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黒の管理者  作者:
第二章
19/50

3.

 

 

 気が付くと、ユウはベッドの上にいた。

 

(元の世界では倒れたことなんて一度もなかったのに……)

 ゆっくり身体を起こして、こちらに来てから随分と弱くなった、と嘆くように、ふぅ、と大きく息を吐く。

 

「お気づきになられましたか?」

 いつからか部屋にいた明るい栗色の髪の女性が、こちらを向いてニコリと微笑む。

「宜しければ、お水はいかがですか?」

 彼女は水差しからグラスに水を注ぎ、ユウの前に差し出した。

「……ありがとう、ございます」

「お目覚めになられたこと、お伝えして参りますね」

 そう言って、彼女は部屋を出て行った。

 

 よく冷えた水を注いだグラスは、崩れそうになった気持ちを留めてくれた。

 一口含むと、それは乾ききっていた身体に染み込んでいった。

 

「失礼するよ」

 声の方向を見ると、開かれていたドアに寄り掛かるように、身なりをきちんと整えた一人の男が立っていた。

 ユウが視線を戻し、何も言わずにいると、その男は不服そうに近寄って来る。

 

「口がきけないのか?」

 頤をグイと下から押し上げられ、強引に視線を合わせられる。

 ユウの目の前にあった深い藍色の瞳は、何故か驚いたような表情を浮かべていた。

 

「殿下、どうなさいました」

 聴きなれた声が、耳に届く。

「……ヴィンス、か。では、やはり、この娘が?」

 殿下、とヴィンセントに呼ばれた男は、スッと目を細めた。

「ユウ、です。殿下」

「……ふん。えらく気にかけてやっていると聞いたが?」

「当然でしょう? 言葉も生活も全く違う世界に、突然放り出されたんですから」

「……それだけか?」

 整った顔が、ずいっ、とユウに近づく。

 

 パチン、と、突然部屋に響いた乾いた音は、その空気を一瞬で入れ替える。

 音の源は、男の左頬に飛んだユウの右手だった。

 

「……何をする」

「さっきから何なんですか、貴方? ヴィンスに殿下と呼ばれるくらいなんですから、きっとお偉い方なんだろうな、とは思いますが」

 ユウは自分のとった行動に自分で驚きながらも、ムッとした気分のまま言い放った。

 瞬間、男が豪快に笑いだした。

 

「え?」

 何が起きたのか全く分からず、ユウはヴィンセントに助けを求めるような視線を送る。

「……殿下。ユウが困っていますよ?」

「ふっ。ヴィンス、お前、面白いものを拾ったな」

「ルー」

 涙目で皮肉を投げた、自身が殿下と呼ぶ男を、ヴィンセントはしかめ面で見ていた。

 

 ひとしきり笑い、ユウの方へ向き直った男が、その薄く整った口を開く。

「私はこの国の王太子、ルーカス・レイモンド・ベイルシャールだ」

「ユウ・サカキです」

「ユウ、か」

「はい」

「……良い名だ」

 ルーカスは、くしゃりとユウの前髪をかき上げて、露わになった額にその唇を落とした。

 

 途端に茹で上がるようにユウの顔が赤くなる。

「……なっ!」

 抗議をしようと口を開くも、パクパクと動くだけで、声にならない。

「邪魔したな」

 そう言って、ルーカスは部屋を出て行った。

 

「大丈夫ですか? ユウ」

 真っ赤になっているユウの顔を、ヴィンセントが覗き込む。

「……無理です」

 その顔を見られたくないユウは、慌ててシーツを頭からかぶり込む。

「……すみません」

「ヴィンスが謝ることないでしょ」

「ルーは……王太子殿下は同い歳でね、兄弟同然に育ったんです」

 ユウは(くる)まったシーツから、頭だけをスポッと出した。

「ルー、アート、レンと私。歳が近かったから、小さい頃は、四人、いつも一緒でした」

 どこか悲しげなヴィンセントに、キリリと彼女の胸が苦しくなる。

「やはり、きちんと伝えなかったのが、間違いだったのかもしれない」

 彼の、消え入りそうな声が聞こえた。

 

「私のせいだね、ヴィンスの大切な人たちを怒らせちゃったの。ごめんなさい」

 

(ヴィンスは、何も、悪くない。悪くないのに、何故、こんなにも辛い思いをしないといけない?)

 

 もう何度目かの自責が、ユウを罪悪感に縛り付ける。

 

「ごめん、ね。ヴィン……」

 ユウがそこまで口にすると、グイ、と引き寄せられた。

 ぽすん、とヴィンセントの胸に抱きとめられる。

「ユウは何も悪くないんだ。だから、何も気にしないで」

 

 大きな手で、そっと背中を撫でられる。

 まるで陽だまりのように温かい。

「慣れない馬車は疲れたでしょう。さぁ、今日は、もう、お休み」

 柔らかなヴィンセントの声が呪文のように響き、ユウは瞼をゆっくり下ろした。

 

 


 

今日のユウちゃん。

王様の次に、王子(オレ)様に遭遇。

…この方、当初は、こんなキャラ設定じゃなかったのですが…あれ?

何処で間違えた???


こんなおバカにお付き合いいただき、ありがとうございました。

そんなあなた様に、最上級の感謝を。



                              諒でした。

 

 

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