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黒の管理者  作者:
第二章
39/50

23.

 



 忘れた呼吸を取り返すかのように、ヴィンセントは大きく息を吐く。

「……不便(ふびん)だな」

「お前に言われたくないよ、ヴィンス」

 互いに顔を見合わせ、ニヤリと笑みを漏らす。

「それにしても、そこまで思い詰めるのは何故だ? 魔女の話に、続きがあるのか?」

「陛下は……父上は、ユウを盾にしようとしている」

「な?!」

「あの力を利用して、国を護ろうとしている」

「バカな……ユウを捨て駒にしようと言うのか? 何も知らないと言うのに?」

「力をコントロールできるように、近々、エディの下で魔術の教育を始めさせるそうだ。自分が犠牲になることを厭わないあの子の事だ。巧く扱えるようになった自分の力が皆を護ると聞けば、自ら進んで最前線へ赴くだろう」

「ああ、間違いなく。ユウは、そう言う気性だ」

「あの子にそんなことはさせたくない。血にまみれた場所など、あの子の立つ場所ではない。それに……」

 ルーカスの言葉が、不意に途切れた。

「それに?」

「……想い人一人護れずに、国なんか護れるかっ!」

 不貞腐れたように口元をへの字に歪め、吐き捨てるように呟くルーカスを、複雑な思いでヴィンセントは見詰めた。


「……で、どうするつもりだ?」

「妃として、迎える」

 ヴィンセントの問いかけに、間髪を容れずルーカスが答える。

「そ……!」

「何処の国が、戦わせるために王妃を戦地に送り込む? 俺には王妃候補は何人かいるようだが、正式に取り決めた婚約者はいない。不可能ではないだろう?」

「だからと言って、それは!」

「……思い、付かないんだ。どうしたら、引き留められるか。俺は、ユウを護るためだったら、どんな手段も使う。汚いと罵られようとも、構わない」

「ルー……」

 激しすぎるルーカスの決意に、ヴィンセントは絶句した。


 窓の外の茜色だった空はすっかり色を塗り替え、宵の闇が覆っていた。



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「では、フィオナ様、本日はこれで下がらせて頂き、また明朝にお伺いさせて頂きます」

 二人の侍女が、仕える女主人に深々と頭を下げる。

「今日も一日ありがとう、リア、ユウ。また、明日ね。御苦労様」

 フィオナは花がほころぶような笑顔を浮かべ、目前の二人に一日の労をねぎらう言葉をかけた。


「では、失礼致します」

「ありがとう、リア」

「おやすみなさいませ、フィオナ様。よい夢を」

「ありがとう、ユウ。あなたも、よい夢を」

 それぞれ暇の挨拶をして部屋を出て、詰所へと戻った。


「今日もお疲れ様、ユウ。いつも、ありがとね。私気が回らなくって」

「そんな。たまたまできることをしただけで……。リアさんも、今日もお疲れ様でした」

 お互いに顔を見合わせてにこやかに言葉を交わす。

 そんな穏やかな時間を、ユウは心から喜んだ。

「じゃあ、私はこれで部屋に下がるから。また明日ね、ユウ」

「はい、リアさん。おやすみなさい」

 大きく手を振り自室へと引き上げていくリアの後姿を、ユウはにこにこと微笑みを浮かべて見送る。


「ユウ」

 その姿が見えなくなった頃、後ろから、名を呼ぶ低い声が響いた。

 不意打ちを食らったユウは、一瞬、呼吸を忘れる。

 小さく息をし、恐る恐る振り返ると、そこにいたのはルーカスだった。

「……ルーカス殿下……もう、驚かさないでくださいよっ!」

 ユウがその姿を認め、ホッとしたのもつかの間、ルーカスの様子がおかしいことに気付く。

 いつもの掴みどころのない雰囲気はなりを潜め、酷く深刻な表情でユウを真っ直ぐに見ている。

「殿、下?」

 首を傾げ恐る恐る訊ねるユウの腕をとり、ルーカスは、詰所へと足を踏み入れ、扉を閉めた。

「殿下、どうなさっ……」

「ユウ。用件から言う。……私の妻になってくれ」




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