6.
かくして、ユウはフィオナに仕える侍女として王宮へ生活の場を移すこととなり、ひとまず見習いとして、ナディアから作法などの教育を受けることとなった。
「はい、今日はここまで。努力は認めるけれど、結果につながらないとかなり厳しいわね」
王宮に連れてこられてから五日。ユウの、その熱心な心意気は褒めるに値するものだが、そそっかしい性格が災いして、どうも空回りしてしまうらしい。
「すみません。明日こそ、ちゃんとできるように頑張ります……」
手を滑らせて落としてしまった皿のカケラを拾いながら、ユウはうなだれた。
「そろそろ、頑張ろう、なんて気を張るの、やめになさいな? あなたは気負い過ぎているわ。もっと、気持ちを楽に持ちなさい」
ナディアは、いたわるようにユウに声をかけた。
「大丈夫。あなたはとても努力家だから、気持ちさえ落ち着けば、何でもこなせるようになる。ルーカス殿下があなたを推挙なさったのは、だからなのよ?」
「ナディアさん……」
今にも泣きだしそうなユウを見て、ナディアがふわりと微笑む。
「ほら、そんな顔、しないの」
ポン、とユウの背中をナディアの手が押した。
「ユぅウっ。どぉ? 頑張ってる?」
落ち葉色の髪をふわりと弾ませ、一人の少女がユウのもとへと駆け寄ってきた。
「リアさん……」
「なぁに、また落ち込んでるの?」
リア、と呼ばれた少女は、ユウの様子に呆れたように呟いた。
「私の時なんか、もっと凄かったんだから。ユウの失敗なんか、失敗のうちに入らないわよぉ。」
「そうね、あなたは特別ひどかったわね、リア。さすがの私も呆れて物が言えなかったわ。お皿は一日で何枚割ったかしら? 洗濯するのに渡したシーツも、気が付いたら、ボロ布だったし」
「わかってるんですけど、ナディアさん。ちょっとくらい、かばってくれたって……」
「あら、事実じゃない。嘘はいけないわよ。ね? ユウ。」
突然ナディアから話を振られ、二人の勢いに呆然としていたユウは慌てて「はい」 と答えてしまっていた。
「ユウまで……」
「そんなだったリアも、今じゃどうにか仕事ができるようになっているの。だからユウ、心配しなくても大丈夫よ。さあ、今日は、おしまいにしましょう。ゆっくり休んでね」
落ち込むリアを後目に、ナディアはユウに労いの声をかけて、部屋を出て行った。
「……リアさん、ごめんなさい」
俯いたまま、ユウはリアにぼそりと謝った。
「ん? 何? ユウが私に謝らないといけないことなんてないわよ?」
「あの、さっきの……」
「あぁ、あれ」
リアはクスリと笑って、相変わらず今にも泣きそうな顔をしたユウの肩を抱き寄せた。
「ナディアさんも言ってたけど、事実だから。でも、あの数えきれない失敗があって、今の私がいるの。ま、未だにマトモな仕事はできないけれど、ネ。」
そう言って、ユウの背中をゆっくりとさすった。
「大丈夫。ユウはとぉ〜っても優秀よ? ルーカス様は、あれでも人を見る目がおありなの。今日だって、よく頑張ってたじゃない? こっそりお二人がのぞきに来て、安心したように帰ってらしたわよ?」
「お二人って?」
「ルーカス様と、ヴィンセント様。ホントに短い間だけど、ユウが頑張ってるところ、見てらしたわ。お二人で顔を見合わせて、ホッとしたような表情されて。執務中に抜け出してきたような感じだったわね、あれは。」
ウフフ、と笑うリアの隣で、少し寂しそうな表情を見せたユウだった。