12.
「リア、ユウ。今日は図書館へいきたいのだけれど。ついてきて下さる?」
朝食を終えたフィオナは、食器を下げ、後片付けをしている侍女二人に声をかけた。
「図書館、ですか?」
ユウがフィオナに訊ねる。
「ええ、調べたいことがあって。確か、図書館にある持ち出せない本に、それが載っていたと思うのよ。だからどちらか一人で構わないのだけれど」
フィオナはにこりと微笑む。
「私が調べ物をしている間、好きなように時間を過ごしてもいいわ。図書館の本を読んでもいいし、館内に居てくれるなら他の仕事をしてもいいし。……ダメかしら?」
ユウはリアの様子をちらりとうかがった。
フィオナの後ろでワゴンに片付けものを載せている彼女は、あまり乗り気ではなさそうに、僅かに眉をひそめている。
「あの、私がお供させて頂いても?」
ユウは、思い切ってフィオナに申し出た。
「ありがとう。じゃあ、ユウの仕事がひと段落つくまで、わたくし、ほかの用事をしていますわ。手が空いたら、声をかけてもらえるかしら?」
「かしこまりました。では、一旦ここで失礼いたします」
リアがワゴンの整理を終えたのを確認し、ユウはリアと共にフィオナの居室を辞した。
「ごめんね、お供、お願いしちゃって」
ワゴンを押しながら、リアがユウに詫びる。何故謝罪を受けなければならないのかがわからないユウは、不思議そうに首をかしげた。
「私、図書館って、どうも苦手で。天井までいっぱいに詰まった本棚、あれが怖いの。落っこちてきそうで。あと、静かすぎるのもダメ。お化けとか、出そうじゃない?」
「お化けって。リアさんって意外と、怖がりだったりするの?」
首をすくめて話すリアが可愛く見えて、ユウはくすくす笑い出した。
「ん、もう! そんなに笑わなくったっていいじゃない」
「ごめん、ごめん」
お互いの顔を見合わせて、またくすくす笑いながら炊事場へと足を進めていたその時、ワゴンが突然、ガシャン、と停まった。
「うわっ!」
「きゃっ!」
その衝撃に顔を上げると、目の前にはウォーレンが仁王立ちしていた。
どうやら先程のそれは、彼が直撃しそうになったワゴンを押さえつけたためだったらしく、ウォーレンの三白眼は、いつも以上に凄みを増して二人を睨んでいた。
「お前たち、どこ見て歩いてんだよ?」
「ウォーレンさん、どうしてこんなところに?」
蒼い顔で言葉も出ずオロオロするリアに対し、きょとん、とウォーレンを見るユウ。
二人の対照的なその態度に、ウォーレンは先程までの怒りをそがれ、思わずふき出した。
「何? どうしたんですか? 何がおかしいんですか?」
「いや、いいコンビだな、お前たち」
いまだ笑いが止まらず、涙目のウォーレンにそう言われ、ユウとリアは顔を見合わせ、コトリ、と首をかしげた。
「とにかく。ぶつかっちゃって、ごめんなさい。おケガはありませんか?」
ユウが、ワゴンを受け止めたウォーレンの手に傷がないかを確かめようと手を伸ばす。
「うわぁ!」
それまで笑っていたはずのウォーレンは、ユウの行動に、慌てて手だけでなく身も引いた。
おまけに、その顔は、いつの間にかすっかり茹で上がったように赤くなっていた。
「さ……触るなっ!」
「ウォーレン様、どうなさいました? お顔が……」
「う、うるさいっ! オレに構うなっ!」
ずっとオロオロとしていたリアも、ウォーレンの尋常でない慌てように、すっかり落ち着きを取り戻す。
「おケガはないんですね?」
念押しするように訊ねるユウに、ぷい、とそっぽを向くウォーレン。
その様子を見て、今度はリアがくすくすと笑いだした。
「リアさん?」
「あ、ごめんなさい。失礼、でしたよね……」
口では詫びているリアだったが、先程からのくすくす笑いは全く止まる気配がない。
そんなリアに呆れながらも、ユウはウォーレンがなぜここにいるのかを考えていた。
(また、強引に抑えられちゃうのかな……)
微かに不安をにじませた目でウォーレンを見ると、ちょうど視線がぶつかった。
「すまなかった、な。勘違いしてたんだ、オレ。怖い思いさせて、ゴメン」
ぼそりと呟くウォーレンに、ユウは目を丸くした。
「どうして……?」
「ヴィンスとアートに叱られた。今日から二週間、お前から、いろんなこと教えてもらえ、って、団長命令。だから、うっとうしいだろうけど、勘弁な」
すまなそうに苦笑いするウォーレンに、ユウは驚きの表情を微笑みにかえた。
ユウとウォーレン仲直り、の巻。
ここにきて、本文内容も、執筆速度も足踏み状態です。
それなのに……
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いろんな意味で、大丈夫か? 私……?
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一生懐きます(←なんか、ニホンゴ、おかしいような?)
ここまでお付き合いくださったあなた様に、心からの感謝をこめて。
諒でした。