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黒の管理者  作者:
第二章
35/50

19.


遅くなりました。 申し訳ありません……

 


 

 

 

 

 鏡に映り込んだ自分ではない姿を目にしてから一週間。

 あの日以来、毎朝のように鏡の前でその名を呼んでみても、映る姿が変わることはなかった。

 

 今日も、いつもと同じ朝がやってくる。

 ベッドから起き上がり、お仕着せに着替えて身支度を済ませ、詰所へ向かうために扉を開ける。

 

「よぉ、おはよう」

「ぉ、はよう、ございます」

 扉のすぐ横には、この一週間、ずっとウォーレンが待ち構えていた。

「なんで、毎朝居るんですか」

「言ったじゃないか。お前を見習って、偉くなって帰らないと、ヴィンスにしめられる、って」

 よいしょ、と小さく声に出してもたれていた壁から体を起こし、じ、っとユウを見る。

「なんですかっ」

「ん? いや、なんでもない。 さ、フィオナ様がお待ちじゃないのか?」

 ユウの、ぶすっ、と脹れた表情が瞬時に崩れて慌てふためき、彼女は『走る』の少し手前の速度で詰所へと飛んで行った。

 

 そして、一人残されたウォーレンは、声にするのも惜しむかのように、かの人の名を呼んだ。

「……エヴァ。本当に、貴女なのですか……?」

 

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

「陛下…… お答えください。あなたは何をお考えなのですか?」

 真っ直ぐな視線の先に自身の父の姿を置き、しかし、その口調は父に向けられるようなものではなく、冷淡で硬いものであった。

「父上!」

「ルーカス殿下、落ち着かれてください。陛下には、陛下のお考えがあって……」

「黙れ、エディ! 私は、陛下にお伺いしているのであって、お前に訊いているのではな」

「ルーカス!」

 国王と共に早朝から執務室にいたエディに食って掛かったルーカスを、国王はその一声で一蹴した。

「ち……ち上」

「落ち着け、ルーカス。何故、そのように声を荒げる? お前らしくないではないか」

 自らの前では滅多な事では変えることがなくなった息子の表情が、ほんの瞬間、僅かに苦しげに歪んだのを、国王は、見落とさなかった。

 

「私は……私はただ、この国の行く先を案じているのです。ここしばらく、何だか不穏な気配がまとわりついて落ち着かない。今も、こうしてエディを傍らに置かれている。一体何がこの国に起こっているのです、陛下?」

 先程とは打って変わって落ち着いた――しかし、僅かに焦慮を含んだルーカスの声が早朝の空気を震わせた。

 それに対し、どこか不穏な気配をまとった声が答える。

「では、こちらから訊こう。お前は、何が知りたい? ルーカス」

「……陛下?」

「知りたいのであろう? 今、何が起きようとしているのか」

「はい」

「ならば、教えてやってもよいぞ」

 片肘をつき、その上に頭を載せて、どこか、ニヤリ、とでも言うのがふさわしいような笑みを浮かべて、目の前にたたずむ青年を見遣る。

「陛下」

「良いではないか。次期国王は、愛国心にあふれておる。そんな方が、知りたいと言うのだ。教えて差し上げるべきだろう?」

 傍らのエディの制止に対し、豪快に笑い声をあげた国王であったが、その眼は笑ってはいなかった。

「さあ、ルーカス。何が知りたい?」

 その奥に何かを隠し持つ視線に射られ、ルーカスは動けなかった。

 

 キナ臭い噂の事、魔女再来の話。そして、国王の命でユウを匿い続ける理由……。

 声にならない焦りが、背筋を、つ、と滑り降りた。

「先程までの勢いはどうした? 知りたいのであろう? 私が何をしようとしているのか」

 一度も逸らされない国王の眼差しに、ルーカスは真剣の切っ先を喉元に充てられたような感覚を覚えていた。

 

 

 


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