の管理者  作者:
第二章
40/50

24.

 



 その場の空気が、一瞬にしてビリビリと緊張する。

「……今、なん、て?」

「聞こえなかったのなら、何度でも言う。ユウ、私の妻になって欲しい」


 突然の求婚を受けピシリと固まってしまったユウに、ルーカスはそっと手を伸ばし、髪を纏めているピンを抜き取る。

 逸らされることのない視線に、ユウは足がすくんで動けなかった。

 ほどかれたユウの黒髪に触れたルーカスの手が、つぅ、と毛先に向けて滑る。

「お願いだ。ユウ。頼むから、嘘でもいい、頷いてくれ」

 毛先を滑り降りた手は、ユウの手を取り、その甲にルーカスはそっと口づけを落とした。

「……嘘でも、いいって……?」

「お前を、護りたい。全ての事から」

「……お話が、見えません」

「お前が好きだ。ずっと、傍にいて欲しい。こんな風に誰かを想うのは、お前が最初で最後だ。頼む。何処にも、行かないでくれ」

 ふわりと引き寄せられ、柔らかに抱きしめられる。

「お願いだ、ユウ」

 耳元にかかるルーカスの吐息に、ユウは一層、動揺の色を強めた。


「……あの、きちんと理由を話して頂けませんか? 殿下」

 今にも爆発しそうな自分の心臓を落ち着かせるように、ユウは、少しゆっくりと声をかけた。

「突然そんな風に言われても、私には理解できません。それに、殿下は次期国王陛下。私は、異世界から落ちてきた得体の知れない小娘。どう考えても、無理です」

 困ったような表情のユウを、ルーカスは小さく驚いたように見る。

「あ、でも、嬉しかったですよ? “好きだ” なんて、今まで誰にも言われたことなかったし。嘘でも……」

「嘘なんかじゃない、本気だ!」

 少しはにかみながら話していたユウを、かみつくような勢いでルーカスが遮った。

「ユウが、好き、なんだ。愛おしくて仕方がない。この先も、ずっと傍にいて、俺の隣で笑っていて欲しいんだ」

 ユウを抱きしめているルーカスの両腕に、力がこもる。

 見上げた場所にある今にも泣きそうな顔をしたルーカスに、ユウは、ただならぬ事情を感じ取った。


「殿下、一度離してくださいませんか? 座ってお話ししましょう?」

 ユウの右手がルーカスの背に回り、二、三度、そっと触れる。

「……すまない」

「珍しいこともあるんですね。殿下がこんなに慌てられるなんて」

 ふわりと笑って話しかけるユウに、ルーカスは、先程とはうってかわって、全く視線を合わさなくなった。

「何かお飲みになりますか?」

「いや、いい。さっき、ヴィンスの所で散々飲んできたから」

 勧められた椅子に座ってもなお俯いたままのルーカスが、ポツリ、と呟いた。

「ヴィンスの所で……。そうですか……」

 そう言うと、一瞬だけ微かにユウの表情が曇った。

「さて!」

 気を取り直すかのように両頬をパチン、と叩き、テーブルを挟んでルーカスの向かいの椅子にユウが座る。

「先程のお話、きちんとしてくださいますよね? 殿下」

 力強い視線が、真っ直ぐにルーカスを見つめた。

 視線の先の人物は、今もなお、苦い表情のままテーブルに目を落としていた。


「話も何も、俺は全部話したぞ」

「まだ何か、隠してますよね? 殿下」

 押し問答を何度も繰り返してはそれをのらりくらりとはぐらかし、一向に視線を合わせない相手に、痺れを切らしたユウの口調が変わり始めた。

「隠してなんかいないさ。全て、話した」

 そう言ってルーカスは口を噤む。

「殿下、いい加減にしてくださいね? 私に言えないことなんですか? だったら、何故、あんな冗だ……」

「冗談ではないと言っているだろう!」

 目の前のテーブルを壊さんばかりに叩き付け、ルーカスが、ようやくユウを見た。


「で、ん……」

「あ……」

 ユウの頬を、つぅ、と一筋、伝い下りていくものがあった。

「す、すまない……。決して、そんなつもりはなかったんだ」

 手を伸ばして、そっ、と頬に触れる。

「……話すと、もっと泣かせてしまうかも知れない」

 眉間にギュッと皺を寄せ、ルーカスの表情が苦しげに歪む。

「でも、どんなお話でも、話してもらえないことの方が、私は悲しい」

「……わかった」

 頬を伝う真珠のような涙を、傷ついたものに触れるかのように拭って、ルーカスは、ようやく決意した。








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ