15.
既に時間は日付を越えようかとしている頃。
ヴィンセントは自身の執務室で、スティアートと共にウォーレンから報告を受けていた。
「……で? 彼女の“気配” がおかしい、とは?」
スティアートがウォーレンに問う。
「今日、アイツの“気配” が変わったんだ。なぁ、ヴィンス。アイツ、本当に魔力を持っていないのか?」
「そのようだ。私が屋敷で匿っている頃も、魔力の“気配” はなかったが?」
ヴィンセントの返事に、ウォーレンは頭を抱える。
「どうした、レン?」
困惑の表情を浮かべる目前の部下を、ヴィンセントは訝しげに眺めた。
「……思い違いでなければ、アイツ、魔力を持ってる……それも、ケタ外れの……」
「何?」
「どういうことだ?」
吐き捨てるように呟いたウォーレンに、二人は驚く。
「まんまだよ。アイツの“気配” に、異様に強い魔力が混じり始めてる。アイツ、一体何なんだ?」
ウォーレンの至極真剣な視線に、ヴィンセントは得体の知れない感情を抱く。
「なぁ、ヴィンス。俺、良くわからないんだが、そういうもんなのか?」
スティアートは、執務机に肘をつき、少し俯き加減に額を置くヴィンセントを見た。
「ああ、そうだ。その人物がまとう“気配” に魔力は織り込まれる。自身の魔力が強いと、相手の“気配” に反発して、それを感じ取る」
ヴィンセントはひどく重そうに頭を持ち上げ、斜め左前方にいるスティアートに言う。
「ただ、魔力が強ければ強いほど、その制御については十二分に鍛錬する。無意識下でも確実に抑え込めるように」
その言葉に、スティアートは眉間に皺を刻み、「何故?」 と言わんばかりに首をかしげた。
「自分から魔力の強さを誇示したところで、正直、何の得にもならないよ。戦場になれば、尚更。実際はどうか知れないけれど、狙われて、寝首をかかれるのがオチじゃないかな」
苦笑いを浮かべて、ヴィンセントはスティアートに告げた。
「……で、レン。詳細の報告を」
ヴィンセントの顔が、一瞬で策士の顔に変わる。
それを見て、ウォーレンは、自身が感じたユウの“気配” について口を開いた。
朝、廊下で顔を合わせた時点では、一般人にも感じられる程度の魔力すら感じられなかったこと。
午前中はフィオナと共に、三人で図書館へ向かったこと。
フィオナが自分の作業をしている間、ユウは、少し離れた場所で時間を過ごそうとしていたこと。
ウォーレンが、暇つぶしになるように、と、子供向けの絵本を差し出したこと。
そして、ユウがその絵本を受け取ったこと。
「……少なくとも、この時点では、“気配” は廊下で顔を合わせた時と同じように、魔力の微塵も感じられなかった。だけど……」
「『だけど?』」
「何だか嫌な感じがしたから、図書館の外を見廻りに行って。戻ったら、アイツが気ぃ失ってた。この時点ではもうおかしかった。それまでの“気配” とは別モンだった」
ウォーレンが有り得ないと言わんがばかりに首を振った。
「ユウのもとを離れたのは、時間にしてどれくらいだったんだ?」
「ハッキリとは言えないが、多分、二〜三十ミニ程度だと思う」
「その間にあれの身に何かあった、ってことだな?」
扉の方から、三人とは別の声が執務室に響く。
「ルーカス殿下、このような時間にどうされました?」
ヴィンセントが少し不機嫌に声をかけた。
「ん? 何だか楽しそうだったんでな?」
口角をクッと引き上げて、ルーカスがヴィンセントに返す。
スティアートとウォーレンは、ヴィンセントとルーカスの間にある、今までとは少し様相の異なる空気に身を固くし、状況を見守るしかなかった。
お、とうとう幼馴染四人が一堂に会しました!
……が、なんだか、様子が……(汗)
アート兄は、魔力が弱いのですが、剣に長けています。
対して、レンは、剣術は苦手。だけど、魔力が強い。
以上、本文に盛り込み損ねた補足でした。
後程、世界設定に、コソっと項目、追加します。ホントに些細な内容です。