表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒の管理者  作者:
第二章
25/50

9.

 

 

 開け放たれた窓から、心地よい風が、カーテンを揺らして吹き込んでくる。

 穏やかな太陽の光は、ベッドで横たわるユウの頬を、優しく包んでいた。

 

「……偉大なる、魔女……」

 

 深い色の瞳に映るユウのあどない寝顔に、ベッドの脇で、スッ、と目を細めた。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「ぁ……。ヤダ、私、また?」

 ユウが目を覚ましたのは、正午を少し過ぎたころだった。

 

「起きたかい? 殿下が、今日は休めってさ」

 中庭に出られるように通じた窓から、一人の男が部屋に入ってくる。

「あなたは……」

 ユウは、その姿を見て言葉を噤んだ。

 

 恐怖が無かった訳ではない。

 それより、何故、この男がここにいるのかに、ただ、純粋に驚いた。

 

「すまなかった、な」

 中庭から現れた、ひと月前、この世のものとは思えないような形相でユウに襲いかかった男、スティアートが、ユウに頭を下げた。

「スティアート、さん?」

「アート、でいいよ」

 

「アート、さん……」

「もう暫く、謹慎なんだ。まぁ、自業自得なんだが……」

 眉を八の字に下げ、困ったように笑う目の前の男を、ユウは、不思議そうに眺めていた。

 

「あれから、よく考えたよ。それしかすることがなかったと言えば、それまでだけれど」

 スティアートは、そこで一度言葉を切った。

「どうして、ヴィンスがあんなに君に肩入れしたのか。……あいつは、君を、自分に重ねてしまったのかもしれない」

 ポツリとこぼす俯き加減のスティアートをじっと見つめるユウを、顔を上げたスティアートの視線が捕まえた。

 

「……あいつ、優しいだろ? 他人を、拒絶、できないんだ。今までにもその優しさに付け入る奴がいてさ。そのたび、ヴィンスは精神も身体も、ボロボロになってた。小さい頃からずっと見てきたから、君も、その類の人間だと思った。俺は、“侵入者”を捕らえる以前に、ヴィンスを護りたかった。本当にすまなかった」

 ギュッと眉間に皺を寄せ、スティアートは、苦しそうに言葉を紡いだ。

 そんなスティアートを、ユウは、黙って見つめた。

 

「あいつ、俺やレンと逢う少し前まで、街の外れの孤児院に居たんだ。そこがどんな環境で、どんなふうに育ったのかはよく解らないけれど、ヴィンスは未だに、誰かを求めることも、拒否することも、できない……」

 

 ユウは、突然聴かされた話の内容に、息を詰めてスティアートを見つめ続ける。

 

「自分の存在をさ、認めてやれないんだ。居てもいなくてもどうでもいい存在だと……いや、むしろ、居ない方がいい、と、思ってるようでね」

 

 そこまで聴かされたユウが、微かな声で、ぽつりと「あぁ、だから…」 と小さくこぼした。

「“だから”? 何か、あった?」

「はい。あの日から三日後に目を覚ました時、私、自分を否定する言葉を口にしました。そうしたら、ヴィンス、すごく怒って……」

「あぁ、うん、そうだね。そういうの、あいつ、血相を変えて怒る。俺達にでもそうだよ」

 

 スティアートはナイトテーブルに置かれていた水差しからグラスに注ぎ、ユウに持たせた。

「あいつは、そういう存在は、自分だけでいいと思ってる。でも、奴も、そういう存在じゃ、ないのにさ……」

 ユウの、グラスを持つ手に、僅かに力がこもる。

「あいつは、何も、言わない。いつも、自分だけでどうにか片を付けようとする。君のことだってそう。俺のこともそう。全部、一人で抱えて……」

 

 スティアートの、何時しか強く握られた拳が、微かに震える。

 ユウは、手渡されたグラスをテーブルに戻し、そっと、その手を震える拳に重ねた。

 

「君……」

「アート、さん。……ごめんなさい」

 スティアートの目には、今にもこぼれそうな位に涙をためた、ユウが映っていた。

 

「私がいなければ、アートさんは、牢屋に入れられることもなかった。ヴィンスが辛い思いをするのを判っていて、あなたが苦しむこともなかった。今回の事は、全て、私が原……」

「待て、違う。君が悪いんじゃない」

 スティアートは、咄嗟に自身の拳に重ねられたユウの手を握りしめ、その言葉を遮り、ユウは、驚きのあまり、瞬きを忘れた。

 

「ヴィンスは、言っていなかったか? 君は、“召喚”されてきたのだと。全ての根源は、罰せられるべきなのは、禁忌の術を用いた“召喚主(はんにん)”だ。召喚された人間に、何の罪もない。君は、とんでもない事件に巻き込まれてしまった被害者なんだよ」

 そこまで一気に話すと、スティアートは、ふわりとユウの頭を撫でた。

「本来なら、謹慎中は大人しくしていなければならないんだが……陛下がね、俺に特別な許可を下さった。君をこんな目に遭わせた原因(そいつ)を捜すよ、ヴィンスを(たす)けて。約束する。だから、君は、もう苦しまなくていい」

「アートさん……」

「君、たったひと月で、フィオナ様の侍女になったんだってね? 凄いじゃないか。明日から、しっかり頑張るんだよ? フィオナ様はお優しい方だから、きっと善くしてくださる。君もそれに応えるんだ。ヴィンスが、陛下や殿下方に応えるように」

 グズグズと鼻を鳴らしながらも、ユウがこくりと頷くのを見て、スティアートは微笑んだ。

 

「さぁ、もう少し休みなさい。明日からが、大変だから」

 ユウの身体を横たえさせ、シーツを引き上げそっと掛けるスティアートに、彼女は、「はい」 と小さく答え、瞼を閉じた。

 

 


 

アートくん、ユウと仲直り、の巻。

アートがユウの事を目の敵(?)にしていた理由、伝わりましたでしょうか?

大好きな弟を庇いたかったお兄ちゃん的立ち位置?

…なんだかよく解らないことを言ってますね、私。すみません。


今日もここまでお付き合いくださったあなた様に、心からの感謝を。



諒でした。

 

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ