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黒の管理者  作者:
第二章
24/50

8.

 

 

「……殿下」

 ヴィンセントは、部屋の隅で壁を向いてうずくまる、ようやく見つけた己が主に声をかけた。

「ヴィンス……か。捜させたか? すまないな」

 

 立ち上がり振り返ったルーカスの腕に抱えられていた者の姿に、ヴィンセントは、一瞬、心臓を鷲掴みにされたような感覚に襲われた。

「ど、うして、ここに……?」

「フィーが、ユウを待っていてな。なかなか来ないから、迎えに来たんだが……」

 腕の中でクタリと力なく自分にもたれかかるユウに目を落とし、ルーカスは続けた。

「随分と気を張っていたようだ。疲れが出たんだろう。今日は一日、休ませてやってもいいんじゃないか?」

 

 常に冷静で違わない判断を下すとの声高き次期王が、ユウを見るその瞳に今までに見せたことのない色を滲ませ、それに気づいたヴィンセントは息をのみ、ただ、ギリッと唇を噛んだ。

 

「そ、うですね。この一ヶ月、彼女はよく頑張っていましたし。では、そのようにフィオナ様にお伝えして参ります」

 蒼白(あお)い顔で俯いたまま、ヴィンセントはようやくそう言うと、くるりと踵を返し、さっさとその場を立ち去った。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「ヴィンス!」

 

 回廊を歩くヴィンセントが自分を呼び止める声に振り返ると、そこには、このひと月の間、かの異界の娘に働いた罪を償うべく刑を受けていたスティアートが立っていた。

 

「アート……」

「どうした、ヴィンス? 顔色が悪い」

「いや、何でもない……」

 もごもごとくぐもった声で話すヴィンセントに、スティアートは眉を顰めた。

 

「大丈夫か? また、一人で厄介ごとを抱えてるんじゃないのか?」

 気まずそうに目線を逸らせる幼馴染を前に、スティアートは肩をガチリと掴んだ。

「なぁ、ヴィンス。そんなに、俺が信用ならないか? お前、昔っからそうだろう? なんで、話してくれない?」

 苦しそうに告げるスティアートに、ヴィンセントは、顔を上げることができなかった。

 

「私は……私がしたことは、正しかったのだろうか……」

 数分の間の静寂の後、ポツリ、と零したヴィンセントの呟きに、スティアートはあっけらかんと答えを返した。

「お前が信じたのなら、それは、間違いではなかったんじゃないのか?」

「……アートにも酷い思いをさせた」

「何言ってんだ、ヴィンス。あれは、俺の暴走だよ。お前が止めてくれなければ、あの娘を、俺は亡き者にしていたかもしれない。たかが、一時(いっとき)の感情で」

 

 ハッと顔を上げたヴィンセントの前に、いつにも増して真剣な表情のスティアートが立つ。

「一ヶ月。長いようで短かったが、俺にとってはいい時間だったよ。すまなかったな、ヴィンス。お前の信じたものを、色眼鏡を通して見て、自分の感情のままを突き通した。もっと、冷静になって、お前を信じて、支えるべきだったんだ。なのに、俺は……」

 スティアートの噛み締めた唇から、薄っすらと血が滲む。

 

「アート……」

「大丈夫です、団長。復帰まであと二週間、申し訳ありませんが、もう暫く、ご迷惑をおかけします」

 突然口調がガラリと変わり、スティアートは、右手の拳を左胸に置き、首を下げて、騎士団特有の最敬礼をとる。

 そんな彼を、ヴィンセントは苦しげに見つめた。

 

「そんな顔、するなって。お前がそんなで、どうするよ?レンも説得しなきゃならないんだろう?」

 再び砕けた口調に戻ったスティアートは、顰め面のヴィンセントの胸を右の拳でトン、と小突く。

「どうして、それを……」

「あのなぁ、何年の付き合いだ?お前の顔には、全部書いてあるよ。」

 ニヤリ、と笑う、気心知れた幼馴染に、ヴィンセントの硬い眉間の皺が、ふ、と(ほぐ)れた。

 

 


 

”お帰り、アートくん”の巻。


暴走アートくん、1か月のお役目を終えてきました。

本来の彼は、ヴィンス、好き好きな(←BLな意味ではなく…)こういう奴です。

幼馴染4人衆の中で、1つ年上なんです、彼(←確か…)。

ちょこ~っとお兄さん気取りな、アートくんなのでした。


ここまでお読みくださったあなた様に、心からの感謝を。


諒でした。

 

 


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