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黒の管理者  作者:
第二章
27/50

11.

 

 

 再び新しい朝が来て、鳥たちがようやく起きだすような時間、アドルフは自国・カーエンタールへの帰路に着くべく、馬車へと歩みを進めていた。

 

「ユーリウス」

「お呼びでしょうか、殿下」

 アドルフは傍らに控えていた従者を呼び立て、口を開いた。

 

「昨日の、中庭にいた女。あれの名は何と?」

「はっ。確か、ジェラルド殿下は、ユウ、と呼ばれていたように存じます」

「ユウ、か……」

 ニヤリと笑む主人を見て、その従者、ユーリウスは、得体の知れない寒気を感じた。

 

「殿下、何をお考えですか? まさか……?」

「いや、何でもない。気にするな。行くぞ」

 アドルフはばさりとマントを翻し、その歩みを速めた。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「おはようございます」

 

 フィオナの自室の前の詰所に入ったユウは、そこにいたリアに声をかけた。

「あ、おはよう、ユウ。改めて、今日から宜しくね?」

 リアは作業の手をいったん休め、ユウの方を向き直った。

 

「いろいろご迷惑をお掛けすると思いますが、ご指導、宜しくお願いします」

 そう言って深々と頭を下げるユウに、リアは慌ててユウの頭を上げさせた。

「迷惑をかけるのは、私の方だと思うんだよね、どう考えても…。だから、気にせず頑張りましょ?」

 リアがそう言って笑うと、ユウも一緒になって微笑んだ。

 

「さ。フィオナ様がお目覚めになる前に、しておくべきこと、済ませるわよ!」

 リアが張り切ったように力こぶを作ってみせると、ユウも「了解しましたっ!」 と右手を額に掲げて敬礼の姿勢をとり、これまでにない位、笑って見せた。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 その頃のヴィンセントの執務室。

 その部屋の主が、執務机に向かって書類をしたためている。

 

「……なぁ、ヴィンス。訊いても良いか?」

 ウォーレンは、久しぶりに顔を合わせたヴィンセントに、心細そうに声をかけた。

「どうした?」

「あの、さ。オレがジェイ殿下についてカーエンタールに出る前の日に連行されてきた、あの女の事なんだけどさ……」

 

 気まずそうに俯くウォーレンを見て、ヴィンセントは、彼がまた何かやらかしたらしいことを感じ取った。

「レン、“あの女”ではない。ユウ、だ。で、どうした?」

 

 そのまま、ペンを持つ手を休め、ウォーレンの言動に注意を集めた。

 ウォーレンには、かつて、ユウを馬車から突き落とした事実がある。

(まさか、また、ユウの身に……?)

 机に置いた手が微かに震えた。

 

「あの、さ。オレ、アイツが、フィオナ様の侍女になったなんて知らなくて。ジェイ殿下とカーエンタールへ出向く前の日も、あんなだったし。てっきり、あの……」

「レン、ハッキリ言えよ。彼女の腕、捻じり上げて拘束したこと」

 言い淀むウォーレンをけしかけるように、男の声がした。

「アートっ?!」

「お前、前回も言ったろ? 長く国を空けて帰って来たなら、留守中の状況を先に確認しろ!」

「……はい」

 

 居るとは思わなかったスティアートから罵声を浴びせられ、ウォーレンは小さくなった。

「レン、今のアートの報告は事実か?」

 ヴィンセントが、冷ややかな目を向けてウォーレンに問う。

「はい。間違いありません」

 消え入りそうな声でウォーレンが返事をすると、彼はそれっきり黙ってしまった。

 

「さて。ヴィンス、どうする?」

 重苦しい沈黙に耐えかねたスティアートが口を開く。

 ウォーレンは俯いて、ただ、立ち尽くしたまま動けない。

 

 ヴィンセントは立ち上がり、ウォーレンの方へとゆっくり歩み寄った。

「……!」

 俯いていた視界にヴィンセントのブーツのつま先を認め、ウォーレンは思わず首を竦めた。

 

「今日から二週間、ジェラルド殿下の護衛の任を解く! ユウに習い、その所業、改めて来いっ!」

「は! 仰せの通りに! ……て、え?」

 いつになく厳しいヴィンスの声に、その内容の如何に問わず、ウォーレンの口は反射的に(うべ)ない、そして、改めてその命令を理解した瞬間、呆気にとられた。

「ほらほら、早く行けよ。侍女たちはもう働き始めてるぞ?」

 スティアートに背中を押され、ウォーレンは、半ば追い出されるように執務室を出て行った。

 

「二週間、か。その間、どうすんだ、殿下方の護衛。お前一人じゃ無理だろう?」

 扉を閉め、振り返りながらスティアートがヴィンセントに訊ねる。

「陛下から、許可を頂いたよ。流石に公には動けないが、あの子にも約束したから。俺が、お前を助ける」

「アート」

「一人で抱えるな。俺がいる」

「……すまない。感謝する」

 

 俯くヴィンセントに近寄ると、スティアートはポンと肩を叩いた。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 国王の執務室では、国王とエディが、爽やかな朝には似つかわしくない、深刻な表情を突き合わせていた。

 

「……で、その話、真実なのか?」

「調べの付いた部分を纏めると、信じられない話ですが、どうも、そのようです」

「何故、今、再びこの地に……。どうにかできないのか?」

「この国にとって、容易く回避できるものではないのでしょう。さもなくば、彼の“魔女”様が現れるなど、考えられない」

 苦痛に耐えるような表情の国王と、眉間の皺を一層増やした魔術師団長が口を閉ざす。

 すくと立ち上がり、窓際へと歩み寄った国王のその唇は、強く噛み締められ、薄っすらと血が滲んでいた。

 自分に背を向ける国王に、エディは言葉を飛ばした。

「彼のお人は、幸か不幸か、いまだ覚醒されておりません。もちろん、ご自身もお気付きになられていないはず。ただ、あの日、私の放った術に、紛うことなく応えられた。今は何のお力を発せられなくとも、あの方は、間違いなく“偉大なる魔女”様です」

「しかし、あんなか弱き人に、我々が頼ってよいのか?」

「“魔女”様は、我らには計り知れないお力をお持ちです。今はまだ無理でも、ゆくゆくは我らをお護り下さる筈……」

 そこまで言うと、達弁に語っていたエディでさえ、とうとう口を閉ざしてしまった。

 

 

 


 

長くなってしまいました。しかも、場面が四つ。


ごちゃごちゃするし、読み難い……とも思うのですが、ちょっと訳有りな”朝”の場面だったので、敢えて、こんなことしてみました。


『我慢ならない!』と思われた方、どうぞ、ご連絡ください。

一定数を超えましたら、どんなに先に進んでいようとも分けます。

(字数の都合で、四つにはできないかも? ですが……)


それと、お知らせを一つ。

第一章と第二章で書き方を変えておりましたが(え? 拙いのは変わってない? 正解! そこは永久に不変です!(←情けない……))、この度、統一させることにしました。

つきましては、本日から、ボチボチと第一章の方を修正していきます。

基本的な流れは変わっていないと思うのですが、『なんか変よ?』 とお感じになられましたら、ご一報いただけると幸いです。

ご迷惑をおかけしますが、宜しくお願い申し上げます。

勿論、誤字、脱字、ご意見、愚痴、その他諸々もお待ちしております。


あとがきまで長くなってしまってすみません。

ここまでお付き合いくださいましたあなた様に、心からのお詫びと感謝を。

諒でした。

 


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