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黒の管理者  作者:
第一章
15/50

12.

 

 

 大きくて温かな手が、そっとユウの左手を包む。

 彼女はその温度に、ゆっくりと意識を浮上させた。

「起こしてしまったかな?」

 ベッドサイドには、同じ目線の高さに、儚げに笑うヴィンセントがいた。

 

「ジュディから、聞いたよ」

「ごめん、なさい。こんなにお世話になったのに……」

「ユウが気に病むことではない。そもそも、私がもっと速くに手を打てば済むはずだったんだ。辛い思いばかり……本当にすまない」

「そんな。私こそ、もっと早くにここを出てれば、ヴィンスがこんなに疲れちゃうこともなかったし、スティアートさんだって、あんなことせずに済んだのに……」

 ユウは、彼女に向ける、スティアートの、冷たく突き刺さる濃紺の瞳を思い出していた。

 

「ユウ」

「私、お世話になるばっかりで、ごめんね? 明日になったら、何処か遠くに行くから。だから、今日だけ、もう一晩だけ、ここに居させて?」

 泣きそうになるのをどうにか抑えて、ヴィンセントを見る。

 

「すまない、ユウ。その希望を叶えてやることも、私にはできない」

 ユウは、すぃっと目線を天井に移し、無意識に唇を噛み締め、涙を堪える。

 

「今回の騒動で、ユウの存在が、宰相をはじめ、上層の人間に知れてしまった。経緯が経緯なだけに、君に対する警戒は並々ならない」

 左手を包む大きな手に、力がこもる。

「即座に身柄確保の上、王城に連行せよ、と……」

 ユウがもう一度、視線を自身の左に向けると、視線の先にいた彼は、俯いて肩を震わせていた。

 

 彼らが言う“王家の森”に立ち入った彼女の身柄は、王城に連行されれば罪人のように扱われる事が想像に容易い。

 そうして、それこそ、彼女は元の世界に帰ることなどできず、この地で果ててしまうのだろう。

 

 ただ、寂しい、と言う感情のみが浮かんだ。

 もう逢えないだろう、向こうにいる人達に、別れを告げられないことが、彼女には辛かった。

 

 (……でも、もう、どうにもならない)

 

 諦めたくはなかったけれど、そうせざるを得ない状況に、彼女は哀しかった。

 

「わかりました。準備します。少し、時間を下さい」

 彼女は横たえていた身体をそろそろと起こし、左手を痛い位に握り締めるその手に、自身のもう一方の手をそっと重ねた。

「大丈夫。私なら、大丈夫だから……。ヴィンスが悪いんじゃないもの、貴方こそ、謝る必要はないよ。ね?」

 その言葉に、弾かれたように、俯いていた顔が上がる。

「今まで、護ってくれて、ありがとう」

 溢れそうになる涙を必死で抑え、ユウは目の前の、酷く憔悴した表情の彼に向けて、精一杯、笑って見せた。

 

 


 

ヴィンスからの旅立ちです。

雲行きはよろしくないですが、ユウは、敢えて辛いと思われる道を選びました。

…が、ここでもまた、運命のあやが…。


ここで、第1章の終了です。

次から舞台は王城に変わります。


次回更新まで、少しお時間を頂きたいと思います。

ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。

心優しいあなた様に、最上級の感謝を。



                           諒でした。

 



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