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黒の管理者  作者:
第二章
36/50

20.

 



「……そう遠くない将来、この国によからぬことが起きる、と、何処からか聞こえてきました。恐らく、争い事の類かと思われますが……」

 ルーカスが、重い口を開く。

「いつも早いな、お前の情報網は」

 フッとひとつ鼻で笑い、国王は続けた。

「そうだ、お前の言うとおりだ。さほど遠くない未来、この大陸で大きな争い事が起きそうだ」

「何故……」

「はっきりした理由は、まだ解っていない」

「避けられないのですか?」

「多少の時間稼ぎはできるやもしれん。しかし、完全な回避はできないらしい……」

 ここまで話し終えた国王の表情が曇るのを、ルーカスは、ただ、見ていた。


「“偉大なる魔女”が、我が国に遣わされたようです」

 それまで傍らで沈黙を守っていたエディが声を発した。

「偉大なる、魔女?」

「はい。先の『アーマーズウェーの大戦』を治めたと言われる魔女様です。彼のお方が遣わされるほどの争い事……。 まず、避けることはできないでしょう」

「どういうことだ? その、『魔女様』とやらは、争いごとを治めるんだろう? その魔女がこの国に遣わされたというのなら、避けられるのではないのか?」

「いえ、殿下。言い伝えでは、魔女様が力を発し大戦を治めた、とされていますが……」

 ルーカスの問いに答えていたエディの声が、そこで途切れる。

「……真実は、そうではなかったのです」



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「ユーリウス」

「はっ、こちらに」

 白銀の髪がサラリ、と揺れ、振り返った従者の主は、秀麗な顔立ちに意味深な笑みを浮かべていた。

「例の件、どうなっている?」

「はい、万事、滞りなく……とご報告申し上げたいのですが」

「どうした」

「はい、あの侍女、これまでの経歴が全く出て参りません」

「どういうことだ?」

「どこで生まれ、育ち、どのような()()でベイルシャールの城にいるのかすら、全く何も知れないのです」

 ユーリウスはそこまで告げると、片膝をつき、首を垂れた。

「申し訳ございません、殿下。今しばらくの……」

「良い、気にするな」

 謝罪を口にする己が従者の言葉を、アドルフは笑みを深めながら遮った。

「濡羽色の髪に、漆黒の瞳……。 フフフ……やはり、そうか」

 抑え込むような笑い声をもらしながら、アドルフはユーリウスの肩に手をやる。


「必ず、あれを手に入れて参れ。その為の手段は(いと)わぬ」

 頭を上げ、そこに見えた仕えるべき主の黒く陶酔した表情に、ユーリウスは震えおののいた。



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 狭く薄暗い螺旋階段に、カツカツと乾いた足音が響く。

 アドルフは、足元を照らすためのロウソクを一本手にし、階段を下りきった先にある部屋を訪ねた。


「レオナルト、いるか?」

 ノックもせずにその部屋の扉を開け、部屋の主に声をかける。

 窓もない石造りのその部屋の主は、目を手元の書物からゆっくりと上げた。

「おや、アドルフ殿下。わざわざこちらまで? 何か御用でしたら、お呼び立て下さればよろしかったのに……」

 手元の灯りのために置かれたロウソクの火が、男の顔をぼんやりと闇に浮かび上がらせる。

 二人の男は互いに顔を見合わせると、どちらからともなく歪んだ笑みを漏らした。




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